NHK札幌放送局

北海道クローズアップ「白馬の遺言 本屋のオヤジ 久住邦晴伝」取材記

北海道クローズアップ

2019年11月14日(木)午後5時50分 更新

本屋のオヤジ・久住邦晴さんは、本への愛情と控えめな反骨精神を源に、様々な本のヒット企画を生み出してきた。最後に仕組んだアイデアが、自らの葬式を、絵本の朗読会に変えてしまうことだった。
本を愛した男の周辺を取材ディレクターがご紹介します。

「旅先」は琴似
もとはと言えば14年前のこと。私は、その年の夏に東京から札幌に転勤となり、北海道暮らしを始めたばかりだった。広島県の出身で、雪国に住むのは初めてのこと。ママさんダンプもジョンバも知らない中で冬を迎え、上司から「まずは北海道を知りなさい」という言葉とともに指示されたのが、旅番組「北海道中ひざくりげ」の制作だった。旅先は道内どこでもかまわないとのこと。雪道の運転に自信がなかった私は、公共交通機関で取材に通える場所にしようと選んだのが、札幌の琴似だ。琴似は、屯田兵以来の歴史ある町でもあり、人情味あふれる商店街のある街でもあった。

「人の良いアイデアマン」との出会い
こうして作ることになった番組が、今回の番組でも一部をご紹介した「北海道中ひざくりげ~変化の街たくましく 札幌琴似」だ。この時、旅先の一つとして訪ねたお店で、初めて出会ったのが久住邦晴さん。その印象は「人の良いアイデアマン」というものだった。何をお願いしても嫌な顔一つせず協力していただけて、ありがたい限り。「経営はけっこう厳しいんですよ」という話も聞いたが、なにしろニコニコしながら話してくれることもあって、私は世間話の一つとしてしか受け取っていなかった。
その時の、彼の言葉の重さを知ったのは、数年後。新聞報道で店の移転や、経営危機からの閉店を知ってからのことだった。にこやかな笑顔の印象と、伝わってくる報道内容のギャップに戸惑うような気持ちだった。

思い違いを知る
そんな私が再び久住さんとの関わりを深めることになったのは、去年の夏、没後一年で久住さんの自伝が出版され、出版記念イベントが開かれると聞いてからだ。開催場所は、大通にある個人書店・書肆吉成(しょし よしなり)。あの笑顔と報道のギャップは何だったのか。気にかかりながら、様子を見に行った。
そして、驚いた。会場となった店の中は、すごい熱気だった。たくさんの人が押し寄せ、書架の隙間に老若男女の顔が並ぶ。イベントの内容は、久住さんに縁が深かったみなさんによるトークだったが、この話し手たちの熱がまたすごい。私は、その熱の渦に飲み込まれ、久住さんに関して、とんでもない思い違いをしていたことに気づかされた。彼は「人の良いアイデアマン」という一言でくくれるような人物であるはずがない。亡き彼のことを、こんなにも熱く語り、熱く聞く人々がいるのだから。こんなにも力強く、多くの人々の中に、生き続けているのだから。

久住さんの自伝の出版記念イベント 2018年8月

その後の取材から、どんな番組ができあがったのかは、ぜひ番組本編でお楽しみいただきたい。ここでは、番組をより深くお楽しみいただくため、私を熱の渦に巻き込んだ、二人のインタビューをご紹介したい。この二人は、一年前のトークイベントでの話し手でもある。
最初は、番組にも出演していただいた、久住さんの娘・絵里香さん。クスミエリカの名で写真家として活躍中だ。番組では、父・邦晴さんについて語っていただいたが、ここでは、幼少期から邦晴さんに導かれる形で知ることになった本の世界が、彼女にどんな影響を及ぼしたのかを紹介したい。彼女の言葉からは、本の世界に触れることが、人の一生に豊かなめぐみを与えてくれることを感じていただけるだろう。

インタビュー:本と人生~久住絵里香さん

そして、もう一人が、政治学者の中島岳志さん(東京工業大学教授)。中島さんは、3年前まで北海道大学に勤務しており、久住さんと親交を深めた。久住さんの著書『奇跡の本屋をつくりたい』の出版にも尽力し、解説文を執筆している。中島さんの言葉からは、現代社会における久住さんの活動の価値や、本屋のこれからんについて見つめ直すことができるだろう。

インタビュー:久住さんがやろうとしたこと~中島岳志さん

インタビュー:新しい本屋のあり方~中島岳志さん

北海道クローズアップ
「白馬の遺言 本屋のオヤジ 久住邦晴伝」
取材・制作 ディレクター 田辺陽一(NHKプラネット北海道) 

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