NHK札幌放送局

津波避難 その10分が生死を分ける

ほっとニュースweb

2022年3月4日(金)午後3時24分 更新

・あなたの家の耐震化、済んでいますか?
・家具は固定していますか?
・避難先がどこか知っていますか?

東日本大震災から11年。私たちに何度も問いかけられてきた防災の質問です。
聞き飽きたという方もいるかもしれません。
しかし、その対策をとることで命が助かるとしたらどうでしょうか。
北海道のある自治体が行った津波シミュレーションが衝撃を与えています。
見えてきたのは「生死を分ける10分」です。
(釧路放送局 記者 島中俊輔)

衝撃のシミュレーション

北海道東部の太平洋側に位置する浜中町は人口5500人の町です。
千島海溝沿いの巨大地震が起きた場合、中心部の霧多布地区では10m近い津波が襲うと想定されています。海沿いの住宅地はほとんどが浸水域で、裏手にある海抜40mの高台の上に避難する必要があります。

浜中町は去年10月に町民が参加して津波避難訓練を行いました。徒歩で高台に逃げる訓練です。10歳から92歳までの50人にGPS端末を身につけてもらい、位置情報と避難にかかる時間を計測しました。
このときのシミュレーション結果が今、住民に衝撃を与えています。

こちらがそのシミュレーションです。
画面上の赤い点が避難者。そこに紫色の津波シミュレーションを重ねていきました。

地震発生から5分後に避難を開始した場合、津波到達前に全員が高台や建物に逃げることができました(画面左下)。しかし、地震発生から15分後に避難を開始した場合、赤い点が紫色の津波に飲み込まれているのがわかります(画面右下)。多くの人が津波到達までに避難場所に逃げられないという結果でした。
このわずか「10分の差」が生死を分ける境目になっていることがわかったのです。

霧多布地区の町内会長 中山眞一さん
「心配だ。私も年寄りの1人だが、町内会も年寄りばかりなのでどうしたらいいか」
浜中町防災対策室 石塚豊室長
「なんとなく意識はしていたが、実際にシミュレーション上で視覚的に突きつけられると、やはり衝撃です」

このシミュレーションを作成した北海道立総合研究機構の戸松誠研究主幹は、早期避難の重要性を一目で分かりやすく伝えることが目的だったと話しています。

道総研 戸松誠研究主幹
「5分後に避難開始という一番早いパターンで避難できれば全員なんとか間に合う。しかし、ちょっとした戸惑いや準備に時間がかかると、家を出るまでに15分くらいは平気でたってしまう。そういう状況になった瞬間に、間に合わずに津波に飲み込まれてしまう状況になってしまう。このシミュレーションによって避難の重要性を伝えられると考えた」

5分後に家を出られる?

シミュレーションでは地震発生から5分後に避難すれば助かるという結果でした。
しかし、本当に5分後に避難を始められるか不安に感じている人もいます。

霧多布地区に住む天間館りゆう子さん(74)は、防災への関心が高く、去年10月の訓練にも参加しました。天間館さんが思い起こすのは11年前の東日本大震災の日です。北海道も激しい揺れで、リビングのテレビが飛び、ふすまを破壊しました。過去の地震では棚の食器が飛び出して散乱し、室内が足の踏み場のない状態になったこともありました。すぐに避難に向かえる状況ではなかったのです。こうした教訓から一部の家具を固定する対策をとりました。

天間館りゆう子さん
「夜中に地震が起きた場合、物がいっぱい散乱してる中で、家から出るまでにどれぐらいの時間がかかるんだろうか。本当に避難場所に早く行けるかどうか、大きな不安があります」

避難をはばむ冬道

さらに冬道の避難も心配材料です。
2月に取材に訪れた日は、雪が降った直後で天間館さんの自宅前の道路は、路面が凍結し、でこぼこになっている箇所もありました。霧多布地区は高齢者が多く、雪道で足元が悪い中、高台まで歩いて避難できるのか懸念が残ります。去年10月の訓練のときよりも、さらに時間がかかる可能性があります。
去年12月に国が発表した千島海溝沿いの巨大地震の被害想定では、冬の深夜に地震が発生した場合、避難に時間がかかるとして、死者数が10万人にのぼると最も厳しい数字を出しています。

天間館りゆう子さん
「周りに雪があったりして寒い時期だと、外に出る前に防寒着を着なくてはいけない。
 そういうことを加味すると、冬場はもっともっと避難に時間がかかる気がします」

生死を分ける10分をつくるには

生死を分ける10分をどう生み出せばいいのか。
道総研の戸松研究主幹に聞いたポイントを、図にまとめました。

①家の耐震化
「建物が被害を受けたり、倒壊してしまったりしたら、自分自身が外に出れないのと同時に、避難経路をふさいでしまう可能性もあります。自分の住んでいる建物が揺れで壊れないよう耐震化をきちんと図っておく必要があります」

②家具の固定

「家具が倒れて出入り口をふさぐとすぐに外に避難できません。家具をきちんと固定をしておくことが大切なポイントです。しかし、すべての家具を固定するのは難しいのが現実なので、寝室や外までの動線では不要な家具をなるべく減らすような工夫をしましょう」

③避難場所・ルートの確認を!

「避難場所がどこかを知らないと避難行動を遅らせる原因になります。避難場所にすぐにまっすぐに向かっていくことが避難の成否を分けるポイントです」

このほか、▼非常用持ち出し袋をふだんから準備しておくこと、▼避難経路を除雪しておくことも大事です。こうした基本的な備えが、命を守る大切な数分を生み出すのです。

被害は減らせる

去年12月に発表された国の被害想定は、死者数10万人などショッキングな数字が並んでいますが、一方で、望みがないわけではありません。▼避難の迅速化、▼津波避難施設の活用、▼建物の耐震化率の向上によって、被害を8割減らせるというのです。

浜中町は今回のシミュレーションを教訓に、住民の防災意識の向上を図り、被害軽減につなげたいと考えています。

浜中町防災対策室 石塚豊室長
「一刻も早く迅速に避難してもらうことが非常に大切なことが分かった。対策を講じれば大幅に被害を軽減することができる。1分、2分の違いが生死をわける分岐点になる」

あなたの対策、万全ですか?

ここで冒頭の質問に戻りたいと思います。

・あなたの家の耐震化、済んでいますか?
・家具は固定していますか?
・避難先がどこか知っていますか?

東日本大震災から11年のいま、改めてこの問いに真剣に向き合ってみませんか。
10分があなたの命を救うかもしれません。

備えのヒントはこちらのまとめ記事から

<取材した記者>
島中俊輔(釧路放送局・放送部)
2009年入局。静岡・鹿児島局、スポーツニュース部を経て、2021年から釧路局。防災を担当

2022年3月3日

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