NHK札幌放送局

外国人の防災チーム、札幌で結成!

芳川 隆一

2021年10月5日(火)午後3時09分 更新

2018年の胆振東部地震では、北海道を訪れていた多くの外国人観光客が、言葉が通じない中で不安な時を過ごしました。この時の経験を元に、今年、札幌市で在留外国人による防災組織が結成されました。その名も「札幌災害外国人支援チーム」。英語名Sapporo Assistance for Foreigners in Emergenciesの頭文字をとって「SAFE(セーフ)」と呼ばれています。メンバーの中には、胆振東部地震の時の経験をきっかけにして加入した人もいます。    

電話越しの通訳

メンバーの1人、フィリピン出身の紅葉(もみじ)ネシーさん(49)は、来日して今年で29年。日本人の男性と結婚し、札幌にあるフィリピン名誉領事館で秘書として働いています。2018年9月6日未明、自宅で大きな揺れに見舞われたネシーさんは、その2日後、ある電話を受けました。相手は、以前、教会で知り合ったという、恵庭市のパン工場で技能実習生として働いているフィリピン人の青年でした。

ネシーさん
「自宅の蛇口から水が出てこないし、テレビでは地震のニュースをやっているようだけど内容が分からなくて不安だと、私に電話が来たんです。困った時には遠慮なく電話してねと伝えていましたので、連絡してきたのでしょう」

この時、技能実習生の自宅には、心配した受け入れ先の日本人の社長が訪れていました。ネシーさんは、2人がスムーズに会話できるように、電話越しに通訳を買って出ることにしました。

ネシーさん
「まず私が『彼(実習生)は自宅の水が出なくて困っていると言っています』と伝えました。すると社長が『会社に来れば飲み水ならあると伝えてくれますか?』と言ったので、そう伝えました。
日本語も分からない、字も読めない中で、実習生はきっと怖かっただろうと思います」

「SAFE」結成へ

この時の経験から、いざという時に外国人を手助けする大切さを痛感したネシーさん。地震から約1年後、札幌市の公益財団法人「札幌国際プラザ」が支援チーム「SAFE」を結成することを知り、すぐに準備作業に加わりました。発足メンバーは18人で、避難所を想定した通訳の訓練などを重ねてきました。

(過去の訓練や打ち合わせの様子)

「SAFE」のメンバーは、大規模な災害が発生すると、市との協定に基づいて設置される災害多言語支援センターの要請を受けて、被害や支援の情報を自分のSNSなどで母国語で発信します。さらに避難所が開設されれば現場で通訳や被災した人の相談にあたります。

「札幌国際プラザ」の大高紡希(おおたか・つむぎ)さんは、胆振東部地震の時の経験から「SAFE」のような支援チームの必要性を強く感じています。

大高紡希さん
「外国人が何に困っていて、どういう情報が必要なのかは、私たち日本人だけで考えていても分からないと、胆振東部地震の時の支援活動を通じて実感しました。自分が困っていることを自分の国の人に相談できる制度があったら被災者にとって大きな安心感につながると思いました」

社員みんなで「SAFE」に加入

今、「SAFE」の活動に賛同する人も増えてきています。札幌市中央区にある、アジアから道内を訪れる観光ツアーを企画している旅行会社では、社員全員で「SAFE」に加入しました。きっかけは、社員の李晶美(イ・ジョンミ)さん(49)の胆振東部地震の時の体験です。あの時、ホテルに泊まっているツアー客をどこに誘導するか対応に苦労しました。

李晶美(イ・ジョンミ)さん
「胆振東部地震の時は、ホテルによって電気が使えたり使えなかったりとバラバラでした。そのため、あるお客さんにはそのままホテルにとどまってくださいと伝え、他のお客さんには避難所に行ってくださいと伝えました。お客さんの部屋を1つずつ回って情報を伝えるのは大変でした」

この時の経験から、李さんは「SAFE」に参加すれば1人でも多くの外国人に手を差し伸べられると韓国や台湾出身の社員たちに呼びかけ、社長も賛同してくれました。

旅行会社の社長
「ぜひ参加しなくてはいけないなと思いました。そして参加するなら社員全員でと思いました」
(旅行会社の社長)

会社では、今、新たに取り組んでいる事があります。「SAFE」の存在を広く母国の人たちに知ってもらおうと、李さんが「SAFE」の研修に参加した時の様子を撮影した動画をインターネットで発信しているのです。現在(10月4日時点)李さんたちの会社は新型コロナの感染拡大で営業を休止していますが、この日も動画編集の作業が行われていました。

動画の中で李さんは、災害時の避難所での通訳の勉強会に参加している様子を映しながら、最後にカメラに向かって韓国語でこう呼びかけます。

李さん
「日本語でのコミュニケーションが苦手で困った時には、札幌にはSAFEがありますので、必要な時にはぜひ助けを求めてください」

新型コロナが落ち着いたら、再び多くの人たちに北海道を訪れてもらいたい。その際、もし災害が起きても「SAFE」があるから安心して来て欲しいというのが李さんたちのメッセージです。

李さん
「旅行中に万が一災害にあっても安心してもらえるように、これからもSAFEとして備えを進めていきたいです」。

李さんたちの動画は、動画投稿サイトYouTubeで見ることができます。

札幌市以外でも

外国人のための災害時の情報発信の仕組みづくりは、札幌市以外でも進められています。「公益社団法人 北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)」は、同じ国や地域の出身者が比較的、道内の同じ地域に暮らす傾向にあることに着目し、各地の外国人コミュニティーの中心的な人物(キーパーソン)とつながることで、その人を通して情報を発信する仕組みを構築しようとしています。その名も「多文化共生キーパーソン・ネットワーク構築事業」。担当者は「災害時に防災情報を発信するだけでなく、平時から何か困りごとがあれば逆にこちらに伝えてもらうなど、顔の見える関係を構築していきたい」と話しています。

(後記)
ネシーさん、李さんに共通しているのは、災害時に単に情報を伝えるだけでなく、「被災者の不安な気持ちに寄り添いたい」という思いでした。今でこそ日本での生活に慣れ日本語も流暢なお2人ですが、来日した頃は不安な思いもしたといいます。きっとその頃の気持ちが「SAFE」としての活動の原点なのでしょうね。
コロナ禍の今でも約3万8千人の外国人が暮らし、コロナ前には年間300万人の外国人観光客が訪れていた北海道。日本語が分からない外国人に地震や大雨などの災害情報を届けるために「SAFE」が果たす役割はますます大きくなりそうです。「SAFE」ではこれからも定期的に通訳や情報発信の訓練を重ねていくことにしています。

NHK札幌放送局アナウンサー 芳川隆一

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