NHK札幌放送局

別れの季節【野村優夫】

野村 優夫

2020年3月25日(水)午後1時50分 更新

番組改編のこの時期。
NHKアナウンサーにとっては、異動の時期でもあります。
札幌放送局からは、関根太朗アナウンサーと浅野里香アナウンサーが異動となりました。 

アナウンサーは、主に、音声表現で、様々な情報を伝えていくことが仕事です。ただ、そうした表現者としての仕事の前に、表からは見えにくい準備を日ごろから重ねることによって、鍛錬を積んでいるという側面もあります。そして、この二人のアナウンサーは、それを忠実に行っていました。

関根アナの準備は、とりわけ緻密でした。
私が札幌局に赴任したときに、関根アナから渡された北海道に関する資料ファイルです。

道内の全市町村のアクセントを記した表、高速道路や鉄道網を記した地図、お天気カメラから見える映像、地震の時に津波が到達する恐れのあるエリア、火山噴火で被害が出た時の対応…などなど、道内の様々な基礎資料がほぼすべてこの中に収まっています。こうした情報を丹念に一つ一つ集めて丁寧にファイルしながら、関根アナは頭の中に入れていました。こうした準備を厭わずに行っていたからこそ、胆振東部地震の時のような緊急報道にあたるときにも、落ち着いて、的確な放送ができたのだと思います。

また、北海道クローズアップで、直木賞受賞作「熱源」についてお伝えした時のこと。

関根アナは、小説の引用部分の朗読を担当しました。
中でも、主人公のヤヨマネクフが、亡くなった妻・キサラスイを火葬する場面。

手慣れた作業で何の造作もない。ただ、妻を焼くのは初めてだった。
せめて風が、煙となったキサラスイを故郷に連れていってほしい。
そう考えてから、ヤヨマネクフは首を振った。
風なんぞに渡してなるものか。
俺が彼女を連れて帰る。
決心と同時に、膝が崩れた。(中略)
ただ堰を切ったようにいつまでも、叫びと涙が溢れ続けた。
(川越宗一著「熱源」文藝春秋 より)

関根アナは、この場面の前後の文脈を事前に繰り返し吟味し、ナレーションに臨んでいました。そして、最後の「ただ堰を切ったようにいつまでも、叫びと涙が溢れ続けた」という一つの文章だけでも4パターンの読み方を準備していました。ナレーションを吹き込みながら、ディレクターから色々な要求があるたびに、その準備していた引き出しを開けて、対応していました。「プロとして、こうありたいな」と強く感じました。

関根アナは、長崎に赴任しました。私の初任地でもあるので、異動前に色々話しました。驚いたのは、すでに関根アナは、長崎についての知識が豊富にあったことです。赴任したらすぐに取り組みたいテーマについても、いくつか挙げていました。彼らしく、まさに準備万端の状態で長崎に向かいました。きっと、長崎の人たちに「関根アナが長崎に来てくれてよかった」と思ってもらえるだろうと確信しています。

浅野アナとは、北海道クローズアップで、ともに司会をつとめる機会がありました。

浅野アナの声は非常に個性的で、特にナレーションの時には、とても優しい澄んだ語りをします。一方で、放送の外側では、とてもガッツのある一面も持ち合わせていました。

番組内で紹介するVTRを仕上げるにあたって、ディレクターが一度編集したものをスタッフ一同で見て意見交換をし、その内容を練り上げていく作業があります。浅野アナは、先輩のディレクターやプロデューサーにも物怖じしないで、積極的に発言していました。常に視聴者にとって何が大切な情報なのか、考える姿がありました。

そうした姿勢は、パラ陸上世界大会の現地スタジオでの司会でも表れていました。

あのような現場での司会では、与えられた台本をもとに、簡単な競技の説明と、注目選手などを紹介し、粛々と進行しても、形にはなります。ただ、多くの人にとって、パラ競技は、まだまだ馴染みの薄いものです。浅野アナは、取材をもとに、その競技のどこに注目すればより楽しめるのか、自分なりの「視座」を見つけて提示することで、少しでも視聴者の皆さんに興味を持ってもらおうと毎日努力していました。そうしたことの一つ一つの積み重ねが、放送を豊かにしているのだと実感しました。

実は、浅野アナとは、デスクも隣同士でした。いつも机上は整理整頓されていましたが、引っ越しをした後も見事。まさに立つ鳥跡を濁さず、です。

浅野アナは東京に異動。4月から、関東地方のニュース番組「首都圏ネットワーク」と、タモリさんと旅する「ブラタモリ」を担当します。色の違う二つの番組で彼女のどんな姿が見られるのか、楽しみになさってください。

そして、私が1年間担当させていただいた北海道クローズアップは、今月末で終了することになりました。
4月からは、「北海道道」という新しい番組がスタートします。
北海道内のあらゆる情報をわかりやすく紹介する番組です。メインMCをつとめるのは、俳優の鈴井貴之さん。私、鈴井さんと大泉洋さんが活躍するあの伝説的番組を長年見ていまして、ミスターこと鈴井さんの熱烈なファンです。新番組「北海道道」では、アナウンサーが交代でリポーターをつとめることもあるようです。いつかスタジオでご一緒できる機会もあるかもしれないと、今からとてもとても楽しみにしています。


(2020年3月25日)


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