NHK札幌放送局

#ローカルフレンズ (40)

瀬田 宙大

2020年12月1日(火)午後3時07分 更新

道東に”新星”誕生!という報せを聞いて、弟子屈町に会いに行って来ました。地域おこし協力隊で、インターネットで地域情報を精力的に発信する道東テレビにも所属する川上椋輔くんです。「彼と対談する」と一報をしたところ、北見市からドット道東の中西拓郎くんも駆けつけてくれました。ドット道東といえば、先日「.doto」が日本地域コンテンツ大賞の地域創生部門で最優秀賞を受賞しましたが、実は川上くんの生き方にも影響を与えたライフスタイルガイドブックです。“未来の地域を創ろう”と取り組むふたりと話して感じたことをあれこれまとめてみました。

本題に入る前に、そもそもなぜ対談することになったのかという話を手短に。
私がキャスターを担当している、NHK北海道のニュース情報番組ほっとニュース北海道では、現在、特集「チェンジ」と題して、新型コロナで変化が迫れる時代に新たな挑戦をする人をシリーズで取り上げています(特設サイトはこちら)。

アナウンサーや記者、カメラマンなど様々な職種の人がいま伝えたい地域の動きを自ら取材して提案・制作していて、私もこれまでに3人の取り組みをお伝えしてきました。

厚真町を和牛メゾンにしようと、金融に詳しい起業家と畜産に詳しい人たち、そして厚真町がタッグを組んで進める105年計画の超ビッグプロジェクト。なぜキリの悪い105年なのかなど、詳しくはこちら

十勝を拠点に、キャンピングカーによる旅をホテルや旅館に並ぶ「第3の選択肢」に押し上げようという男性の取り組み。いわゆるキャンピングカーの旅ではなく、車両の企画・製作から、専用のキャンプ場整備までを進める様子をお伝えしました。詳しくはこちら

津別町の家具メーカーの三代目が新会社を設立して、家具の輸出コンテナにどうしてもできる「隙間」を活用した複数企業相乗りの輸出、一般的には小口混載といわれる取り組みについてお伝えしました。地域の小さな企業でも世界進出のファーストステップを踏める可能性がある取り組みの最新状況を伝えしました。詳しくはこちら

厳しい時代ですが、今回お話を伺った皆さんは本当にいい顔をしています。
何かを生み出す人の共通点と言えるかもしれませんね。

そして、今週木曜日に、シリーズ「チェンジ」で冒頭の写真にも出て来た川上椋輔くんをご紹介します。在札幌民放の元アナウンサーで、自転車にまたがり全道を駆けめぐっていた彼です。

「マイクをつけるのは久しぶり」「取材を受けるのは新鮮!でも緊張!!」と、矢継ぎ早に言葉を紡ぎ笑顔を見せた川上君。さすがにピンマイク、つけられ慣れていますwww

待ち合わせをしたのは、川湯温泉の足湯。

地域では当たり前の温泉資源への感動を何度も口にしたのが印象的でした。地元の人の当たり前を魅力として、そして資源として熱い視線を送り、素直な感動を的確に言葉にするあたりに地域おこし協力隊×札幌からやってきたアナウンサーの彼らしさを覚えました。その延長線上には川上くんが体現しようとしている”町公認の広報アナウンサー”という新たな肩書きへの説得力と、我々アナウンサーの新たな生きる道を見た気もしました。

川上くんは、はじめて会った時からなぜか「くん」付で呼んでしまいました。
自然とこちらの胸襟が開いていく不思議な力の持ち主です。

私以上にそのことを実感していると話すのが、川湯温泉の宿泊施設を経営する榎本竜太郎さんです(右から二人目)。今回は榎本さんがコロナ禍に新たに取得したホテルの中で、再オープンへの思いを伺いました。このホテルは営業を停止していましたが、地域の再起につながると榎本さんは考え、来年のリニューアルオープンに向けて準備を進めています。川上くんは、この休業中のホテルから生ライブ配信をして、地域の未来について榎本さん達と語る取り組みなどもしています。

ホテル内で二人と話をしながら、川上くんがアナウンサーをやめてでも地域で何をしたかったのか。その欠片を知ることになりました。
榎本さんは「新しいことを仕掛けないとなかなかメディアに取り上げてもらうことができない。次に何をすればいいのかと思う日がある。一方で川上くんはいつも一緒にいて、つぶさに変化や動きを記録して発信をしてくれようとしている。寄り添うメディアの形に励ましをもらっている」と言います。川上くんも「一緒にいるからこそ様々な変化にふれることができる。そうした小さくとも確実な一歩を知れば知るほど、そこに価値を覚えるし、いつか振り返ると大切なピースになっている。ただ、それを伝えているだけ」と、特別なことではなく、それが日常であることを喜びとして教えてくれました。

場所を移して対談。

私の素朴な疑問は、地域で何を実現したかったのか。
そして、なぜやめようと考えたのか。
それは、対談の中ですぐに明らかになりました。
聞いたことを私のフィルターを通して要約するとこんな感じです。

宮城県出身で、幼いころから漠然とアナウンサーへの憧れをもっていたという川上くん。メディアを、そしてアナウンサーを仕事として強く意識したのは東日本大震災だったといいます。そして、実際にアナウンサーとして働きはじめて向き合うことになった胆振東部地震。スポット的にしか現地に行くことができない、放送として伝えることができないことにモヤモヤが募っていったといいます。そして、その糸が切れたのが新型コロナウイルスでした。

アナウンサーになってわかったのは、やりたいことと在りたい自分とに差があるということだったといいます。アナウンサーという仕事はものすごく好きだけど、こう在りたいという生き方、自分ではなかった。客観的な立場を求められる傍観者ではなく、共に悩み、共に価値を生み出す伴走者であり、仲間でありたいという自分がいることがわかった。それでも、アナウンサーという仕事にやりがいも感じて、一生懸命取り組んできたが、新型コロナウイルスで取材制限がかかるなどして、傍観者でさえいられなくなってしまった。これでいいのかという葛藤の中、自らが在りたい生き方を選び地域に入った。

私はそう理解しました。

川上くんは現在、25歳。
私のひとまわり下で、同じ亥年。
彼がまっすぐな目で語る「生き方」に、私の心はものすごく刺激を受けました。ずいぶん大きく太い杭を打ち込まれたような感覚とでもいいましょうか…。覚悟を決めたひとりの青年の言葉は強かった。同時に、彼が辞める際に、元同僚のアナウンサーがそれぞれのtwitterに彼への思いやエールを熱く書き記していたのを思い出しました。中には私と同じような感覚を覚えた人もいたのではないでしょうか。

アナウンサーとは不思議な仕事です。
私もそうですが、何かと「アナウンサー」という肩書きで語られ、いつしか公私がなくなり、常にアナウンサーでしかない自分がいるような感覚になることがあります。放送でのコメントも制作陣との総意としての言葉と、取材経験、パーソナルな思いのバランスをとりながら言葉を練り上げて喋るようにしていますが常に平均台の上を歩くような感覚です。しかし、彼が発する言葉はパーソナルな思いを先に立たせつつ、アナウンサーでもある。そんな印象で、アナウンサーという肩書きは背景でしかない印象を受けました。それは現場にいる強さであり、自信がそうさせるのだと思いました。取材し、放送をつくることで言葉に力を持ちたいと思い走ってきた私の働き方の10年と、彼のこの1ヶ月半の濃密な時間は、経験として等価であるのかもしれないと感じたのでした。全ては現場にあるということでしょう。

刺激が多く、書き残しておきたいことはたくさんあります。印象深い彼の言葉を延々とここで紹介することもできますが、ぜひ、彼の声で、彼の思いを多くの人に聞いて欲しいと思っています。放送は、今度の木曜、12月3日のほっとニュース北海道です。

なお、この対談をセッティングしたのは #ローカルフレンズ出会い旅 でおなじみのオオスミD(写真右端)です。川上くんの番組の編集も担当します。地域に飛び込み、生きることを選んだ川上くんの姿はほっとニュース北海道だけではなく、年明けの北海道道にも展開予定です。道道については、また近く情報をお伝えします!

ところで…。

この対談にはゲストも。
「川上くんとまだ会えていないので行きます」と駆けつけてくれた、中西拓郎くんです。

実は、川上くんが道東に飛び込むきっかけのひとつをつくったのがドット道東が製作した「.doto」でした。これは、各地域で生きる人たちを繋ぎ合わせ、それらがやがて線となり面となる-そうして道東というエリアが浮かび上がるという理念を掲げる彼らが、クラウドファンディングを活用してつくったアンオフィシャルガイドブックです。

ガイドブックの地方創生部門の最優秀賞は、当人たちだけではなく地域の多くの人にとって嬉しい出来事なのだと実感することができました。

例えば、網走の飲食店では。

近い将来 道東で暮らすことを 日本中からうらやましがられる

素敵なポップ付きで紹介されていました。

こちらは #ローカルフレンズ出会い旅 #道東は世界一な件で立ち寄った北見市のカフェバー。

#知床と清里にほれこむ件 のフレンズでもあるピエさんが経営しています。
このお店では入り口に置かれていました。

さらに、津別町にも。

道東を誇りに思い、道東を知って欲しい

そう書かれた手書きのポップとともに、特集「チェンジ」でもお伝えした、道東を世界に輸出したいと取り組む「隙間輸出」の山上さんの家具のショールームで撮影しました。

関係性が近い人たちのお店とはいえ、これだけの人たちが喜びを表現していることに、the DAYのページの取材に同行した一人として鳥肌が立ちました。

当の本人は、どう捉えているのか。
話を聞くと、受賞結果を伝えた公式Twitterの投稿の引用リツイートの多さを挙げてこんな答えが返ってきました。

自分ごととして捉えてくれる人が多かったことが嬉しいです。道東へのアイデンティティーが少しずつ育ってきている。道東が自分ごとになってきているという印象を前よりも持つことができました。そして、地方創生部門の受賞についても、純粋にプロダクトや目指していたことが評価されていて、そのことが本当に嬉しかったですね。

確かに、12月1日午前10時の時点で235のリツイートのうち134が引用リツイートと言われるもので、それぞれがコメントを書き加えてこの受賞を喜んでいました。
“関わり代(しろ)の大切さ”を常に口にしている中西くんは、製作だけではなく受賞においてもその点を大切に話をしていました。一貫していますね。

何事も形になるまでに10年はかかると思っている私。もの凄いインプットとアウトプットを繰り返し、地域で格闘する中西くんや川上くんと10年後に、ここ川湯で10年を振り返り、次の10年の話をしたいなと思った幸せな一日でした。

2020年12月1日

#ローカルフレンズ出会い旅 まとめページはこちら


関連情報

今夜フレンズが道道に堂々登場!

瀬田 宙大

2021年1月15日(金)午後1時29分 更新

#ローカルフレンズ(34)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2020年9月25日(金)午後3時36分 更新

ほっとニュース通信(43)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2019年2月7日(木)午後6時00分 更新

上に戻る