NHK札幌放送局

次の実習先が簡単には決まらない理由 ~外国人技能実習制度取材⑨【野村優夫】

野村 優夫

2020年9月23日(水)午後4時52分 更新

北海道栗山町のきのこ工場で働いていたベトナム人の技能実習生17人が、突如解雇され、知り合いの弁護士からの紹介で、私たちはこの技能実習生たちの取材をすることになりました(これまでの経緯についてはこちら)。

取材を進めていくと、監理団体がいかに大切な存在か、強く実感するようになってきました。
実は、受け入れ企業などの事情によって、技能実習生たちが実習を続けることが難しくなった場合、次の実習先を探すのも、監理団体の役目です。ところが、これまでご紹介してきた通り、栗山町のきのこ工場で働いていた技能実習生たちは、今の監理団体に対して、強い不信感を抱いています。今のままでは、この監理団体の下で実習を続けたくないという技能実習生も数多くいました。

4月から6月にかけて、札幌地域労組は、会社との団体交渉を繰り返していました。会社に対して、今年12月までの実習を継続できなかったことに対する補償などを求めたり、これまでの2年間の会社や監理団体の対応について質したりしていました。
この交渉がまとまって、技能実習生の監理団体への信頼が少しでも回復し、今の監理団体の下で新しい実習先を見つけるのが良いのか。もしくは、別の道を探るべきなのか。この段階では、まだ先が見えませんでした
労働組合では、この監理団体を通して良い実習先が見つからなかった場合に備えて、別の方法も模索していました。

まず、労働組合は、今井裕さんが代表を務める士別市の監理団体に連絡を取りました。(この監理団体については、こちらを参照)過去に外国人技能実習生の支援を行った時に知り合い、この監理団体の取り組みに対して信頼感を持っていたからです。
新型コロナウイルスの影響で、来日を予定していた技能実習生が入国することができず、技能実習生を受け入れたいという農業者は少なくありません。そうした農業者の中から、法令順守をしっかりしていると思われる所をこの監理団体が選び、技能実習生たちと引き合わせることになりました。

面談をしたのは、ハウスで野菜を栽培している農業者の他、農業と併せて工場で農作物の加工を行っている会社、中には、ハウスと併せて屋外で農作物を作っている農業者もいました。

面談のなかで農業者たちは、技能実習生を受け入れるにあたっては「一から作業を教え、技能実習生たちの技術を伸ばすことにも力を入れていくつもりだ」と伝えていました。また、監理団体の今井代表は、事務所の周辺地域の農業者・会社を紹介しているので、困ったことがあればいつでも現場に駆けつけられること、こまめに現場に職員が赴くので実習の進捗状況や勤務・給料のチェックも丁寧に行うこと、などを説明していました。

和やかな雰囲気で、技能実習生との面談は進んでいきました。同席していた札幌地域労組の人たちも、私たちも、これでうまく実習先が決まるかもしれないという感触をつかんでいました。

技能実習生が日本に来た理由

面談の後、私たちは、グエン・ティ・タインさんに、感想を聞いてみました。すると、こんな答えが返ってきました。

監理団体の人も会社の人も、人柄は良さそうで、安心できそうです。でも、私は、外での作業があると、体力が心配です。もともと体が丈夫じゃないので。でも、それをここで言っていいのかどうか…せっかく会わせてくれたのに…

今回解雇された技能実習生たちは、「きのこ栽培」の実習を行いたいと思って日本にやって来た人たちです。ですが、実はここを選んだ理由には、さまざまな温度差があったのです。作業が屋外であってもハウス栽培に関わる技術であれば少しでも学びたいという人もいれば、タインさんのように屋外での労働は体力的に難しいから、作業が屋内に限られるきのこ栽培を選んだという人もいます。それぞれの事情や思いがあって、この職種を選んでいました。あまりにその思いと違う所で働くとなると、続かないかもしれない。でも、それを、このような状況で言っていいものか、という迷いもあるようです。
私たちは、そうした彼女たちの気持ちを、労働組合の人たちに伝えました。

すると、労働組合の鈴木一副委員長は、次のように答えました。

とても大事なお話ですね。うかつでした。農業者の皆さんは、とても良い人たちだったので、これで安心だと思ってしまいました。このまま推し進めたら『贅沢言わないで、いい所なんだから、行ってください』と、無理強いをするような形になっていたかもしれません。

労働組合の人たちは、改めて、一人一人、どんな所で働きたいのか、一番希望することは何か、意向を聞きなおすことにしました。

その中で、あくまできのこにこだわりたい人、ハウス内の作業なら良いという人、借金がまだ残っているので ある程度の残業があるなら屋外の農作業があってもいいという人…様々な意見が出てきました。
こうしたそれぞれの希望に応えられる実習先を見つけるにはどうしたらいいのか。特定の監理団体だけに頼っていて見つかるのか。手広く探すにはどんな手段があるのか。しかも、その職場がきちんと法を順守する職場なのか、それをどうやったら確認できるのか。もし新しい監理団体になった場合、技能実習生との信頼関係をきちんと結べるのか…課題は山積です。

労働組合の人たちは、外国人技能実習機構に相談することにしました。外国人技能実習機構(以下、機構)というのは、技能実習が正しく実施されることをサポートしたり、技能実習生を保護したりするために国が作った組織です。監理団体が適正に仕事をしているかをチェックする権限も持っています。

労働組合は、技能実習生が監理団体に不信感を持ってしまい、関係がうまくいかな場合、どのような対応を取ればいいのか、尋ねました。機構の回答は、「この制度はそうした事態を想定しない」というものだったそうです。重大な法令違反を明かに行っていると認められる場合は、監理団体の許可を国が取り消すことはありますが、それ以外では、監理団体を技能実習生の訴えで変更することは想定されていないというのです。つまり、技能実習生の側からは、簡単には、監理団体を変えることは出来ないという仕組みになっているのです。

ただし、機構は、「個別支援」の制度が利用できるかもしれないと答えました。これは、実習実施者(企業や農業者)が、途中で実習を続けることができなくなった場合、技能実習生が実習を続けたいという希望があれば、機構が支援するという制度です。
機構が、仕事を探して実習生に提示し、実習生が興味を示した企業や農業者などがあれば、そこに紹介する。そこで両者が働く条件などで合意できたら、今度は、元の監理団体とその企業・農業者を担当する監理団体の双方の合意を得た上で、移籍が決まるということになります。

ただ、この方法で実習先が見つかったとしても、本当にうまくいくのかどうか。その不安を、労働組合の三苫文靖書記長は、私たちの取材の中で、漏らしていました。

このような方法で、「問題のない実習先」が見つかるのか、よく分からないんです。実習先が、実習生たちの人権を尊重してくれるような所なのか。新しい監理団体は、実習生たちと信頼関係を結べるのか。機構が、その企業や監理団体の実態を完全には把握できないと思うんです。実際に働いてみないと実情は分からない、外からは本当のことは見えにくいんです。新しい実習先で問題が起きても、一般の労働者と違って、実習生は職場を変える自由が大幅に制限されています。簡単に別の会社に移ることができないので、慎重にならざるをえません。もし北海道から離れた場所に決まった場合には、私たちは支援ができなくなるので、誰が彼らを守ってくれるんだろう、ということもありますしね。

実習生たちを「労働力」としてではなく、一人の人間として、その尊厳を大切にする・・・。正しいことですが、それをこの制度の下で実行するためには、ここでも、様々な課題があることが分かってきました。
そうした中で、労働組合の人たちは、さらに模索を続けることにしました。そして、それは、取材を続ける私たちにとっても、大きな「宿題」となりました。

※この記事に関するご意見やご感想、関連する情報のご提供などがありましたら、NHK札幌のシラベルカまで、ご投稿ください。

これまでの取材の結果は、この秋放送予定の「北海道道」でご紹介する予定です。

2020年9月23日

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