NHK札幌放送局

ほっと通信(90)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2020年1月31日(金)午後2時39分 更新

ローカルフレンズ 出会い旅」最終回は北見市常呂町と網走市を訪ねました。

プリプリのサロマ湖のカキに、オホーツク海のミズダコ。
しゃぶしゃぶで頂いたこれら実は…

冷凍なんです。

カラカラと乾いた音が気持ちいいほどのカチコチ。 マスコスモ合同会社の川口さんが「勝負をかけた」という特殊冷凍機器で凍らせたものです。
普通の冷凍と何が違うのか?特徴を川口さんに説明してもらいました。 「カキだと3~40分くらいでカチコチです。この状態に一気に凍らせることで、通常の冷凍と比べ、 解凍した時にドリップ(水っぽさ)がなく、品質がほとんど変わらない。つまり、鮮度そのまま、おいしい ま召し上がっていただけるんです。しかも、一つ一つバラバラに冷凍できるので、『使う時にも使いたい分だけ解凍して使える』という便利なカキになっているんです」とのこと。凄い!

なぜ、いち漁師がそこまでするのか。
深い話もありますが、まずは地域の事情をおしえてくれました。
川口さんは 「サロマ湖のカキは販売できる時期、旬な時期がすごく短いんです。10 月に開始して3月には終わって しまう。その限られた期間にサロマ湖のカキを知ってもらって、食べていただくには、ちょっと期間が短すぎる。そこで、凍結させて一年中知ってもらいたいと考えたんです。加えて、オホーツク海側の漁師は流氷が来るので、冬は仕事ができなくなるんですね。その期間にできる仕事があればいいなということもあり、賛同してた漁師の仲間もいたので、去年会社を興しました」と話していました。
ローカルフレンズ出会い旅恒例の話が尽きないパターン。
あれこれ伺っていたら川口さんが「冷凍カキの美味しさは食べて初めて分かる」と誘われ、、冒頭のカキとミズダコのしゃぶしゃぶを頂いたのでした。冷凍とは思えない鮮度に感動。本当に美味しかったです。

瀬田
さきほども少し聞きましたけど、そもそも、なぜあの機械を導入しようと考えたんですか?

川口
僕は一般消費者向けの直販事業をずっとやりたいと思ってたんです。漁師さんが魚を捕って、午後からちょっと時間が空いた時や、冬の間の仕事を作りたいときに、生の魚だけを流通させることにフォーカスしてしまうとなかなか難しいんです。例えば、今日捕れたけど、明日送ってほしいんだよねとか。そうしてしまうと魚の鮮度が落ちてしまう。ちょっとのタイムラグがあるじゃないですか。つまり販売機会の損失になってしまう。鮮度を保ち、販売機会を広げ流ことができる機材はないかとずっと探していていましたね。それで特殊冷凍機を見つけた時、これだ!と思って購入しました。

瀬田
冷凍機を買ったときは仲間と協力ということではなく、おひとりだったんですか?

川口
実は一昨年くらいに大きい病気してしまい・・・。病気するくらいのタイミングで会社を興そうとみんなで話し合っていた矢先に病気が発覚したんですが、闘病中にも準備をみんなで進めて、病室から冷凍機器を販売しているメーカーさんに電話して、退院してすぐ資金調達に走って、買いました。

瀬田
そういうタイミングだったんですね。。差し支えなければですが、その病気というのは、どのような病気だったんですか?

川口
急性のリンパ性白血病ですね。突然発覚して、7ヶ月間くらい入院して、骨髄移植もしないとだめかなって感じだったんですけど、なんとかすり抜けて...。僕はずっとこの事業をやりたかったので、なんだか病気をしてから、事業にとってもいいことだったり、沢山の人と出会い、応援されて、この事業をやっていいんだ!と思えるようになりました。無事に退院もできて、もちろん今も治療は続けているんですけど、今は事業を伸ばすことに集中しています。とはいえ、まだあと 10 ヶ月くらいは抗がん剤を投与し続けなければならないんですけどね。それが終わって、だんだん漁師にも復帰していけるかなと考えています。

瀬田
自分の中で進む覚悟をされたってことなんですね。

川口
やりきるぞっていう気持ちもありますし、病気を契機に、弟が仕事やめて兄弟船になったんですね。そういうことも結果としては嬉しいし、いいことだったと僕は思っています。

瀬田
大病をというお話、あんまりご本人の気持ちがどういう場所にあるか分からない中でしていいのかは悩 んだんですが、今はご自身の中で「考える時間だった」とも捉えていらっしゃるんですね。

川口
そうですね。闘病中も事業計画練り上げてましたからね(笑) 体はつらいんですけど、それ以外にネガティブなことって一つも感じなかったんですね。あくまでやろうとしてたことの過程で病気があって、 やりたいことを集中して考える時間があり、仲間もいて精神的に恵まれていて、やり切ろうという気持ちになりました。

瀬田
そして、それが動き始めてここまできたということですか。

川口
まずは第一歩くらい出れたかなっていう感じですね。応援してくれている人たちには必ず恩返しをしていかなきゃいけないと思っています。地域のため、社会のためになることを、どんどんやっていくのが、寛解した僕が出来ることかなと思っています。仲間には、みんなに心配をかけたっていうのと、助けてもらってるので、改めて感謝していて、なんかこれからもいっぱい仲良くしてねと思います。よろしくね、拓郎くんも佐野くんも。

中西・佐野
当たり前じゃないですか。

瀬田
人のつながりが、道東の魅力。すごくあったかいですね。

川口
仲間に恵まれて…目指している事業にどんどん近づいていっているので楽しいです。

瀬田
目指しているというのは、どんなビジョンなんですか?

川口
そうですね、やっぱり僕がそもそもお魚を食べるのが好きで漁業者として、魚食の普及、魚の美味しさを知っている自分たちらがやっていかないといけないと思っています。僕らの会社は、「おいしいもの食へべて、シンプルに生きていくことは、とっても楽しい」ということを、魚を通して、提案できたらと思っています。地球上の資源は限られていて、経済成長って右肩上がりに行くのは難しい。ものがあふれていても幸せになれるとは限らない。常呂に来ていただいて、時間を共有していることがとっても幸せだなと。みんなでおいしいって言い合った時間がすごく大切だということをどう伝えていくのか。僕らのミッションだなと思っています。

佐野
しばらく東京で働いてたこととかも関係あるんですかね。

川口
東京にいたときは広告会社に勤めていました。発信するとか、伝えるってことをやりたくて。

瀬田
先々は戻ろうと。この漁師の世界に戻ってくるんだという意識がありながら、広告業界に就職したとい うことですか?

川口
そうですね。東京での経験から、家を継ぐ時に、現場発信のほうが説得力あるなと思ったので、生産者として発信するように心がけています。なので、事業が大きくなっても、自分の原点は、漁師であることを常に心に置いています。

瀬田
その説得力であったりとか、自分の本気度合いみたいなのも含めて届けるっていうことになるからか。

川口
自分たちが暮らす地域に責任を持つことが大事かなと思います。一つずつ丁寧に、常に謙虚にやろうとも思ってます。

瀬田
実際ここだできて、3月からミズダコしゃぶしゃぶセットなど、こうした商品も外にさらに出していこ うとしているってことでしたけど、夢を持った時からするとどれくらいの期間をかけてここまで来たん ですか?

川口
僕が地元に帰って、漁師になったのが10 年前くらいなんですね。地元に帰ったのが。その頃から魚食普及活動はずーっと一人でやっていて、あれこれやって、会社自体は去年登記が完了。会社は、半年くらいですけど、事業をやろうって進めてきた期間はかなり長いです。

瀬田
広告業に勤めたのも含めてずっと準備をして。ようやくその一歩が踏み出してきたってことなんですね。

川口
はい。思い入れはとてもあるんで。

瀬田
拓郎くんもそうなんですけど、地域で生きていくって決めるのってすごく覚悟のいることだなと。素直 にすごいと思うんです。なんで地元、地域、地方でやっていこうっていう思いに至ったのかも教えてもらえませんか?

川口
僕の場合は漁業権の問題があります。大きいんですけども、田舎暮らしみたいなところが結構スタンダードになるというか、それが羨ましがられるような時代が来るだろうっていうのはなんとなく感じていて。地域が持っているポテンシャルってすごくあると思うんですよ。それをみんな一生懸命、多くの人に知ってもらうためにと掘り起こしているところで、未来の楽しさがあるからこそ、こうやって帰って来るんじゃないかなって思いますね。拓郎くんは?

中西
あと楽ですよね。決める問題だと思うので。他を捨てるってことじゃないですか。邪念が生まれないの で、ただひたすらそこに向かって行けばいいってだけなので。言ってしまえば持っているリソースを全 部そこにぶっ込むみたいな。決めの問題。ただ決めたことが川口くんだったら家業で、僕も地元に戻るっ てことだったみたいなこと。それだけですね。だからこそ、僕は道東っていう地域だし、道東以外のこと はやらないっていうことの決めなので、そうなると他に邪念が出ない。すごく楽なんです。逆に。

川口
都会にいると色々な誘惑が多すぎるしね。

中西
いろいろ選択肢あるといろんな可能性もあると思うので、分散しちゃう。それがなかなか決められない 理由でもあるのかも。他のことは捨てれたってのがデカいかなって思いますけどね。

瀬田
選択肢を絞ったっていうこと。

川口
絞るにしてもね、本当に可能性があるぞ!って、確信もあるから帰ってこれたっていうのもあります。今回の特殊冷凍機の件もですが、物や人の流通の流れも、都会と田舎の垣根みたいなハードルってあんまりないんじゃないかなって思うんですよね。

瀬田
あともうひとつ。川口さんにとってはこの事業をすることでオフシーズンを投資するわけじゃないですか。ということは、オフがなくなったとも言えますよね。

川口
そうですね。でも、僕もこの事業を通じて会いたい人に会えるし、行きたいところにも行けるし、オフを 投資して、すごく疲れているということは全然なくて、100%楽しんでやっているので、幸せですね。

瀬田
めちゃくちゃ理想ですね。いまの時代は会社から休みなさいと言われて、仕事したくても休みなさい、必 要なのか、時間をかけすぎだと言われる時代。仕事して幸せという価値観が、ものさしから外されて、分 かってもらえない。分かってもらいにくい時代になったなという印象があるかなと個人的には思っているんです。

川口
そうですね。仕事ってこんな楽しいんだ!って感じです、今は。プライベートと仕事の垣根はほぼないので、もうわけがわからない部分もあるけどね (笑)あと、ここもそうですけど漁業者が、閉まっている商店のシャッターをあけるって凄くワクワクしせんか?

瀬田
...ん、というと?

川口
実はここ、もともとは畳店だったんです。でも閉店してしまっていたんです。こうした店舗のシャッターをひとつひとつ開けていきたいなと思っているんです。その第一歩として、店舗をリノベーションしてこの事業を始めたんです。

瀬田
そうだったんですか。畳店を改装!

川口
そう。実はこの先の話もイメージはちゃんとあるんです。僕らの事業の長期的な考えとして作りたいのは、ゲストハウス。あとは音も聞ける大衆酒場。行ってみたい!と思ったときに来ていただけるような環境をどんどん整備して、地域の雇用も産みたい。そのためにも今は一生懸命お魚を販売したいなって思ってます。

瀬田
地域の未来をそこまで考えて。つまり、これはあくまでも第一弾だと。

川口
そうです。将来的にはみんな遊びに来て!と。楽しみにしていてくださいね!

中西
楽しみだよ。川口くんは、いろんな人を巻き込んでいく力もありますからね。

川口
でもそれは、こうやって皆さんが協力してくれるからできること。仲間の輪をこうして広げてくれる拓 郎くんたちのおかげだと思っています。瀬田さん、道東って本当に素敵な人いっぱいいるんですよ。もっ とみんなと遊びたいと心から思っています。いや~、こうやってカメラはあるけど、仲間と地域の未来を自 由に話ができる企画って、いいですね。テレビだけどテレビじゃないというか(笑) すごく楽しい。

中西
その時には川口くんの魚を(笑)

川口
持って行くよーーーー(笑)ちょっと、またやりませんか??

瀬田
もちろん。話をして分かったのは、かっこいいのは顔だけじゃなかったっていうことですね。

川口
ほめても何も出ないよ。でも嬉しいな。カキとタコ出したから...次はホタテも出さなきゃかな(笑)楽しみだね。

さて、こちらは網走市天都山の展望レストランで提供されているカキのクリームパスタ。麺に使っている小麦をはじめオホーツク産の食材で一皿がまとめられています。このパスタの主役のカキは、川口さんが加工したあの冷凍カキです。

このレストランのオーナー・中村守宏さんです。
冷凍で仕入れる理由を聞いたら答えは明確でした。「川口さんは下処理が丁寧なので、正直なところ生とほとんど遜色がないんです。逆に、加熱したときの甘みとかうま味に関して言えば、冷凍の方がいいんじゃないかなとさえ思うこともあって、あえてこちらを使わせてもらっています。しかもひとつひとつバラバラに使えることも、私たちのような業種には魅力的ですね。一般の家庭に出まわったら驚く人が多いんじゃないんですかね」と語ります。その上で「より一層サロマの、オホーツクの名前と共に、美味しいものを全国に届けてくれる、とにかく強いインパクトを持った商品だと僕は思っています」と期待を語りました。

旅を終えて

三日間にわたってお伝えしてきた「ローカルフレンズ 出会い旅」。みなさんにはどのように映ったでしょうか。地域ニュース番組の中で放送するということは、私たちにとっても挑戦です。ただ、手探りで始めたことも否めません。内部でもいろいろな意見があります。

今回、実際に何も知らずに旅をして私が感じたこの企画の可能性は『地域の素顔』が見えることだと思いました。普段から接している人=ローカルフレンズが一緒にその場にいるからこそ、ひとりのよそもの=NHKの私がいても『いつもの空気』が大勢を占めることで地域で働くローカルプレイヤーの皆さんが安心して話ができているのではないかなと感じました。フレンズは、私たちと地域の間をとり持ってくれる双方の仲間であり本当の友達なんです。
もちろん狙いを定めて伝えるよさもありますが、それによって削ぎ落とされてしまう地域の空気や人柄は私たちが取材にお邪魔した時、取材を受けてくださった皆さんに惚れ込む、伝えたいと思う第一歩でもあります。それを皆さんと共有したいということなのかもしれないと、今は思っています。

この企画が好評で今後も続けることができれば、地域の人が普段どのように働いているのか。どんな仲間と共に未来を創ろうとしているのか。田舎の未来、田舎や地方という言葉のリブランディングのために働いていきたいと思っています。少なくとも私は。地域に暮らし、普段からその様子を知っている人たちの輪に今後も短期留学させてもらえることを願いながら今日も働きます。

私のモットーは「三歩先を読み 二歩先を語り 一歩先を照らす」。先読みと同時に足元も見る、地に足をつけていまを大切にすることも忘れないということ。次回以降がどうかはこれで終わりにして、まずは今夜の最終回をぜひご覧ください。そして #ローカルフレンズ出会い旅#ローカルフレンズ とつけて忌憚のない感想をお聞かせください。

それでは、また (^^)/


(2020年1月31日)


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