NHK札幌放送局

伊達市のいちごに込められた思いとは・・・【野村優夫】

野村 優夫

2020年1月22日(水)午後5時12分 更新

上の写真のいちご。北海道の伊達市で作られたものです。「すずあかね」という品種です。高温が続く夏は、全国的にいちごの収穫が難しいそうなんですが、 伊達市では、涼しい気候を利用して、夏から秋にかけて、このいちごを出荷しています。 

いちごが伊達市で作られ始めたのは、およそ9年前です。きっかけになったのは、東日本大震災でした。
宮城県の亘理町では、いちごのハウス栽培が盛んでした。ところが、そのハウスの多くを、津波が押し流してしまいました。ハウスなどの施設を失っただけでなく、土地には大量の塩分が残り、復興への道のりは、筆舌に尽くしがたい困難が待ち受けていました。

そうした状況に手を差し伸べたのが、伊達市でした。
伊達市に移住し、いちごを作ってくれれば、農地やハウスを作るための資材を市が提供。最初の2年は、日当も支給するというものでした。伊達市としては、被災したいちご農家を支援するとともに、いちごを伊達の特産物にして欲しいという願いもありました。

この制度を使って、亘理町から伊達市にやってきた一人が、丸子裕人さん(写真左)です。
丸子さんは、父・忠志さん(写真右)のもとで、いちごの栽培をしていました。忠志さんに教わりながら、一人前の農家になるための、いわば修行中に、震災にみまわれたのです。
丸子さんには、妻と一人の子供がいます。父母とあわせた家族5人が生きていくためには、どうすればいいのか。津波に襲われた土地での復興がどの程度かかるのか、先は見えません。収入が見込めない中、5人一緒に亘理町で暮らすことは、非常に難しいのが現実です。
伊達市に行けば、様々な援助を受けることができます。でも、生まれ育った亘理町の復興にも力を尽くしたい。家族は悩みました。
長い話し合いの末、家族が下した決断は、「父・忠志さん夫婦は亘理町に残って再起を目指す。丸子さんたち3人の家族は伊達市で新たな挑戦をする」というものでした。

伊達市に移り住んだ丸子さん。新しい土地でのいちご作りは、苦難の連続でした。
一口にいちごと言っても、宮城に適した品種と北海道に合う品種は違います。気温や日照時間など、気候の違いも、いちごの生育に影響を与えます。なかなか納得のいく品質のいちごができません。
そんなとき、力を貸してくれたのが、北海道の人たちでした。
地元のケーキ屋さんが、色づきが十分でないいちごを買ってくれ、ショートケーキの内側の部分に使うなど工夫をしながら売ってくれました。
道内の他の産地の農家さんたちに教えを請いに行くと、心よく様々なアドバイスをしてくれました。
暴風雨でハウスが壊れると、地域の人が総出で修繕の手伝いをしてくれました。
「被災者の支援」という大げさなものではなく、目の前の困っている人をただ助ける、という自然な行動が、そこにはありました。
そうした様々な力に支えられながら、丸子さんは、一人のいちご農家として成長していったのです。

そして、その恩を返すべく、丸子さんは、後進の指導にもあたるようになります。
今では、丸子さんの指導を受けた新たないちご農家が、伊達市をいちごの名産地にするべく努力を重ねています。

震災から9年が経とうとしている今、丸子さんは、新たな挑戦をしようとしています。亘理町に戻り、父親とともにいちご農園をやっていく決意をしたのです。
震災で大きな被害を受け、ふるさとでの暮らしも失った丸子さん。その深い傷を癒し、力を蓄えさせてくれたのが、北海道の人たちの支援でした。その恩を、伊達市の農家の育成という形で返し、蓄えた力を、今度は亘理町の復興に生かす時が来たと考えたのです。

東日本大震災で被災し、地元を離れた人にお話を伺うと、「自分はふるさとを置いて逃げてきた」という後ろめたさに苛まれている人がいかに多いかということに気づかされます。もちろん、ご本人の責任ではないのですが、ご自身の心がその思いから逃れられないのです。
でも、丸子さんのように、地域の中で柔らかく包摂される中で、力を蓄えることができると、色々な形で、その力をふるさとへの復興に使える可能性も出てくるのではないかと考えさせられました。

この丸子さんのお話は、今週金曜日1月24日 午後7時30分から放送の北海道クローズアップ希望のいちごに再起を託して 被災農家9年の記録」でご紹介します。今、我々スタッフは、放送に向け、鋭意編集中です。
丸子さんやそのご家族、周囲の方々のしなやかな関係が少しでも伝わるよう、努力しています。是非ご覧いただきますよう、よろしくお願いします!


(2020年1月22日)


関連情報

雪国なのになぜ陸上の有望選手が多いの?【野村優夫】

野村 優夫

2020年1月8日(水)午後4時11分 更新

SNSならではの「儲け話」の勧誘、その巧妙な手法とは・・・…

野村 優夫

2020年1月29日(水)午後4時50分 更新

別れの季節【野村優夫】

野村 優夫

2020年3月25日(水)午後1時50分 更新

上に戻る