NHK札幌放送局

結婚式をあきらめない

芳川 隆一

2021年5月12日(水)午後5時29分 更新

新たに英語版もできましたので、追加でご案内です。 
札幌市内の洋服のデザイン会社が、この春、車いすの人に気軽に着てもらえるよう様々な工夫を凝らしたドレスの開発を進めています(前回のブログでも一部、ご紹介しています)。
4月下旬、この新しいドレスを多くの人たちに知ってもらおうとファッションショーが開催されました。モデル役を務めたのは、普段から車いすを利用している4人の女性。ショーを終えて語られたのは「結婚式をあきらめなくて良いと思えるのが一番嬉しいです」という言葉でした。

先日、このショーの様子をNHK Worldで英語にて発信しました。開発者の女性は、札幌発の車いす用ドレスが世界中の車いすの人たちのおしゃれを後押ししてくれることを願っています。英語版の動画を通じて、広く海外の人たちにもこの取り組みについて知ってもらえたら、私も取材者として嬉しいです。

*こちらから、NHK Worldの英語版もご覧ください。
Fashion show celebrates wheelchair bridal dresses.

“おしゃれ”が持つ力を信じて

4月下旬、札幌市内のホテルで車いす用ドレスのファッションショーが開かれました。会場のチャペルには多くのキャンドルや花が飾られ、幻想的な雰囲気の中を4人のモデルが様々な色のドレスで進みます。ショーの様子はインターネットで配信され、日本はもちろん海外からも視聴されました。

ショーを主催したのは、スタイリストの石切山祥子(いしきりやま・さちこ)さん。10年以上にわたって、本業の傍ら車いす用ドレスの制作にあたってきました。きっかけは、ある高齢者施設で行われた着物の着付け体験会にボランティアとして参加したこと。脊椎損傷のけがを負い「私に着物なんか無理」と話す利用者の女性に着物を見せると、目を輝かせて体を起こそうとしたといいます。「着物を着たいという強い気持ちを感じました」と話す石切山さんは、この時「“おしゃれ”には人の気持ちを前向きにしてくれる力がある」と確信したといいます。

1人で着られる車いす用ドレスを

これまで石切山さんは、1人でドレスを着ることが難しい車いすの人のために自ら出向いて着付けも行ってきました。ところが、しだいに評判を知った遠方の人からも依頼されるようになり、全てに対応することが難しくなっていたといいます。そこで考えたのが「極力1人でも着られるドレスの開発」でした。地元の縫製工場の協力を得て始まった制作では、様々な技術的工夫を凝らしました。

まず、上着の脇にファスナーをつけました。利用者は上着をかぶってからファスナーを上げるだけで着ることができます。

「ドレスはワンピース」というこれまでの考え方を捨ててセパレートにしました。スカートは巻きスカートにすることで、利用者は車いすに座ったまま身に着けることができます。

背中には伸縮性のあるゴムを使用。自然に体にフィットさせ、見た目の美しさも追及しています。

今回、販売するドレスは全部で4種類で、サイズもSからLLまでを用意しました。これなら1人で着られるだけでなく、事前の採寸も必要ありません。石切山さんの狙いは、車いすの人たちにも多くの“ファッションの選択肢”を提供することにあります。「このメーカーのこれがかわいいけど、あっちのあれも良いなといったように、健常者と同じようにたくさんの中から“選べる”社会にしたいんです」。販売価格は1着10万円前後で、材料費や人件費を賄うためのギリギリの設定にしたそうです。

結婚式をあきらめない

ホテルのチャペルで開かれたファッションショーには、普段から車いすを利用している4人の女性たちがモデルとして参加しました。午後6時、日が暮れて薄暗くなった会場をキャンドルの明かりがやさしく照らし、その中を1人ずつ順番に進みます。

最初に登場したのは伊橋麻美さん。大輪の花を咲かせるアジサイ科の植物をモチーフにして「アナベル」と名付けられたドレスで登場です。

伊橋麻美さん
「こんな素敵なドレスが自分1人で着られました。こういうドレスは今まで見たことが無かったので嬉しいです」

次に登場したのは森由起恵さん。「ゼラニウム」と名付けられた赤いドレスです。

森由起恵さん
「これまでのドレスだと例えばトイレに行く時に大変だったりして着る勇気がない人もいると思いますが、これなら自然に着られて、色々と出かけてみたいです」

黒いドレス「ブラッククイーン」で登場したのは、花田はるかさんです。

花田はるかさん
「車いすだからおしゃれができないと思っている人も多いと思いますが、車いすでもおしゃれはできるし、こうやってドレスは着られるという事を多くの人に知ってほしいです」

最後に登場したのは「クリスマスローズ」と名付けられたウェディングドレスを身にまとった福本香澄さん。

福本香澄さん
「こういうドレスがあることで、自分が将来、結婚した時に結婚式をあきらめなくてよいなって思えるのが一番嬉しいです。やっぱりお色直しとか大変だし、着られても1着だけかなと思って結婚式をあきらめてしまう人はけっこう多いと思うんです。でもこのドレスならあきらめなくて良いと思います」

笑顔でランウェイを進む4人の姿を見て、石切山さんは自分が作ってきたものが間違っていなかったと確信した様子でした。

石切山祥子さん
「みんながキラキラ輝いていたのが本当に嬉しかったです。“おしゃれ”は本当に人を変えてくれる。その“おしゃれ”の力で、昨日はちょっと元気が無かったけど今日は頑張れるといった社会、誰でも気軽にそんなおしゃれを楽しめる社会を作っていきたいです」

ファッションショーの後、モデルの福本香澄さんが語った「結婚式をあきらめなくてよい事が一番嬉しいです」という言葉を聞いて、私は、1人で着られる車いす用ドレスがまさに彼女の人生の選択肢を広げてくれていると感じました。かつて石切山さんが高齢者施設で感じた「おしゃれが人の気持ちを前向きにする力」は、10年の時を経て、1人で着られる車いす用ドレスという形で、今、世界に放たれようとしています。今後は、例えばもっと年配の方向けのドレスや男性用スーツなども作りたいと話す石切山さん。誰でも気軽におしゃれを楽しめる社会を目指して活動は続きます。

2021年5月12日

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