NHK札幌放送局

適応能力の限界点はどこにある?

野村 優夫

2021年6月22日(火)午前11時22分 更新

右の写真は、知床の森で、鹿の毛を取っているカラスを写したものです。毛は、巣の材料に使うようです。卵を置く所に敷くといいます。

場所が変わると、巣の材料も変わります。
都会で暮らすカラスが、巣の外側を針金ハンガーで作ることがあるというのは有名な話です。
左の画像では、動物園にいる馬から毛を抜いている姿が捉えられています。

本当に適応能力が高いですね。

でも、巣作りの中では、譲れない一線もあるようで・・・


知床の初夏を感じさせる風物詩

知床のカラスの写真は、ネイチャーガイド・鈴木謙一さんが送ってくださいました。

鈴木さんから、知床の森の中で気になった事柄について、定期的に画像を送っていただく。そして、それをもとに私も取材を行い鈴木さんに報告する。こうした「往復書簡」を定期的に交わしています。(こちらの記事もご参照ください)

鈴木さんからのメールには、冒頭のカラスの他に、ハシブトガラの写真がありました。くわえているのは、エゾクロテンかキタキツネの毛で、やはり巣に使うのだろうと鈴木さんは言います。

オオセグロカモメが草を集める姿もありました。

毎年、鳥たちの巣作りの姿が見られるようになると、ようやく知床の長い冬が終わって、夏に向かっていくんだなあということを感じさせてくれます。まさに、知床の春から初夏にかけての風物詩なんです。

国の天然記念物のクマゲラの子育ての様子も、鈴木さんが撮影してくださいました。

親鳥の飛び去った後の子どもの表情が、とても愛らしいですね!

鈴木さんが以前教えてくださったように、このクマゲラの巣は、

  • 飛び立てるように、前が開けている
  • 穴を開けても折れないように、幹にある程度の太さがある
  • 蛇やテンなどの天敵が登ってきにくいように、枝が少ない

木に作られていました。

親から教わるわけでもないと思うのに、こうした条件の場所に巣を作るんですよね。本当に不思議なんですけど。


変えるもの 変えられないもの

こうした特定の場所を好んで巣を作るのには、どのようなメカニズムが働いているのでしょうか。

北海道教育大学 教育学部 函館校・教授の三上修さんに電話でお話を伺いました。三上さんは、動物行動学の専門家で、特に鳥類について詳しく研究していらっしゃいます。

三上さんによりますと、鳥は種によって、どこに、どんな巣を作るのかが違っていて、基本的な部分は、生まれつき、つまり先天的に、決まっているのだそうです。

例えば、キムネコウヨウジャクという鳥。枝からぶら下がる籠のような、特徴的な巣を作ります。

この鳥は、生まれながらにして、こういった場所に、このような形に巣を作る習性を持っています。イギリスで行われた実験では、この鳥は、何世代もの間外界を見せずに育てても、決まった形の巣を作ることが確認されたそうです。

キムネコウヨウジャクの祖先は、どこかの時点で枝からぶらさげた巣を作るようになったのでしょう。けれど、そのときの巣の完成度はこんなに高くなかったと思われます。そのうち偶然、より上手に巣を作れる個体が生まれました。良い巣なので、多くの子を残すことができ、その子孫が繁栄します。それを繰り返して、次第に今のように洗練された形になっていったと思われます。

一方で、生まれつきの能力に加えて、巣作りでは「学び」も重要だそうです。自身が巣作りを経験し、他の個体を見て真似たりしながら、巣作りはうまくなっていくといいます。

同じ種類の鳥でも、環境が違うと、巣の素材が変わるということがよく知られています。これも学習による適応の結果だと考えられます。

冒頭に挙げたように、都会で暮らすカラスの中には、針金ハンガーを使って巣を作るものもいます。
動物園の側で暮らすカラスは、園内の動物の毛を上手に利用します。過去のNHKの映像には、バイソンやミゼットホースの毛を抜くカラスの姿が収められていました。

ミゼットホース、結構気持ちよさそう表情をしていましたね・・・
私は、札幌で、散歩中の犬の毛を抜こうとしていたカラスを見たこともあります。

鳥類学者の三上さんによりますと、ハシブトガラスやハシボソガラスは、基本的な巣の形を変えないそうです。どこに暮らしていても、浅いお皿型の巣を作ります。(先天的な行動)

ただし、環境によって、アレンジを加えます。森の中では枝を使っていますが、都会では針金ハンガーが同じような細さだったので代用したのかもしれません。使ってみると、強度があるので「これはいいな」と気づき、ハンガーを多用するカラスも現れました。それを見て、真似をする仲間もいたかもしれません。(学習的な行動)

この「先天的な行動」と「学習的な行動」を絶妙に組み合わせることによって、鳥たちは、生態系の中で生き残ってきたのです


スズメは隙間を探す

街中で、何かの鳥の巣を見つけられないだろうか・・・

買い物や会社の行き来で、注意しながら歩いてみますと、札幌市の町の真ん中なのに、鳥の鳴き声が絶えない場所があることに気づきました。周囲を見渡すと、商業ビルの排気口にとまっているスズメの姿がありました。よく観察してみると、スズメが餌を運んでヒナに与えています。巣になっているようです。

信号機にある、わずかな穴も巣として利用していて、子どもが顔を出していました。

一見すると分かりにくい場所にも、スズメの巣はありました。街灯の下にあるわずかな隙間。そこからスズメが出入りしていました。裏に巣があるようです。

三上さんのお話では、スズメは、隙間を見つけて巣を作ることが多いといいます。

本来は、木に開いた穴=樹洞に巣を作っていました。ですが都市の中では、人工物の隙間を見つけて巣を作ります。どちらも「穴に巣を作る」という、先天的な行動だと考えられます。

また、スズメは、人のそばで子育てをする傾向にあるといいます。過疎化で人がいなくなった地域では、スズメも姿を消すという報告もあるそうです。
その理由は完全には明らかになっていませんが、これは、恐らくヘビやイタチ、タカなどの天敵に襲われないようにするためではないかと考えられています。

昔は、茅葺屋根や藁葺屋根にスズメが巣を作ることが多かったようです。藁を少し抜いて隙間を作り、その奥に巣を作る姿がよく見られたそうです。

また、瓦屋根の軒先の瓦の下にあいた空間から、スズメが瓦の下に入り込み、巣を作ることもありました。この隙間は、昔は、漆喰でふさがれていましたが、劣化すると、ここからスズメが入り込んでいたそうです。そのことから、この隙間のことを指す「雀口(すずめぐち)」という言葉まで生まれました。

屋根瓦の家は現在でもまだありますが、茅葺屋根や藁葺屋根の家はほとんどなくなりました。
その代わりの場所を、スズメは必死に探して、巣を作っているようです。先ほどご紹介したビルの排気口や信号機の隙間などは、その一例です。

中でも、スズメが特に好んで巣を作る場所があると、三上さんはいいます。

電柱にある「腕金(うでがね)」です。
腕金は、電線を取り付けたり、変圧器を載せたり、通信設備を設置したりするために使われる金属製の支持材です。

中が空洞になっていて、スズメの巣にちょうどいいのだそうです。

国土交通省によりますと、日本で初めて電柱ができたのが、明治2年・1869年です。2018年の時点で、全国の電柱の数は、約3600万本です。150年の間に、ものすごいスピードで増えています。

三上さんの調査では、金属製の腕金が使われるようになったのは、九州電力で昭和30年代の半ばから、東北電力では昭和42年頃からだといいます。それに伴って、スズメの巣の適所も増加していったことになります。

三上さんのお話によると、
「隙間が好き」なのは、スズメの生まれ持った傾向。
「人間の側にいて、天敵から身を守る」というのも先天的な戦略。
一方で、人間が、環境をどんどん変える中で、適切な「隙間」を探し出して巣を作り、適応してきたということになります。


「先天的な行動」が変わる?

ただ、そうしたスズメの適応能力を超えるような変化が、今起こっているのではないかと三上さんは考えています。

例えば、軒先の「雀口」。今の住宅では、板金やプラスチック板などで覆うようになり、劣化することが少なくなりました。また、室内環境を向上させるため、年々住宅の気密性が高まっています。

こうしたことは、スズメが巣を作る環境を奪うことにつながっているようです。

三上さんは、以前、岩手県で、住宅の作られた年代とスズメの巣の数の関係を調査したことがあります。
その結果、1999年~2008年に作られた住宅地では、1970年~1986年に作られた住宅に比べ、100平方メートルあたりの巣の数が、約1/4だったことが分かりました。高気密の住宅では、スズメが巣を作るための隙間が少なくなっているからではないかと、三上さんは分析しています。

また、電柱の腕金の口も、現在はふさぐようになってきているといいます。
札幌の町を歩いてみると、全てではありませんが、隙間がふさがれている腕金が多く見られました。

北海道電力に問い合わせたところ、スズメが巣を作ることによって、それをヘビが狙って上がってくると、電線に触れた際に停電が起こる恐れがあるといいます。そのため、腕金の口をふさぐようにしたそうです。

三上さんの研究では、全国的にスズメの数は減っていると見られるということです。

例えば、スズメによる農業被害面積の変遷を見てみると、1990年と比べると、2012年には凡そ9割減っています。減反による農地の減少は3割程度なのを考えると、農地の減少だけでなくスズメの数が減っているために、被害も減っているのではないかと三上さんは見ています。

また、駆除・捕獲されたスズメの数も、1980年代前半からの20年の間に、1/10以下になりました。登録狩猟者数は、約1/4に減っていますが、それ以上の捕獲数の減少ということになります。

さらに、山階鳥類研究所という所が、様々な種類の鳥を捕まえて足輪をつけ、再び放し、その情報を記録しています。その調査では、スズメの割合が、年々減少する傾向にあるといいます。

完全に全国のスズメの数を把握することは難しく、あくまでも仮説しか立てられませんが、こうした複数の異なるデータから、三上さんは、数は減っている可能性が高いと分析しているのです。

そして、その原因の一つが、先ほどご紹介した岩手県での調査などから、スズメの巣を作れる場所が少なくなっていることにあるのではないかと三上さんは考えています。

このままスズメの数が減っていくかもしれませんし、適応能力を発揮して、思いがけない隙間を見つけて巣を作るようになっていくかもしれません。
もしかしたら、隙間にこだわらない個体が偶然現れて、そちらが環境に適応して、子孫が繁栄しないとも限りません。短い時間では起こりませんが、長い時間をかけて、スズメが今持っている「隙間に巣を作る」という先天的な行動が変わる可能性も、理論的にはありえます。

鳥の姿をつぶさに見てみますと、人間にとっては些細かもしれない変化が、生態系を含めた自然環境に確実に影響を与えているということが、改めて可視化されます。
そして、それが、もしかしたら鳥の「先天的な行動」をも変化させていくかもしれないと思うと、色々考えさせられるものがあります。

今回も、取材の結果を、知床の鈴木さんにお伝えしました。

前もお伝えした「コロナで観光客の方が減ったら、アカゲラが普段は子育てに選ばない場所に巣を作った」という話を思い出しました。改めて人間の影響力の大きさを感じます。 知床と都会の鳥の生態を比較すると、普遍的なものが見えてきて、非常に興味深いですね。

この取材の成果の一部は、
夏ごろに「おはよう北海道」で放送する予定です。

2021年6月21日

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