余市町に新たなブランド牡蠣が誕生。ワインで知られる余市の新たな名物として期待されており、「余市牡蠣」と名付けられました。
初出荷を前に試食した町内の飲食店やワイナリーからは好評の声が相次いでいます。初出荷は6月10日。今年度は3000~4000個の出荷を見込んでいます。
どのような味か。そして、養殖事業の狙いは。余市の今を取材しました。
ローカル×ローカル
ワインの町の牡蠣とは

今月12日、余市町のワイナリーで余市牡蠣の試食会が行われました。
集まったのはワイナリーや飲食店などの代表です。

自ら生産しているワインをはじめ、町内のワイナリー自慢の味とのペアリングを確かめました。余市ではワインを中心に地のものとセットで楽しむ「余市スタイル」を提唱し、今後PRしていく予定。
この牡蠣はその第1号。
ワイナリーの評価も気になるところです。

どのような味わいなのか。
私があれこれ表現を駆使してお伝えするよりも、この会場でお話を伺った町の6人の声をご紹介したほうがリアルに伝わると思いますので、まずはその声からどうぞ。
★仁木町出身で余市町のワイナリー「ランセッカ」の山川惇太郎さん。ご自身も牡蠣がお好きなようで、ワインとの相性を教えてくださいました。

結構さっぱりしているというか、塩味が生きる感じがします。
こっくりした感じのワインとも相性がよさそうな印象を覚えます。
余市に牡蠣というイメージがなかったので、余市でもできるんだなと思いました。気軽に食べられるようになったら個人的にも嬉しいですし、広がってほしいです。これをきっかけにまた新しい余市のファンが生まれ、牡蠣はもちろん、ほかの食材やワインにも新たに関心を寄せてくれる人が出てきたら嬉しいです。
★この試食会の会場となった「ワイナリー夢の森」の大下聡さんは皆さんが集まる前に特別に味見をしました。

塩味がきいてますね。
確かに甘い。噛めば噛むほど味がしっかりしてきます。
余市のワインであればいろいろ合いそうで、楽しみです。
町が盛り上がるきっかけがまた一つできたのが嬉しいですね。
★「余市リキュールファクトリー」の寺尾光司さんは新たなリキュール開発の意欲がわいたと話します。

美味しかったです。
私のお酒はちょっと甘めなんですけど、この牡蠣にあうお酒を新たに開発していきたいなと思いました。ちょっと癖の強いものや香りの強いものとあうかどうかも試していきたいです。
ワインも意外とクセの強いもの合うのではないかなと感じました。
余市の食とお酒の幅がまた広がって、嬉しいですね。
★余市町でレストランや農園を経営する「ソウマファーム」の相馬慎吾さんは、料理人としてその味に太鼓判を押しました。

うまいです!
ミルク成分もあるんですけどそれがちょうどよく、噛んでいくと甘みが強く出てきます。そして塩味もしっかりきいているので、うまみが長く持続します。どのワインと合わせようか楽しみになります。
これまでとはちょっと違う、新しい牡蠣だと思っていいんじゃないですか。
★牡蠣をメインターゲットに余市の海産物にあう新たなワイン「オストレア(ラテン語で牡蠣)」を今月発表したワイナリーの代表・平川敦雄さんは。

小粒なんですけど味わいが凝縮しているんですよね。
最初に塩味の印象が来るんですけど、うまみと歯ごたえがあって、こぶ出しに近いうまみや甘みがあるので、味わいとしては風味豊か。
小粒なんだけど、味わいがあるので、余市産のワイン、冷涼さのある産地の酸味のあるキレとか、生き生き感がとてもあいそうです。相乗効果で牡蠣のうまみを増幅してくれるんじゃないですか。新たにつくった「オストレア」はばっちりです。
私はただ美味しいワインではなく、料理がおいしい、もっと食べたいと思うようなワインをつくりたいと思っています。ワインも牡蠣も産地固有の味があるので、ローカルとローカルの味わいをかけあわせて地域の味を追及し、世界中ここでしか味わえないものにしていきたいですね。
★「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦さんは、ワイナリーと漁業者がともに育っていく未来を期待しています。

僕たちはペアリングを尋ねられる立場なので、地元のもので合わせられるものが広がるのはありがたいです。
試験養殖から始まった牡蠣養殖がちゃんと続いて、さらに広がり、余市を代表するブランドにまで育ってくれたら僕たちも嬉しいです。
僕たちワイナリーの方には新規参入や後継者など、おかげさまでいい形の人の動きができているので、これを機に、漁業関係の方も、後継者や新しい可能性を求めて余市に来てくれる人がいると嬉しいですね。
これからはもっと漁業関係の皆さんとコミュニケーションをとって、一緒に余市をもっともっといい場所にしていきたいですよね。
特徴を生み出す養殖方法とは

余市牡蠣の特徴は、一口サイズだからこそ感じられるうまみと牡蠣特有の臭みが抑えられていることです。
それらを実現したのは「かご」を使ったバスケット養殖と呼ばれる方法です。
どのようなものなのか。
教えてくれたのは、余市の牡蠣養殖のアドバイザーも務める坪井亜樹さんです。

養殖用のかごはブドウの房のように海に沈めるのではなく、海面に近い場所に沈めたバスケット=かごを使います。
その中に入れる牡蠣はひとつひとつばらばらの状態。それらが潮の流れで揺らされることで貝柱がいわば”マッスルトレーニング”した状態となりうまみを蓄えます。
さらに貝殻も先端が削られるなどして縦には伸びず、ふっくらと丸みを帯びた形に育ちます。その結果、身がぎっしりとつまった一口サイズの牡蠣に仕上がるんです。
しかも、この方法だと貝殻に付着物がつきにくいので、特有の臭みも抑えられ、よりワインにもあう余市の特別な牡蠣になります。

未来をつくる牡蠣養殖事業
漁業者の思い
海産物が豊富な余市町。
しかし、余市郡漁業協同組合の正組合員はこの10年で30人ほど減少し、現在は70人余り。このうち30代以下は20人ほどと3割にも満たない状態です。
このところの資源の減少や魚価の値下がりなどもあって、若い漁業者がなかなか集まらないという悩みを抱えています。

地域漁業の未来を変えたい。
そんな思いもあって6年前に始まった試験養殖。現在は6人の漁業者が養殖に取り組んでいます。
余市郡漁業協同組合の原田容稔専務理事にも、牡蠣の特徴や今後への期待を聞きました。

ワインに合う牡蠣になったと思っています。
この牡蠣が余市町の新たな名物となり、町が盛り上がるきっかけになってほしいです。
漁業現場は、現在、獲る漁業から育てる漁業への大きな転換期を迎えていると思います。資源の減少との向き合い方の一つ、そして、後継者不足解消につなげるためにも、養殖事業を通じて漁業者の安定と所得向上を実現できればと考えています。
余市に行ったからこそ食べられる牡蠣
来年度以降は町外にも
余市牡蠣の初出荷となることし、アクシデントに見舞われました。
ことし1月の低気圧の影響で牡蠣が流されてしまったのです。漁業者が流されたバスケットを集めるなどして、なんとか今年度の出荷分を確保できたといいます。
そのため、出荷数は今年度3000~4000個にとどまる見通しで、主に町内の飲食店や宿泊施設に出荷されることになっています。
ことし、余市の牡蠣を食べたい方はぜひ余市へ!
町内7か所のレストランなどで提供される予定です。

生産量は今後、年々増やす予定。
来年度は4万個の生産を目指すことにしています。
ワインと並ぶ余市の名物となるのか。
そして、漁業現場の未来につながるのか―。
余市の牡蠣の今後が注目されます。

2022年5月27日 瀬田宙大