NHK札幌放送局

#ローカルフレンズ (16)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2020年7月1日(水)午後3時04分 更新

「世界に通じる扉をご案内します」と言われて案内されたこの空間。五稜郭公園からほど近い、珈琲店の屋根裏部屋です。まさに秘密基地!この場所には、立ち入った人にしかわからないエネルギーが満ちていました。今回は、なぜここが世界に通じるのか…そのあたりをお伝えします。

五稜郭公園から歩きはじめた私たち。
せいらさんはとにかく楽しみでならないようで、「ムフフ」が止まりません。「何も知らない方が楽しめると思うので…ムフフフフ。もうすぐです。ムフフフ。こちらです、ムフフ。どんな反応するのかな、楽しみだなムフフ」と、これはさすがにオーバーに書いてますが、瀬田の目にはこんな感じに見えていました。

たどり着いたのは住宅街に佇む珈琲店。

店を彩るバラは、店主の母親 早苗さんが大切に育てたものです。一歩、敷地内に踏み込んだだけで甘く柔らかい香りに包まれます。それはまるでバラのベールのよう。香りだけではなく、その美しさに、カメラマン・セイヤ君も本気です(ところで、前回のわらじ荘スペシャルにもちらっと書いた入居の件はどうなったのか…気になる)。

それはさておき。

私たちと一緒に自慢のバラと写る早苗さん。店内にも多くのバラがあしらわれていました。こだわりが詰まった空間。歴史ある洋館のような雰囲気が漂います。かつて、この建物の三角屋根の先には風見鶏もあったんだとか。早苗さんは「いつか、ここが、世界に何かを発信する場所になってくれることを願ってつけたんです。それを息子夫婦が想像以上に早く実現してくれたんです。こんなに嬉しいことはないよね。この場所が世界とつながることができて本当に嬉しいです」と、満面の笑みで話していました。

その「世界に通じる扉」とは。

答えを求めて私は階段を登りました。

三角屋根の具合が隠れ家というか、秘密基地というか、なんとも言えない空間を演出します。そして、この屋根裏部屋に入った瞬間、言葉では的確に言い表せない刺激ビームで串刺しにされます。パワー溢れる空間でした。

ここは、「書棚」兼「アトリエ」兼「作品」とのこと。

整理してお伝えします。

実は、珈琲店の店主でもある夏井俊介さんは、世界的にも知られるブックコレクター。各国に友人がいて、デジタルツールを駆使して世界とつながる方なんです。夏井さんが自身で集めた国内外の本の他、世界各国から「俊介に見てほしい」と送られてくる本が並んでいます。たしかに世界と通じている…!

そして、アトリエ兼作品というのは、夏井さんの妻のM!DOR!さんに関係します。

M!DOR!さんはコラージュ・アーティストでグラフィックデザイナーでもあります。名だたる雑誌などに作品が掲載されていますが、Official 髭男dismのCDジャケット、Perfume カレンダー、GLAYツアーパンフレットなど私たちに身近な作品も数多く担当されています。そのM!DOR!さんのアトリエであり、この空間自体が夏井さんに言わせると「好きなものを並べて、常に接することで、インスピレーションをはぐくむ場所。この空間は、そういう好きが詰まった、妻の作品でもあるんです」とのこと。なるほど。この場所に漲るパワーの理由がわかった瞬間でした。

ところで、みなさんはコラージュアートってピンときてますか?
この時、私はいまひとつ理解が届いておらず夏井さんに質問をしたところ、こんな答えが返ってきました。「古い本に書かれているイラストだったり写真を切り抜いて、自分なりに配置して、新しい世界観をつくる。カットアンドペーストのアートだと思います。ヒップホップにもどことなく似ているかな」と。

撮影では、夏井さんが集めた大切な資料も見せて頂きました。
その一つが、1960年代後半から70年代にかけて、ブラックパンサー党、黒人の人たちが集まって立ち上げた政党が発行していた新聞とのこと。紙面には1971年と記されていました。半世紀近く経って変色し、端端には切れ目が。しかし、人から人の手へ、大切に扱われてきたからこその保存状態で目の前に力強く存在します。そして、紙面の構成やあしらわれた写真からは言葉にならない感情が伝わってきました。そのことを伝えると、夏井さんは静かに語り始めました。「まさに本のよさはそこだと思っています。時代を封じ込める。パッケージしてしまうというか。時代を経て当時の現物に触れることで、その時代の空気を自分の中でシミュレーションしやすくなっていくというのが魅力の1つだと思うんですよね。これに限らず、調べていくと無限に世界が広がっていくんです。国を超え、時代も超える。なぜなら全て人のつながりで作られ、守られているから。いまなんでもデジタルの時代になってしまいましたけど、手触りのある形をしっかり残して、ちゃんと作り上げていくって本当に大事だと思いますね」と、少し強く資料を手にしながら、熱っぽく語りました。

夏井さんと話をしていて、確かにデジタル一辺倒になってしまうと、あるいは「陥ってしまうと」という言い方がいいのかもしれませんが、いつか僕たちが生きた時代が「空白の時代」と言われる日がきてしまうかもしれない…ふとそんな不安が頭をよぎりました。

話はデジタルとアナログの違いへ。夏井さんは「デジタルは目だけのコミュニケーションになりますよね。でも紙媒体は人間のいろんな感覚を使いますよね。封印された時代が、皮膚感覚としてダイレクトに自分に向かってくる。その手触りをいま、どれだけ大切にできるかが問われているんですよね。願わくば、人から人に渡る、そんな過程も含めて感じ取ってもらえる、目を向けてくれる人が増えると嬉しいし、そうすれば何かが変わると思います」と語りました。

ブックコレクターの方とお会いしたのは初めて。
興味が尽きません。
聞けば、1冊の本を買うのに3ヶ月かかることもあるんだとか。この話をきっかけに、好きを突きつめることこそ大事という話に展開していきました。
夏井さんは「好きだからやってる。できる環境にいて、やらせてもらえる環境と時代にいる。だからこそ自分は、何かに変換していかないといけないというか、まわしていかないと、いい世界になっていかない。そういう自分にできることを、ただただ好きという純粋な思いでやっているのかなって」と話します。そして「生き方として、自分のなかでロールモデルは宮沢賢治。あの人も岩手県にいながら自分のことを掘り続けて、作品を世に生み出した。あの当時以上に、今はあまり場所は関係ないのかなと思っていて、僕は函館が好きだから函館で活動する。そして、自分の好きなこと、興味あることを追求していくことで、あるとき、普遍的な世界とつながることができるのかなというのが、わたしの中に最近現れはじめた感覚です」といまの実感を教えてくれました。
せいらさんはその話を聞きながら「こういう文化的な面に触れたくて函館を選んで人が来てくれるようになったら、さらに楽しいんじゃないかなって思っているんです」と、ムフフの意味をようやく教えてくれました。

ここでまた、ふと素朴な疑問が。
夏井さんは、ライターのせいらさんにどんな印象を持っているのか…聞いてみました。すると「ものすごくスマートにやられているなと。纏っている空気感。自分自身を素直に表現するのって難しいと思うんですけど、それがナチュラルにできている人だなと思っています」と教えてくれました。この時、せいらさんは顔を真っ赤にして今回の旅で一番の「ムフフ」を見せていたのを僕は見逃しませんでしたよ。笑

活躍の場はさまざまあれど、それがローカルだというのが今の時代らしく、場所を選ばないのであれば好きな場所で、好きなものを楽しく突き詰めていくことがいまの社会では大事。そんな力強いメッセージを夏井さんからもらった気がしました。

夏井さんご家族が暮らすこの場所の魅力は、言葉を尽くしてもきっと正しくは伝えられません。ぜひ多くの人に感じてほしい。放送で、少しでも空気が伝われば嬉しいです。

#ローカルフレンズ出会い旅
#函館は秘密基地だった件
7月4日(土)夜10時45分~
NHK総合 北海道

つづく

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