NHK札幌放送局

ローカルフレンズ:十勝 タウシュベツ川橋梁を撮り続けて

瀬田 宙大

2022年6月3日(金)午後1時04分 更新

地域活動に力を入れる人たちを紹介し、応援するローカルフレンズプロジェクト。コミュニティー活動や取材を通じて知り合った人たちのもとを私が訪ね、いまの活動やその人・地域の魅力を記録する「ローカルフレンズ訪ね旅」を今年度、不定期で始めました。
第1弾は上川町と遠別町を訪ねましたが、第2弾は十勝!
「ほとんどスーパーマリオですね!」とこの写真にコメントをくれたカメラマン。上士幌町糠平にあるタウシュベツ川橋梁を17年も撮り続けています。その思いを聞きました。

再会は士幌町の道の駅
しほろ商店街見える化プロジェクト

今回待ち合わせに選んだのは道の駅「ピア21しほろ」。

理由は2つ。
1つは、この場所でそのカメラマンの方と初めて出会ったから。
もう1つは、その人のもとを訪ねたいと思った理由もこの場所に行けばわかるから。

まず出会った経緯から。

この写真は去年4月、道の駅で撮影しました。
私の左隣。
青いダウンを羽織っている人が、今回訪ねたカメラマンの岩崎量示さんです。

当時、ローカルフレンズプロジェクトのはじまり、「ローカルフレンズ出会い旅」の初代フレンズを担当したドット道東代表理事の中西拓郎さん(岩崎さんの上に写る男性)と帯広を拠点に活動する野澤一盛さんが、この道の駅の運営会社の社長 堀田悠希さん(左端でピースサインをする女性)らと共に商店街の見える化に取り組んでいました。

その成果が…

「しほろよってく?マップ」(詳しくは関連記事)と名付けられた商店街を紹介するカードです。お店の看板メニューや特徴、商店主らの写真と情報が掲載されています。

今回の訪ね旅で紹介する岩崎さんは、カメラマンのひとりとしてこのマップ製作に携わっていました。その取材で、この場所で初めてお会いしました。

関連記事:ドット道東流の地方創生とは

そして、もうひとつ。
今回、岩崎さんのもとを訪ねたいと思った理由。
その答えが道の駅にあります。

こちらは岩崎さんが撮影した写真を使った商品のコーナー。
並んでいたのは、大雪山国立公園の山中にあるダム湖・糠平湖にある「タウシュベツ川橋梁」のポストカードや写真集です。

タウシュベツ川橋梁は1937年につくられたアーチ橋で、旧国鉄の士幌線で使われていました。廃線に伴い役目を終え、今はひっそりと佇んでいます。

岩崎さんはこの橋を17年にもわたり記録し続けているのです。

撮り始めたのは上士幌町糠平に移住した2005年、26歳の時でした。
当時はまだその存在があまり知られていなかったといいます。
「あと数年で壊れてしまう」と聞き、将来「見たかった」と思う人がいるのではないかと考えて撮影を始めました。

まずは圧倒的な迫力やすごさを単純に感じました。
橋自体の役割はもう何十年も前に終えていますが、その場所に取り残され、崩れるにまかされている様子に感じるものがあったんだと思います。
将来、きっと有名になる。
その時に記録が残っていないのはもったいない。
実際に見てみると、確かにあと数年でなくなってしまうかもしれない。それなら近くに住んでいるし、記録しようと思ったのが最初です。

「あと数年」「来年にはないかも」
そう言われて今年で17年

こちらは岩崎さんが橋を撮り始めた頃の写真です。

当時、岩崎さんは二つの予想を立てました。

①きっと有名になる
②あと数年で崩れる

一つは当たり、もう一つは外れました。

いずれ壊れる。
その時は自然に訪れる。
ただ、その時がいつなのかはわからない。
その思いから撮り始めた当時は毎日。
上士幌町から士幌町に引っ越した今も往復3時間近くをかけ、2~3日おきに通っています。

最も心配になるのは、春先だといいます。

凍っている時はいいんですが、いわば支えがなくなった春先にモロモロと崩れてしまうのではないか。今年も見ることができるのか。いずれ崩れてしまうことは間違いないので、毎年そんな思いがよぎります。
長く見ていると、やっぱりずいぶんと痩せたなと思いますね。

四季折々の姿を見せる「幻の橋」

タウシュベツ川橋梁は季節ごとにその姿が変わります。
春先は糠平湖の水位が低く、橋の全貌を見ることができます。

カメラマン岩崎量示さんが撮影した写真でその変化を見ていきましょう。

夏になるにつれ、水位が上昇します。

水位が多い時には橋の姿はほとんど見えなくなります。

また、時間帯でも雰囲気が変わります。

空の色で表情も大きく変わります。

夜には。

そして、秋。

冬。

この場所に調和しながらも圧倒的な存在感を放つ橋。
岩崎さんが撮り続けてしまう気持ちがよくわかります。

お話を伺いながら興味深かったのが、カメラマンに「なった」というお話でした。

橋の写真を撮り始めたころ、岩崎さんは糠平の温泉宿に住み込みで働いていました。もともと写真は好きだったといいますが、橋を記録したいという思いから機材をそろえ、技術を学び、結果カメラマンになったというのです。

橋のそばで私はこんな声を掛けました。

「橋と共にいきているんですね」
「心配する様子が旧知の仲に語り掛けるようですね」

でも、岩崎さんから返ってくるのは「言われてみればそうかもしれませんね」という答え。被写体として客観的に見ていたいという思いがあるのかもしれないなと感じました。

訪ね旅:取材後記
同じ時代を生きているからこそ

岩崎さんと共にこの場所に訪れたのは5月21日。

糠平湖の水位はまだ低く、ダムの底に沈んだかつての森の跡を歩き、橋に向かいました。

徐々に橋が見えてきます。
その様子は遠目で見るのと近づいて見るのとでは印象が変わります。

距離を置いて初めて橋を見た私は、「思ったよりもしっかりしているな」と、力強さを覚えました。

しかし。

間近にするとこの様子。
精一杯その姿を保っているという印象です。

橋の下に入らないよう、ロープが張られています。

最も近づけるのは、橋の両端。
帯広側に向かいます。

橋の幅が狭いことに驚きますが、現役当時とそう変わらないといいます。

すると岩崎さんが、落ちていたコンクリートの破片を拾います。

両手で持って、少し力を入れると…

簡単に割れてしまいました。
確実に劣化は進んでいます。

岩崎さんは「現役時代はこの橋をこうしてみることはできませんでした。ダムに沈み、生きている時代が偶然重なったからこうして私たちは橋を見られるんです。それは幸運だと思います。ただ、いずれ崩れることは間違いありません。見たくても見られない人がいるんです。そういう人に、せめて写真で存在を感じてほしい。そして、この地域の歴史を知る一つのきっかけにしてほしい」と話していました。

その上で、「今後、北海道にはこういう場所が増えていくのではないかなと思っています。廃線になってしまっても、その地域には鉄路と共に生きた人や歴史が刻まれています。そうしたものを後世に伝えていく一つのフォーマットに、タウシュベツ川橋梁の記録写真がなったら嬉しいと17年撮ったいまは思っています」と語りました。

「17年撮るって改めてすごいですね!」

そう岩崎さんに伝えると、「でもあと数年といわれていたから撮っただけです。十数年と言われたら撮らなかったかも。あるいは、もともとカメラマンだったらいい写真を撮って、写真展を開いたり写真集を発行したらやめていたかも。不思議ですね」と笑い声と共に返ってきました。

崩れてしまってからが橋の記録や歴史を伝える本当の仕事が始まると語る岩崎さん。26歳で始め、43歳になった今も続ける撮影は、その仕事のためのプロローグでしかないと語る姿が印象的でした。

今の時代をどう生きるのか。
深く考えさせられる時間でした。

2022年6月3日 瀬田宙大

関連記事① 十勝に行ってきました~!
関連記事② ローカルフレンズ訪ね旅はじめます!
ローカルフレンズプロジェクト 詳しくはコチラ

≪タウシュベツ川橋梁 訪問の注意点≫

看板にある通りですがヒグマ出没ポイントでもあります。
ガイドツアーなどもあります。
事前に上士幌町のHPを確認するなど、事故が起きないようルールを守って訪れるようにしてください。

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