NHK札幌放送局

テレビの限界と可能性 ローカルフレンズが見せてくれたのはメディアの未来だった

瀬田 宙大

2022年10月28日(金)午前10時44分 更新

今月、必要に迫られてテレビを買い替えたのですが、スゴイですね!今の「テレビ」って。
購入したのは2006年以来16年ぶり。進化に驚きました。
もはやテレビというよりは、テレビ“も”見られる電子機器を慣習から「テレビ」と呼んでいる印象を持ちました。ネットとの境界線は融解、リアルタイム視聴の必要性や制約も解消。数多ある動画の中から、趣味嗜好や情報性、クオリティーなどを軸に「テレビ」の中からコンテンツを自由に選べる時代に。購入する為に実機をトコトンさわったことで「ここまできていたか」とテレビ屋として頭が痛くなりました・・・。
でも、そんな時代だからこそ、この評価は改めてすごいことなんだと思っています。今回はローカルフレンズ滞在記がグッドデザイン・ベスト100に選ばれたことについてです。

そもそものお話
ローカルフレンズ滞在記とは

「ローカルフレンズ滞在記」は、地域にディープな人脈を持つ人=ローカルフレンズのもとにNHKの職員が1か月間滞在して、フレンズの案内のもと地域の宝を探し、NHKの放送とWEBでその宝を紹介するものです。

北海道各地の人たちとの共創を柱に、NHK北海道が掲げる「超ローカル宣言」の一丁目一番地の1つともいえる企画で、さまざまな分野で暮らしや社会を豊かにするすぐれたデザインを表彰するグッドデザイン2022のコミュニティづくりの取り組み・活動の分野でベスト100に選ばれました。

審査委員は「その地に暮らす人が主体的に番組作りに携わり、観光ではなく日常の風景を丁寧に切り取る番組で、ある意味ニッチな地域の情報をすくいあげて地域そのものの活動をエンパワーしていく好例」と評価。地域の人たちとつくるという共創の仕組みと実績が認められました。

番組についてより詳しく知りたいという方は、広報局のnoteに掲載されているNHKのローカル番組がグッドデザイン・ベスト100を受賞した理由という記事をご覧ください。

プロジェクト初期メンバーも受賞
地道でコツコツがローカルをつくる

番組がグッドデザイン賞に選ばれたことに加えて、実はもう一つ嬉しいことが!
プロジェクトの初期メンバー二組もそれぞれ今年度受賞したことです。

一組目は、ドット道東が中心となり取材し、環境省が発刊した地域住民向けの冊子「自然の郷ものがたり」。このうちドット道東の代表理事・中西拓郎さんは、滞在記の前身でプロジェクトの原点「#ローカルフレンズ出会い旅」で初代ローカルフレンズを担当しました。

冊子は阿寒摩周国立公園で暮らす人たちの記録となっており、審査員は「観光地ながらインナーブランディングに目を向け、短絡的な収益や観光集客ではなく、互いに支え合い、応援し合える関係性をは育むことで、地域の未来をともにつくりだす羅針盤にもなりうる」と評価しました。

左から「ドット道東」代表理事 中西拓郎さん・ローカルフレンズ企画 さのかずやさん・瀬田/オホーツク流氷館 天都山展望台 2020年1月撮影

もう一組は、出会い旅「道東は世界一な件」に登場した北見市の企業です。

オホーツク地方も酪農が盛んな地域。乳牛を育てる牧場が多く、牛の尿は処理に苦労するいわば”やっかいもの”でした。北見市の企業は、その牛の尿を活用して消臭液や土壌改良材を製造。”やっかいもの”を価値に変える取り組みと、背景やアップサイクルを伝えるブランディングが高い評価を受けて受賞しました。

手前から瀬田・環境大善 会長 窪之内覚さん・息子で社長の窪之内誠さん・中西さん・さのさん/タンクには牛の尿を処理した液体 2020年1月撮影

2020年1月の撮影で、中西さん、北見市の企業の社長・窪之内誠さん、ロケにも帯同したフレンズ企画者のさのかずやさんは、それぞれ現地で印象に残る言葉を残しています。
その言葉は、広報局のnoteに掲載されている私の記事「どうせ転勤するんでしょと言われた私が 愛と覚悟を決めて“超ローカル宣言”してみた件」でも少し触れた、「活動者に伴走する姿」そのものとも言えるかもしれません。

中西拓郎さん
やりたいことをやれる人が増えればいいなと思っている。その為にも、まずは実践者がつながり、相互に応援し合える環境をつくることが重要。自治体の境界線で区切るとローカルの場合、活動者が少ない地域や活動を始めたばかりの人しかいない地域では”孤立”につながる恐れがある。続けるためにもつながることが大切で、その実現には移動に時間がかかっても会いに行くことが近道。北海道、とりわけ自分は道東でそれを続けたい。
窪之内誠さん
東京から北見まで来るのは、ある意味で海外に行くよりも時間も旅費も気候もハードルが高いと思っている。でも来るだけの価値、魅力はある。そのことを中西君やさの君は伝えようとしてくれている。それを知ったら、僕らも努力したいと思うのは必然。例えば東京や大阪など大きなマーケットに製品をもっていくときに、オホーツクにも酪農家が多いことや、そうした地域の悩みの種であるし尿を活用したアップサイクルの取り組みがオホーツクにはあることを伝えて、地域の社会課題を一緒に解決しましょう!仲間になってください!と声をかけていきたい。モノを売るのではなく、モノを通してローカルの魅力を見えるようにすることが、自分たちにもできる地域の発信だと思っている。
さのかずやさん
人口はたしかに減っていくが、その中で熱量のある人の割合を減らさないことや増やしていくことが単純な数の増減よりもはるかに大事だと思う。さらに、住んでいなくても地域や地域活動に対する熱量を持っている人は数多くいるので、人と人、人と地域をうまくつなげていきたい。

メディアから伴走者へ
限界と可能性

ローカルっておもしろいですよね。

こうした記事を書いている今も、未来をつくろうとコツコツとものごとを積み上げている人がたくさんいて、そういう人たちのすぐそばには寄り添いながら応援する人たちがいる。少なくとも北海道にはそのような構図が見えてきています。

その現実に触れて、メディアから地域に飛び込む人も数多く出てきています。
そのひとりが、在札 民放アナウンサーから弟子屈町に飛び込んだ川上椋輔さんです。

”町公認アナウンサー”地域おこし協力隊をはじめ数多くの肩書をもつ川上椋輔さん/弟子屈町川湯のビジターセンター 2020年11月撮影

「傍観者ではなく、当事者に」
ちょうど2年前、その思いを熱っぽく語ってたことを覚えています。

当時公開していたWEB記事から一部引用します。

アナウンサーになってわかったのは、「やりたいこと」と「在りたい自分」とに差があったということ。アナウンサーという仕事はものすごく好きだが、こう在りたいという生き方、自分ではなかった。客観的な立場を求められる傍観者ではなく、共に悩み、共に価値を生み出す伴走者であり、仲間でありたい。
新型コロナの感染拡大で人と会うこと、取材に制約がかかり、傍観者でさえいられなくなったことで地域に飛び込むことを決めた。

当時は緊急事態宣言が出され、人と距離を置くことが求められ「もどかしさ」を誰もが覚えていたと思います。
私も当時はローカルフレンズ出会い旅が始まったばかりにもかかわらず旅に出られないという事態に陥りました。苦悩の結果、フルリモートで制作する旅番組「オンライン旅」が生まれるなど時代に合わせた発明もありましたが、やはりリアルに勝るものはありません。

そうしたことから川上さんの考え、選択にはものすごく共感しました。
自分も同じような選択をする可能性はあるなと思ったことも強烈に覚えています。

でも同じ選択をしなかったのはNHK、とりわけ「超ローカル宣言」を掲げて地域に向き合うNHK北海道の一員だったからだと思っています。

特にローカルフレンズ プロジェクトのような共創の中で、「地域をよくする」ことを共通の目標座標とすれば、メディアも地域の人もなく、お互いに刺激したり、指摘したり、補いあったりしながら歩みを進められる。そう実感できていたことが大きかったと思っています。

「川上くんが弟子屈に移住してからまだ会えていなかったので」と車を運転して北見から駆け付けた中西さんと/2020年11月撮影

川上さんの選択とその後の目覚ましい活躍にはいつも驚かされ、覚悟を決めて地域に飛び込んだ彼の生き方には羨望や敬意を覚えています。
一方で、彼との弟子屈での対談は、同じ道を選ばなかった自分がメディアに残り何ができるのかという大きな宿題をもらったような気もしました。

明確な答えはまだ持ち合わせていませんが、少なくともこのプロジェクトは「このままではだめだよね」とある種の”限界”を示し、足元を見つめなおす機会を私たちに与えるとともにテレビやメディアの可能性を示してくれたもの。それをより推進するために自分ができることは全力でやるというのがいまの思いです。

機械としてのテレビの多機能化に加え、暮らしも多様化する中で、見てもらえる、支持される、地域の未来にとって役に立つ番組となることが大きな目標であり、プロジェクトを継続する上で欠かせないポイントです。

いまも精一杯やっているつもりですが、全道各地で活動する人たちのもとを訪ね、新たな出会いを積み重ね、一緒にいろんな共通目標をつくって取り組んでいかなければですね。頑張らないとっ!

そんな思いを新たにしたタイミングで偶然NHK北海道の採用サイトが公開されました。制作は北海道のインプロバイドという会社。以前、フレンズプロジェクトについて意見交換をさせていただいたことがあるコピーライターの池端宏介さんも所属しています。

道東で躍動する人たちの存在への敬意と、私たちの取り組みへの関心をことばで表現してくださっています。

地域でがんばる人を「ローカルプレイヤー」と呼ぶ。
つくるひと、育てるひと、発信するひと。
何かやっているひと、全員が北海道のプレイヤーだ。
組織であれ個人であれ、きっと価値を生み出している。
道内7つのまちのNHKではたらくこともきっと、
その地域への小さな貢献だ。
番組づくりから、“地元のおもしろさ”づくりへ。
さあ、NHKから、地域へ飛び込め。

地域への小さな貢献。
地元のおもしろさづくりを一緒に。
私たちも地域のローカルプレイヤーに!
言語化していただき感謝です!!

みなさんのまわりにNHK北海道に関心がある方がいらっしゃいましたら、11月2日までインターンの募集も行っていますので、ぜひサイトをご紹介ください。よろしくお願いいたします。

放送はゴールではなく通過点
NHKも地域づくりを目指す仲間に

そろそろ結びに。

去年4月にスタートした滞在記も、昨夜最終週の放送を迎えた枝幸町で15エリア目。現在事務局では、この冬の滞在先の候補として、道東や後志の方々と打ち合わせを重ねています。

滞在記の前身の出会い旅から数えて2年半あまり。
放送を通じて全道各地のフレンズや、フレンズが紹介してくれた”フレンズのフレンズ”など、地域活動に取り組む多くの人たちとつながることができました。

そのつながりは今も続いています。

たとえばイベント。
去年、札幌局には各地のフレンズが集結!

NoMaps2021に登壇者として参加し、それぞれの経験や考えを発表。写真は、そのアフタートークという形で、NHK札幌放送局1階の公開スタジオでNHK主催のイベントを実施した時の様子です。

こうしたリアルイベントは今年も実施します!
12月9日(金)午後6時半から。
テーマは「仲間づくりは泥まみれ~ドット道東とローカルフレンズ・進化する地域ネットワーク~」
地域の仲間づくり、ネットワーク形成に関心がある方には刺激的な内容になると思います。予定があいそうな方はぜひお越しください!

お申し込みはコチラ▷トークイベント「仲間づくりは泥まみれ~ドット道東とローカルフレンズ・進化する地域ネットワーク~」※11月23日締め切り

また、放送でも。
ローカルフレンズは公募制。地域について紹介したいという熱い思いとネットワークをお持ちの方からの応募を基本としています。

滞在記では月に7分前後の地域発のリポート4本をほっとニュース北海道で放送後、30DAYSというタイトルで1か月間を25分にまとめた番組を滞在翌月以降に放送しています。

さらに、滞在記終了後、年に3回ほど地元の取り組みを自ら取材し、放送で伝えるローカルフレンズニュースも担っていただくことで、滞在記で紹介した取り組みや人のその後、滞在中にはなかった地域の新たな魅力も発信できるような仕組みになっています。

地域の魅力をより広く伝えたいと思われている全道各地のみなさんからのご応募、お待ちしています。

2022年10月28日 瀬田宙大

≪関連記事≫ 
「やっと地域の人になれた」異例ずくめの挑戦を続けるローカルテレビ局が見つけた、メディアの新しい役割(2021年3月31日 地域の情報を数多く掲載する「ジモコロ」のサイトで公開中) 
https://jimocoro.heteml.net/ch/jimocoro/entry/kikuchiyuriko02


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