NHK札幌放送局

栗山町の味“お好み焼き”を未来につなぎたい―ファンの熱意が実現させた事業承継

瀬田 宙大

2022年12月20日(火)午後4時16分 更新

11月、札幌市に新たにオープンしたお好み焼きの店があります。
1988年に創業し、長年愛されてきた栗山町の「りんごの木」の屋号とレシピを引き継いだお店です。
前オーナーは、お客さんを喜ばせたいと一枚一枚丹精をこめてお好み焼きを焼いてきました。その思いと味がファンの心を捉えてきましたが、ことし5月に閉店。食べられなくなるはずだった味を未来につないだのは「僕が食べたいんです」というファンの言葉でした。

栗山町の「りんごの木」
北海道大学近くで新たな一歩

11月中旬、札幌市北区にお好み焼き専門の店がオープンしました。

提供するお好み焼きは一枚一枚、深めのフライパンで焼き上げており、大阪や広島で愛されるものとは一線を画しています。

厚みがあり、外はカリッ、中はふわっとした食感が特徴です。

取材をした日は北海道大学の学生が多く訪れていました。

「分厚くて美味しい」とか「1回来て美味しかったので、みんなできました。食感がよくて、運動した後なので4人で6枚頼みました」などと話していました。

「また食べたくなる味なんですよね」と話す女性。

一緒に訪れていた男性にも話を聞くと、この店をよく知っているといいます。

「ぼくは栗山町出身なんですが、札幌市に店ができたと聞いてオープンの日に来ました。きょうでもう4回目です。ことし栗山町の店が閉店してしまったのでもう食べられないんだなと思ってショックを受けていましたが、こうしてまた食べられるようになって本当に嬉しいです。また来ます」と嬉しそうに語っていました。

この男性が話していた通り、実はこのお好み焼きは栗山町で長年愛されてきた同じ名前の店で出されていたものなんです。

押し寄せる物価高や人口減少
地域の店としては限界だった・・・

1988年に創業した「りんごの木」。
オーナーはことし72歳になった福原誠一さんです。

店に来てくれるお客さんを大切にしていた福原さん。それはメニューの豊富さにも現れていました。

手書きのメニューには、福原さんオリジナルのお好み焼きの他、オーソドックスなお好み焼きやハンバーグ、ナポリタン、パフェなど豊富なメニューが並びます。「せっかく来てくれたお客さんが『何にもない』とがっかりしないように」という思いからでした。

75歳になるくらいまでは続けようと考えていたそうですが、原材料の値上がりやアルバイトが集まらなくなったことなどが重なり、気力を維持するのが難しくなったといいます。

そして、ことし5月8日。
大型連休の営業をもって栗山町の店を閉店させました。

“僕が食べたいんです”
客を思う店主×ファンの熱意

札幌市に店をオープンさせたのは栗山町出身の伊藤翔太さんです。ブランディングや広報などを担う会社の代表です。

伊藤さんがレシピを引き継ぐことになったのは、感謝を伝えたいとかけた一本の電話がきっかけでした。

伊藤翔太さん
故郷に帰ってくる理由の一つと言ってもいいくらい大事な場所で大好きな味だったんです。もう食べられないのか…という思いと、店主の福原さんに「いままでありがとうございました」と伝えたくて電話をしました。

電話を受けた福原さん。
味の承継は、この時に伊藤さんが発したひと言が決め手だったといいます。

福原誠一さん
最初に「僕が食べたいんですよ」って言ったんです。嬉しかった。思いを込めて提供してきたので、それをまた食べたいって。感激しました。家族や友人とよく来てくれていたのを覚えていたので、こうして引き継いでくれると声をかけてくれたのは奇跡に近いですよね。パッと花が咲いた感じがしました。

店主とファンの思いを引き継ぐ
事業承継をして学んだ大切なこと

ことし9月、伊藤さんはフェイスブックにこんな投稿をしました。

そこには、11月ごろに開業するめどが立ったと書かれていました。
その宣言通り、栗山の店の閉店からわずか半年。11月14日に開業しました。

承継したのは店名やレシピだけではありません。

栗山町の店で提供する際に使っていた鉄板も引き継ぎました。いちファンでもある伊藤さん。同じくこの店を知る人が「やっぱり、これだよね」と思える形で提供したいと考えてのことです。

伊藤さんは、背景を理解して店主の思い、ファンの思いも一緒に引き継がなければ本当の意味での事業の承継はできないと考えたといいます。

伊藤翔太さん
福原さんが開発した味をたくさんの人に食べてもらうことが恩返しになると感じています。引き続き、もともとの「りんごの木」のファンに変わらない味を提供していきつつ、まだ食べたことがない人にも食べてもらい新たなファンもつくっていきたいです。
そして何より、ふるさとである栗山町にあった店なんだということを絶対に忘れず、ずっとやり続けたいなと思っています。

☆オススメのもう一本!北海道を記録し続けてきた84歳の自然写真家水越武さん 集大成と位置付ける写真集にこめた思いとは…

取材後記:食は観光資源であり、地域のアイデンティティーだと考えている伊藤さん。今回の経験から、ただの作業やビジネスとしての承継ではなく、店主やファンの思いも含めて引き継ぐ三方良しを意識することが重要だと改めて感じたと話していました。その思いを体現する店がどんな歴史をつくっていくのか。今後各地で起きるかもしれない問題のひとつの解決策になりえるのかも含め、見守っていきたいと感じました。

この内容は、12月20日(火)午後6時40分からの「ほっとニュース道央いぶりDAYひだか」でお伝えします。

2022年12月20日 瀬田宙大

関連情報

広尾町 牛乳の価値をアップデートさせたい

瀬田 宙大

2022年7月4日(月)午後7時28分 更新

初鳴き写真実況!福田裕大アナをよろしくお願いします

瀬田 宙大

2022年6月15日(水)午後5時06分 更新

北海道のみなさま 5年間本当にお世話になりました!3月31…

瀬田 宙大

2023年2月15日(水)午後6時05分 更新

上に戻る