NHK札幌放送局

ぜひ映画に注目を

芳川 隆一

2021年3月16日(火)午前11時59分 更新

先日、民放の情報番組でアイヌに関するドキュメンタリー映画を紹介した際、アイヌの人たちを傷つける不適切な表現があったとして放送局が謝罪しました。差別的な表現があったこと自体に注目が集まりがちですが、取り上げられていたドキュメンタリー映画とはどんな作品で、どんなメッセージが込められているのでしょうか?作品のプロデューサーの男性に聞きました。

【1人のアイヌ女性の“決意”の旅】
ドキュメンタリー映画「Future is MINE~アイヌ、私の声~」は、平取町二風谷に暮らすアイヌの女性、萱野(かやの)りえさんの半生を描いた作品です。萱野さんはアイヌの家庭に生まれ、幼い頃からアイヌ文化に親しみ、その素晴らしさを広く知ってもらいたいと考えていました。しかし結婚と出産を機に日々の生活に追われる中で、一時、アイヌ文化に向き合う思いが少し弱くなったといいます。そんな時、アメリカ・フロリダ州に暮らす先住民族、セミノール族の町を訪れる機会を得て、自分たちの言葉や文化を今も大切に守りながら生活する人々に出会ったことで、アイヌ文化を守り、伝える決意を新たにしました。映画では、そんな萱野さんの心の葛藤とアイヌ文化に対する新たな“決意”を抱くまでの変遷が、彼女の言葉と共に丁寧に描かれています。

【プロデューサーは難民だった両親を持つ男性】
去年(2020年)夏、私は、今回のドキュメンタリー映画を紹介するための取材を行い、プロデューサーのチュック・ベッシャーさん(58)にお話を聞きました。

ベッシャーさんの両親はロシアにルーツがあり、第2次世界大戦後、難民として日本にたどり着きました。ベッシャーさん自身は神戸市で生まれ育ちましたが、周りと違う外見から「ガイジンだと指をさされたり、“あっち行け”と言われる」など、いじめに遭うこともあったといいます。
こうした幼い頃の経験から自らのルーツについて深く考えるようになり、アメリカの大学院でアイデンティティについて勉強したベッシャーさんがたどり着いたのが「多様性の大切さ」。映画で表現したかったのも、まさにそこだといいます。

ベッシャーさん
「周りを見て単一じゃない、みんな同じじゃない事を認める社会は柔軟性もあるし、様々なアイデアや活力を取り入れる土台も出来ていると思います。そうした社会は絶対、強いと思うんです」

作品の中で萱野さんは、セミノール族の文化を守り伝える活動をしているデュランテさんという女性との交流を通じて「私も、アイヌ文化においてデュランテさんのような人が育つ環境を作っていきたい」と語ります。自分だけでなく、アイヌ文化を守り伝えるために若い世代ともその思いを共有したいという決意です。

【多様性が力になる】
映画の完成後、去年夏、私が取材で萱野りえさんを訪ねると、萱野さんは地元で始まったアイヌ文化を伝承する事業でアイヌに伝わる口承文芸を教える先生として働き始めたところでした。一時、自分の中に沸き起こったアイヌ文化に向き合うことへの葛藤を経て、「アイヌ文化を守り伝える若い人が育つ環境を作りたい」という思いを実現していたのです。
萱野さんの姿を通じて、映画を見る私たち1人1人が日本社会が持つ多様性に気づき、それを尊重する社会につなげていって欲しいというのが、プロデューサーのベッシャーさんのメッセージです。

ベッシャーさん
「日本の中に既に定着している多様性から目を背けないで直視することが、日本にとってのパワーになると信じています。そんな問いを、萱野りえさんを通じて投げかけているのが今回の作品なんです」


ドキュメンタリー映画「Future is MINE~アイヌ、私の声~」は、動画投稿サイトYouTubeで見ることができるほか、YouTube版には入っていない要素も含めた長編版は、有料の動画配信サイトで見られます。

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