NHK札幌放送局

日韓の絆が生んだ韓国人会

芳川 隆一

2021年12月7日(火)午後7時06分 更新

以前、札幌市に誕生した在留外国人による防災組織SAFEについてブログでご紹介しました。その時、取材させて頂いたのが、韓国人のイ・ジョンミ(李晶美)さん。取材後、イさんが私にある事を教えてくれました。「今度、北海道で初めての韓国人会を設立することになりました」。…韓国人会?詳しく話を聞いてみると、これから新たに北海道を訪れる韓国人をサポートするための組織を立ち上げるとの事。決断の背景には、イさんが来日した時にお世話になったという日本人女性との長年の繋がりがありました。

私を助けてくれた恩人

今年11月、北海道に「在日本北海道韓国人連合会」が誕生しました。札幌市内のホテルで開かれた発足式には、韓国大使をはじめ日本国内に暮らす韓国人や日本の国際交流団体の職員など約100人が出席しました。設立者はイ・ジョンミ(李晶美)さん(49)。旅行会社に勤めながら3年ほどをかけて設立準備を進めてきたこともあり、ついにこの日を迎えられて喜び一杯です。

イさんが来日したのは今から約15年前。当時の事を振り返ると、思い出されるのは大変だったことばかり…。「例えば銀行口座を開くとか、携帯電話を契約するとか、区役所に行くとか。様々な書類の手続きがあってとても大変でした。定着するまではすごく色んな壁にぶつかりました」と話します。そんなイさんを助けてくれたのが、札幌市に住む沖田恵子(おきた・えみこ)さん(73)でした。来日前、イさんは韓国で、日本人観光客向けのツアーガイドとして働いていた事があります。その時、お客さんとして出会ったのが沖田さんでした。親子ほどの年の差だった2人。イさんは沖田さんを「お母さん」と呼び、その後も沖田さんが韓国を訪れるたびに会う仲になりました。大学で日本語を学び、いつか日本で暮らしてみたいと考えていたイさんに、日本に留学する家族に付き添って北海道に来るよう勧めたのも沖田さんでした。

こうして北海道に降り立ったイさん。その時の事を、今でもよく覚えています。「お母さん(沖田さん)が新千歳空港まで迎えにきてくれました。そのまま沖田さんの家で1週間ぐらい泊まらせてもらい、アパート探しや携帯電話の手続きなど、色んな事を全部、手伝って頂きました」。沖田さんの事を今でも「恩人」と呼ぶイさん。来日直後の煩雑な手続きは、沖田さんの助け無しでは決してできなかったと考えています。「沖田さんにしてもらった事を、今度は私が後輩の韓国人のためにやりたいんです」。これが、イさんが韓国人会を設立しようと考えたきっかけでした。

思い出の文房具

韓国人会の設立を直接報告するために、イさんは沖田さんの自宅を訪ねました。新型コロナの感染拡大やイさんの仕事が忙しかったことなどから、2人が会うのは約7年ぶりです。

久々の再開を笑顔で喜び合ったあと、イさんがあるものを取り出しました。それは、来日したばかりの頃、当時小学3年生だった娘のウネさんのために沖田さんがくれた、思い出の文房具です。

当時、日本語がうまく話せなかった娘が同級生とけんかをしたことがありました。その時、沖田さんが、母親として戸惑う自分にかけてくれた言葉を、イさんは今も忘れられません。文房具を前にイさんが当時の思い出を語り始めました。

「沖田さんは、『今のウネの気持ちが大事だから、ほっておいて、ウネから話すまで待っててあげてね』と私に言いました。もしウネが『もう学校に行きたくない』と言ったら、私は娘を連れて韓国に帰るしかないと思っていました。でも次の朝、娘はいつも通りランドセルを背負って学校に行きました。その姿を見て、私はすごく泣きました。本当に、困っている時に誰かのアドバイスはありがたいものだと感じました」
ウネさんと沖田さん

札幌市内のホテルで開かれた韓国人会の発足式で、イさんは壇上でのスピーチの中に沖田さんへの感謝の思いを込めました。「私が北海道に定着して生活できるよう、手伝ってくださったのは日本人のご夫婦でした。今もそのご夫婦には感謝の思いでいっぱいです」。
北海道に新たに誕生した韓国人会。イさんは「人は1人で生きているものではないと思います。お互いに支えあいながら生きていくものだと思います。困っている人がいれば、自分なりに手伝っていきたいです」と、これからの活動にかける思いを語りました。

(後記)
もともと、在留外国人による防災組織の取材で知り合ったイさん。3年前の胆振東部地震の際は、札幌に滞在していた韓国からの旅行者のために、災害や支援に関する情報を母国語に翻訳して伝えました。この時の体験から「いざという時に情報を母国語で得られることの大切さ」を痛感したといいます。そしてこの度、設立された「在日本北海道韓国人連合会」。その大きな設立目的の1つも、まさに防災だと言います。非常食の備蓄を進めたり、韓国語による情報発信の仕組みを構築したりすることを検討しています。新型コロナの感染状況は予断を許しませんが、いつかまた仕事や留学で北海道に多くの韓国人がやってくる時のために万全の受け入れ態勢を作りたい。イさんの思いは形になり、これから動き出そうとしています。

NHK札幌放送局アナウンサー 芳川隆一
2021年12月7日

こんな取材もしています!


関連情報

高校生が伝える“乙女たち”の記憶

芳川 隆一

2022年1月5日(水)午後6時34分 更新

結婚式をあきらめない

芳川 隆一

2021年5月12日(水)午後5時29分 更新

外国人の防災のために

芳川 隆一

2021年7月9日(金)午後7時00分 更新

上に戻る