NHK札幌放送局

「日本に失望した」世界に広がる声 ~外国人技能実習制度取材① 【野村優夫】

野村 優夫

2020年9月2日(水)午前9時58分 更新

4月初旬、ある取材で、労働問題に詳しい弁護士さんと話をしていた時、こんなことを言われました。

「そういえば、(北海道)栗山町の技能実習生の解雇の話。知っていますか?」

数日前に新聞で読んだ記事が、うっすらと頭に浮かびました。
きのこ工場で働いていた技能実習生が、一斉に解雇されたんでしたっけ?」
「そうです。ベトナムから来た人たちが17人働いていて、今年12月まで実習を受ける予定だったんですけど、突然解雇されたらしいんです。ちょっと話を聞いてあげてくれませんか?」

私に何ができるのか分かりませんでしたが、是非話を聞いてみたいと思いました。

新型コロナウイルス拡大の影響で、自宅での自粛生活を余儀なくされる時期がありました。その中でも、社会を動かすために必要な仕事=物流、コンビニなどの小売り、農業など・・・を、外国から来た人たちが支え続けてくれていたことが、改めて明かになりました。

それにもかかわらず、技能実習生をはじめとした外国人の待遇は、なかなか改善されません。「技能実習生たちは夢や希望を持って日本にやって来るのに、事前の説明とは違う劣悪な環境で働くことを強いられ、傷つき、日本に失望したまま帰国していく・・・」そんな心が痛くなるような話を、これまでに様々な取材先で耳にしてきました。

ただ一方で、技能実習生に会って、じっくりと彼らの本音を聞く機会を、私は持てていませんでした。日本語を流暢に話せない技能実習生たちは、そもそも周囲とのつながりが少なくて、困ったことがあってもどこにどう訴えたらいいのかも分かりません。また、第三者に会うことで、自分を受け入れてくれている会社に対して声を上げようとしていると思われたら、職場での扱いがさらに悪くなるという心配もあります。ひどい場合には、実習生たちが会社に監視されていて、近づくこともできないといったケースもあります。そんな事情もあって、私はこれまで、技能実習生と直接話をすることができていなかったのです。今回は、会社から一斉解雇されているので、それまでの経緯や技能実習生たちの率直な気持ちも気兼ねなく話してもらえるのではないかと考えました。

と同時に、「日本のことをどんな風に思っているんだろう。きっと恨みつらみの言葉をたくさん投げかけられるんだろうな・・・」という緊張感も心の中に広がっていきました。

「これまでのことを全部話します」

解雇された技能実習生のうち14名(女性9名・男性5名)は、札幌地域労組という労働組合に入ったということでした。この労働組合の人たちを介して、技能実習生の皆さんとSNSでつながり、何人かとメッセージのやりとりをすることができました。技能実習生からは、こんな声が届きました。

まさおさん。こんばんわ
私たち。いろいろもんだい しんぱいしている
私たち。がいごくじんですから ほんとにこまっている

お正月も赤の日(※祝日のこと)も仕事があったけど 我慢してがんばってきたです。3年間、頑張ると思って我慢してきたのに、私たちを保証せずすてた。

監理団体(※詳細は後述)の人は、何回も嘘をついた。去年も今年も/日本に来る時は、「なにかがあるなら手伝ってくれるって」言いました。でも今までほとんどは手伝ってくれないんです/お会い出来るなら 全部話したいです

技能実習生からのメッセージを読んでいると、今回の解雇の件だけではなく、これまでにも、いろいろ理不尽だと感じる出来事があったことがうかがえます。私は、技能実習生たちに直接会って、さらに詳しく話を聞くことにしました。
(この時期は、北海道独自の緊急事態宣言が解除された後、全国の緊急事態宣言が発せられる前でした。窓や扉を開けた部屋で、互いに十分な距離をとり、マスクをして、お会いすることにしました。)

技能実習生の皆さんは、2017年12月に来日し、同じ人物が社長を務めるA社とB社に雇用されました。実習生たちは、きのこの収穫をしたり、パック詰めをしたり、きのこを間引く「芽かき」をしたりする作業を行ってきました。

技能実習生たちが解雇された原因は、実習生を受け入れていたA社・B社の経営が急激に悪化したことでした。A社・B社にきのこ栽培を依頼していたC社が自己破産に追い込まれ、それまで実習生たちがやっていた仕事がなくなってしまったのです。実は、C社の資金繰りが厳しいらしいという噂は去年の暮れごろから流れ始めていたといいます。そして、新型コロナウイルスによる北海道の緊急事態宣言が出されていた最中の3月11日、とうとうC社が事業を停止しました。

技能実習生たちは、3月11日に会社側に説明を受け、翌日解雇されました。もちろん、あまりに急な解雇であったということへのショックが、技能実習生の皆さんにはありました。ただ、じっくりと話を聞いてみると、今回の解雇を、この2年間受け続けてきた様々な「仕打ち」の いわば「延長線上に起きた出来事」と捉えている人が多く、それだけに許せないと思っていることが分かってきました。

「技能」を学ぶはずが・・・

実習生の一人、グエン・ティ・タインさん(26歳)です。

タインさんは、ベトナムの大学で、バイオテクノロジーの勉強をしていました。専門は、食品の衛生管理や食味の向上の研究でした。卒業後、食品管理の技術が高い日本で、さらに学びたいと思ったそうです。留学も考えましたが、学費や生活費が高くて、とても無理だと分かり、働きながら技術を学べる技能実習の制度を利用することにしたといいます。
彼女たちは、農業の「施設園芸」という職種を学ぶためにやってきました。施設園芸というのは、温室や農業用ハウスなどを利用して、穀物や野菜、花などを栽培する職種です。タインさんは、自分の持っているバイオの知識を生かして日本の高い栽培技術を学び、そのノウハウをベトナムに持ち帰りたいと考えていました。

ところが、彼女を待っていたのは、収穫とパック詰めの作業でした。日本に来る前、会社側から仕事の内容についての十分な説明はなかったと、タインさんは言います。ただ、技能実習制度に関する資料などを見て、栽培技術を学ぶことができるのだろうと思ったそうです。
技能実習制度を推進する外国人技能実習機構のホームページには、彼女たちが学ぶ「施設園芸」の必須業務として、次のような項目が挙げられています。

ところが、こうした技術や知識をタインさんが現場で学ぶ機会は、ほとんどなかったといいます。技能実習の第1号から第2号にステップアップするとき、国の技能検定を受ける必要がありますが、直前に本で勉強したそうです。

想像していた実習の内容と実際の作業が大きく違いました。そのことに気づいたとき、とても残念な気持ちになりました。でも、たくさんお金を借りて日本に来ているので、帰るわけにもいきませんでした

ほとんどの技能実習生は、日本に来る前に多額の借金をしています。日本での生活や仕事に備えて日本語を身につけるために通う語学学校や、日本の受け入れ機関に実習生を送り届ける送出機関にもお金を払わなければなりません。タインさんは、ベトナムの日本語学校や送出機関に150万円を支払い、その多くを銀行からの借金で賄ったといいます。このままベトナムに帰ったら、借金だけが残ってしまいます。タインさんは、働き続けるしかありませんでした。

東南アジアの若者は日本よりも韓国

ベトナムから外国に働きに出ている人たちの間では、SNSを利用した情報のやりとりが活発に行われているようです。タインさんも、日本に来てから、各国で働いているベトナム人たちとSNSでつながりました。異国の地で働くという環境にいる者同士、共感しあえる話も多く、身の上話をしているうちに、自然とその国の労働事情が分かってくるのだそうです。
韓国に行く場合には、送り出すベトナムも受け入れる韓国も、ともに国の機関が仲立ちをして受け入れ先を決めるので、日本に行く場合に比べて手数料が格段に安いこと。オーストラリアでは、受け入れた若者には、そのままオーストラリアに残って働いてもらうことを想定していて、移民に対するさまざまな支援制度が受けられること。ヨーロッパの国々でも受け入れが始まっていること。さらに、それぞれの国における良い点も悪い点も共有されているといいます。母国にいるときから、こうした情報に接して行先を決める人も出てきていて、そうした人たちの中には、日本に行った技能実習生からの悪い評判を聞き、あえてほかの国を選ぶ人もいるようです。

JICA・国際協力機構が去年10月から12月に東南アジア各国で行った調査でも、こんな報告がなされています。

人材を送り出す国々からすると、すでに、日本は、「無条件に選ばれる国」どころか、第二希望、第三希望の国になりつつあるというのです。

技能実習制度は、あくまで技能実習生の技能を高め、帰国した後その技能を母国で発揮してもらうという「国際貢献」が目的です。ところが、受け入れる日本の企業の多くは、安くて代替可能な単なる労働力を求めています。その矛盾が根本的な問題として存在しているにもかかわらず、それでも制度が成り立っているのは、実習生たちが日本に来る前に作らざるを得なかった多額の借金です。実習生たちは、日本の技能実習の実態が事前の説明と大きく違っても、借金が返せるお金を稼ぐまでは日本で働くしかないという呪縛の中に押し込められてしまっているのです。
しかし、彼らを拘束できるのは日本にいる間だけです。その実態は、日本の技能実習の経験者たちから徐々に広がり、誠実で真面目で優しいというかつての日本人たちが築き上げてきた信頼や評価を、著しく傷つけています。

「信じていた日本」に裏切られたショック

ただ、タインさんは、日本での日々を意義あるものにしようとしました。働き始めた頃、不慣れでうまくいかなかったパック詰めも、日本人従業員の人たちに尋ねながら、少しでも上達するよう努力を重ねました。スピードや仕上がりの美しさなど、自分なりに目標を立てて、それができるようになると、達成感を味わうことができたといいます。
タインさん自身が努力家だったということもあります。加えて、タインさんは、日本人に対して「ルールをきちんと守る」「真面目である」「嘘をつかない」いうイメージを持っていました。そんな日本で働けることの喜びがあったというのです。

ところが、その気持ちを裏切ることが、この2年の間に次々と起こったとタインさんは言います。会社側が、約束していたことを覆す。働いていておかしいと思うことがあっても、疑問に答えてくれない。困ったことがあっても、誰を頼ったらいいのか分からない・・・そうしたことの積み重ねがあり、極め付きが、今回の突然の解雇だったというのです。

タインさんは、日本に来てからの厳しい状況を話ながら、時々目を伏せていました。「そんなに悪い日本人ばかりじゃないことは分かっています」という言葉を添えることもありました。日本で経験した「悪いこと」を、日本人である私に訴えることに対して、心苦しさがあるのだと思います。
それでも、なお、誰かに聞いてもらいたいという気持ちが強い。それだけ、彼女たちが受けてきた苦しみは大きいのだと感じました。

そして、こうした思いを抱えているのは、タインさんだけではありませんでした。中には、今のままの状況が続くなら、日本で働きたくない、ベトナムに帰りたいと訴える人もいました。

彼女たちの失望を放置できない

タインさんたちの話を聞いていて、私は、日本人としてとても申し訳ない気持ちになりました。私たち放送局ができることは何だろうか。懸命に考えました。
まずは、彼女たちが抱えている怒りや疑問に真摯に耳を傾けること。そして、なぜそんなことが起こってしまったのか、調べること。そこから、小さいことかもしれないけれど、彼女たちが良い方向に進むヒントが見つけられないだろうか・・・同僚たちとも話し合った結果、そんな考えに至りました。
こうして、私たちの取材は始まったのです。

2020年9月1日

※この記事に関するご意見やご感想、関連する情報のご提供などがありましたら、NHK北海道のシラベルカまで、ご投稿ください。

これまでの取材の結果は、この秋放送予定の「北海道道」でご紹介する予定です。


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