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知床観光船事故 遅れた救助 海上保安庁の教訓

  • 2023年5月11日

社会に大きな衝撃を与えた去年の観光船沈没事故をめぐっては、運航会社の安全管理のずさんさだけでなく、海上保安庁による救助活動の初動の遅れも課題として残りました。あの事故を教訓に海上保安庁の救難体制はどう変わったのでしょうか。 (札幌局記者  川口朋晃・生田真尋) 


「もっと出来ることはあった…」捜索現場の悔恨

去年4月23日、知床半島沖で26人が死亡・行方不明になった観光船「KAZU  Ⅰ」の沈没事故。海上保安庁に事故の1報が入ったのはその日の午後1時すぎのことでした。観光船から無線で連絡を受けた同業会社が「カシュニの滝付近で沈みかかっているようだ」と連絡してきたのです。5分後には、観光船からも直接、携帯電話で「船首が浸水している。エンジンが使えない。救助を頼む」という通報がありました。

道内の海を管轄する第1管区海上保安本部(以下「1管」)は人命救助に向かうよう関係各所に指示しましたが、ことごとく狙いが外れます。
現場に最も近い釧路航空基地には2機のヘリコプターが配備されていましたが、整備中だったり別任務で飛行中だったりしてすぐには出発できませんでした。結局、潜水士を乗せて現地に到着できたのは通報からおよそ3時間がたった午後4時半ごろでした。

このほか、函館航空基地のヘリコプターは給油などに時間がかかり、通報から5時間以上あとになって到着。網走港に停泊していた巡視船にいたっては、悪天候のため10時間余りも出港できないまま港に足止めされました。
当時、潜水士として現場で捜索活動にあたった1管の神谷高仁さんは当時の初動対応について、じくじたる思いを抱いています。

1管釧路航空基地  神谷高仁さん
「1人の命も助けられず、まだ行方がわかっていない人もいます。悔しさもあるし、もっと出来ることはあったのではないかと今も頭をよぎります」


批判を受け救難体制を強化

「早く到着できていれば、生存者がいた可能性だってあったはずだ」。乗客家族をはじめ、地元自治体や北海道からも批判の声が相次ぎ、海上保安庁は救難体制の強化を迫られました。

対策の1つとして、ことし4月から1管の釧路航空基地に救助を専門とする機動救難士9人を新たに配属させました。9人の中には、現場で捜索にあたった神谷さんもチームリーダーとして含まれています。

島国の日本は海上保安庁のカバーエリアが広く、これまで道内では、知床半島を含む道東と道北の一部エリアは機動救難士が1時間以内に駆けつけられない空白域でした。それが、今回の人員配置によって知床半島を含む道東エリアはカバーされることになりました。

釧路航空基地  神谷高仁 上席機動救難士
「どんな過酷な状況であれ、海難現場から人命を救助するという強い使命感を持ち、さらに技能・技術を身につけて国民の皆さまから信頼される機動救難士のチームにしていきたいと考えています」


さらなる課題の克服に向けて

体制は強化されても、まだ課題はあります。
まず1つめに、1時間で駆けつけられない空白域は依然として、道北の一部に残っています。この海域で「KAZU  Ⅰ」の時のような大事故が起きた場合、どのように迅速な救助につなげるのか具体的な方策は示されていません。

そして、もう1つの課題は、海上保安庁の巡視船の老朽化です。知床沖の事故の際、網走港に巡視船が足止めされたのは、船体が古く、悪天候のなか出港するための特別な装備がなかったからでした。また、オホーツク海沿岸の港にはヘリコプターが離着陸できる大型の巡視船は配備されていません。このため、海上保安庁は今後、巡視船の配置換えなどを行って道内により高性能で大型の船を配置する予定だということです。
一方、海上保安庁で長年、警備救難の業務に携わった日本水難救済会の遠山純司理事長は、人員や資機材の強化だけで終わらせず、状況に応じた救難体制の柔軟な運用こそが大切だと指摘しています。

日本水難救済会  遠山純司 理事長
「事故が起きたあとに対策を講じるのではなくて、事件や事案が起こりそうな予兆をキャッチして、そこに先手先手に対策を講じていく必要がある。事件や事案を予知しながら、状況に応じて集中配備する。そういう迅速かつ柔軟なオペレーションが要求されていると思います」

今回の観光船の沈没事故は、水温が低い海での救助の難しさを浮き彫りにすると同時に、海上保安庁の救難体制にも改善を迫るものとなりました。海上保安庁は当時の初動対応に問題がなかったのか、みずから検証を行い、予期せぬ事案にも対応できるだけの体制を構築してほしいと思います。

2023年5月11日


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