NHK札幌放送局

ほっと通信(77)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2019年10月29日(火)午後7時10分 更新

先日放送した「彫刻と“こころ”時空を超えて」。彫刻家の安田侃さんが大切にしている取り組み「こころを彫る授業」を中心に、安田さんの心に迫りました。 

安田さんのふるさとにある「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」。
ここにはどこかで見覚えのある作品が…。

この形でお分かりかと思いますが、JR札幌駅の西コンコース南口にあるな大理石の彫刻「妙夢」です。美唄にあるのはブロンズ版。こんなにも表情が変わるのですね。
ここに座って記念撮影をする子どもたちのまねをして私も座ってみました。安田さんは「大地に触れる安心感のようなものがある」と自らの作品について話していますが、確かに、自分もこの場所の一部になったような不思議な感覚がありました。

今回の番組の冒頭は札幌駅の西コンコースにある「妙夢」で安田さんと待ち合わせをするシーンからスタートしました。いつかお話をする機会があるなら、この場所で待ち合わせをしてみたいという私の密かな夢をかなえてもらいました。

多くの人の往来をも守ってきたこの「妙夢」。
安田さんに込めた思いを伺いました。

ほとんどの人が彫刻とかモニュメントって意識さえないですよね。札幌駅に行ったらあそこに大きな石があったなぁ、穴が開いているのがいつもあるよ…みたいなね、一日何十万人通って、ひとりひとりが夢を持っているわけじゃないですか。この何もない空間にそれぞれの夢を描いてほしい

自分たちが暮らす街に自分の夢を投影する。
素敵ですね。

安田さんはこの札幌駅の妙夢の前でもうひとつ興味深いことを仰いました。駅の改札を出て、人の頭の上にわずかにみえる妙夢を確認して毎回、安心するというのです。あって当たり前と思う人もいるはず。その真意を伺うと…

激動の時代にそこに在り続けることは大変なこと。来るたびにまだあるなと確かめる自分がいる。当たり前だとは思ってはいけない。これの価値が試されるのはこれから。将来、このビルがなくなる時が訪れたとして、その時に生きている札幌市民が妙夢を必要だと言ってくれるかどうか。そんな未来をあれこれ想像しながら今はまだあるなと確認するんです。

なるほど。
「しっかりやっているか」と我が子を思う親心に似た感情と、自分の仕事を確認する職人としての想いが同居しているということなんですね。時空を超えた彫刻をいくつも目の当たりにして、自らもその挑戦を続ける安田さんらしい言葉だなとこころに残りました。

イタリアを拠点に世界で活躍する安田さん。年に数回、自ら考案した「こころを彫る授業」の特別講師を務めています。ことしは 10 月 3 日~5 日に開催されました。今回、私もお時間を頂き、数々の作品を作り上げながらふるさとに思いを寄せる安田さんの「いま」をほっとニュース北海道でお伝えしました。


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【彫刻は時空を超えるもの】 

安田侃さんは美唄市出身の 74 歳。
大理石とブロンズの彫刻作品を数々世に送り出してきた彫刻家です。
JR札幌駅にある安田さんの代表作のひとつ「妙夢」は駅の南北をつなぐコンコースに置かれていて、多くの人が待ち合わせに使っています。
安田さんは「何もない空間に多くの人の夢を描いて欲しいが、それ以上に日常に違和感なく溶け込んでいることが嬉しい。ただ、作品の意図や作者が誰かまでは知らなくてもいい」と言います。
その理由を尋ねると「イタリアでは彫刻は1000年、2000年という歴史とともに語られるもの。主役は作者よりも、その時代に生きている人たち。時代時代で何を感じてもらえるのか、普遍的なものを宿してさえいれば残るし、そうでなければ衰退するもの。その時間軸で考えれば私の名前などは重要ではない」と話しています。

【”こころを彫る授業”とは】 

安田さんのふるさと・美唄市には「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」という、安田さんの彫刻作品が屋内外におよそ40点集められた美術館があります。
もともとは地域の小学校でしたが、炭鉱の閉山で閉校になり、約30年前、ここをアトリエとして借りようとした安田さんが”子どもたちのために”と彫刻を置き始めたのがはじまりでした。
今では7万平方メートルもの広さにまでなりました。
ここで毎月第1土曜日、日曜日に開かれているのが安田さんが考案した「こころを彫る授業」です。
イタリアの大理石などをノミと金づちで自らの心の形に彫り進める授業です。
普段は美術館のスタッフが講師を務めていますが、安田さんも年に数回だけ講師を務めます。
安田さんが次回、この授業の講師となるのは来年の予定です。
安田さんは「自分の力だけで彫ったものは自分の証になる。うまい下手、いい悪いを超えて、誰と比べるでなく自らと向き合ったこころは生きている自信につながると思う。激動の時代だからこそ美唄の自然に抱かれて”こころ”に向き合う時間を大切にしたい」と語りました。
授業に参加した人たちは「自分が傷ついたり、悲しかったことを大理石を綺麗にしながら整理することで自分の心もまるくなった気がする」とか「心情が毎日変わるのと一緒で、なりたい”こころ”が毎年変わるので通っています」と感想を口にしていました。

【74歳の安田さんの夢】 

「時空を超えて在り続けることが彫刻の仕事だ」と話す安田さん。
ふるさとに設けた美術館が、長い時を経ても人々の中で生き続ける場所になることを願っています。
その上で「炭鉱があって、私が子どもの時にはとても栄えていて、賑わいがあった。幼少期の生きてることが楽しいということを体験させてくれた、育ててくれた街でもある。この場所が子ども達にとって大切な場所になれば、ふるさとへの恩返しになる」と静かに語りました。
インタビューの中で、安田さんは彫刻家としての集大成となる作品を生み出したいと語りました。
印象的だったのは「努力で生み出すものではない。ある瞬間、ふと出会うもの。この15年、向き合いながらもなかなか“ドア”があかないが、そのヒントもふるさと美唄にあるような気がしている」と話したことでした。
安田さんが何を私たちに見せてくれるのか、その日を楽しみに待ちたいと思います。

安田さんと初めてお会いした日。「どんな人にインタビューされるのかと思って番組を見たけど、全然笑わないね。いまこうして直接話している感じの方が柔らかい印象でいいのに。もったいないよ」とあいさつの直後に言われました。その時の安田さんの朗らかな笑顔はすべてを包み込むアルテピアッツァ美唄に流れる空気そのもの。
取材の中で「こころを彫る授業」に長年通っている人たちが「ここには神様がいる」「落ち着くという言葉ではあらわせない穏やかな気持ちになれる」「…なんか、足が向かうんですよね」と話していた意味が、安田さんと話す回数が増えるたびに、アルテピアッツァに通う回数が増えるたびに、深く理解できるようになりました。

札幌をはじめ国内外にある安田さんの彫刻。今後、各地で触れるたびに安田さんを思い出し、美唄の空気を思い出すのかと思うと人生がまた豊かになった気がしました。

それでは、また(^^)/

(2019年10月29日)



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