NHK札幌放送局

生きづらさ抱える青年たち 十勝の畑で生き直す

ナナメの場

2022年8月12日(金)午後5時23分 更新

「学校には友達がいない、親の家にも入れない、施設にいてもいじめられた。仕事を始めてからも、職場になじめない。どこも俺の居場所じゃないなって思ってた 」――
十勝に、児童養護施設や少年院を出た青年たちが通う畑があります。 生きづらさを抱える青年たち、そして彼らと向き合う人たちの日々を見つめました。

畑を居場所に

十勝の幕別町。大規模な農業が盛んなこの地域に、少し変わった畑があります。

日曜日、その畑に集まり汗を流すのは、農家ではありません。
普段は別の仕事をする社会人や、大学生、親子連れに、外国人。
そして、児童養護施設や少年院出身の青年たちです。

「畑で仲間に囲まれ汗を流しながら、ありのままの自分を受け入れていく。みんなで生きる場所、みんなの長所を生かせる居場所を作りたい」――
そんな思いでこの畑を「ミナイカシ」と名づけたのは、NPOの代表、堀田豊稔(ほりた・とよとし)さん(47)です。

これまで堀田さんは、児童養護施設や少年院を出たあと頼れる身寄りもなく孤立してしまう青年たちを受け入れるため、住まいを整えたり、仕事をあっせんしたりするなど、社会復帰を支援してきました。

そして2年前から力を入れているのが、この畑。
十勝で働く外国人のサポートをする団体、大学生の農業インターンを運営する団体とともに立ち上げました。
知り合いから譲り受けた休耕地を耕し、ジャガイモやカボチャなどを栽培しています。

目的の一つは、育てた作物を売ってNPOの活動資金にすることですが、それだけではありません。
社会で生きづらさを感じている青年たちに、青空のもとさまざまな人たちと一緒に働くことで、心を豊かにしてほしいといいます。

NPO法人スマイルリング 堀田 豊稔さん
「この畑は、みんなが集まれるコミュニティーの場になってきていて。
ちょっと仕事が長続きしない、仕事に行けていないという子も、ここにはなぜかくるんです。何か感じているんでしょうね、青年たち一人一人」


児童養護施設で育った20歳のテルキは、畑にやってくる子どもたちからいつも遊びをせがまれる人気者です。

児童養護施設や学校などでは人間関係に悩み、今でもコミュニケーションに苦手意識があるテルキ。
しかし、畑に来る人たちとは、一緒に作業したり、ランチを食べたりする中で、自然と会話が進みます。

テルキ
「ずっといじめられたりとか、先生とケンカしたりとかばっかりで、居場所がなかった。コミュニケーションはこの畑で学んだかな。ここがいちばんの居場所かもしれないですね、今までの中で」


同じ目線で

堀田さんのNPOが運営する帯広市の一軒家では現在、3人の青年が共同生活を送っています。

平日の日中は堀田さんが経営する工事会社で働き、お腹をすかせて帰ってくる青年たち。
そんな彼らのごはんを作るのは、NPOのスタッフ、野々村千晶さんです。
自身の仕事を終えた後、毎日のようにここへ来て料理をしながら、青年たちと向き合っています。

野々村 千晶さん
「こういう活動をしていたら、ごはんが絶対大事だろうと思って。それで、来ていいですかって言って来させてもらって」

一緒に買い物に行ったり、台所で料理の味見をしたりしながら、青年たちは少しずつ、自分の過去の経験や今の悩みを野々村さんに打ち明けていきます。


野々村さんを「お母さん」と呼び、堀田さんや野々村さんを慕うのが、ホームで暮らす青年の一人、21歳のリク(仮名)。

幼い頃から虐待を受け、施設を転々とする中で荒れた生活に。2年半の間、少年院で過ごしたこともあります。

リク
「明らかに一緒の教室のほかの子と自分は違うって感じてた。劣等感です。いつも、自分なんかダメだって思う」


堀田さんは、リクたちの話をまずは聞き、受けとめることを大切にしています。
そこには、自分自身の経験からくる思いがありました。

釧路で生まれ育った堀田さんは、学校にはほとんど通わず、17歳で暴走族のリーダーに。
少年院、さらに薬物に手を出し、刑務所にも入りました。

出所後、日雇いの仕事で食いつないでいた頃、ボクシング教室の手伝いとして児童養護施設を訪問。そこで一人の少年と仲良くなります。
周りに暴力をふるい職員も手を焼いている彼の姿が昔の自分と重なり、とにかくたくさん遊んでたくさん話を聞いた堀田さん。後日、感謝の手紙が届きました。

堀田さん
「手紙に、『今までずっと施設にいるのは嫌だと思っていたけど、今日初めて施設にいて良かったと思えた。なぜかって、トヨ(堀田さん)と出会えたから』と。何のために生まれてきたんだと思っている僕に対して、俺と出会えたからよかった、ありがとうって言ってくれる子達がいるんだって思ったら、本当に嬉しくて涙が止まらなかった。この活動を生涯通してやっていきたいって、その時思いました」

若いころ、悩んだとしても周りに相談したいと思える大人はいなかったという堀田さん。
だからこそ、8年前にこの取り組みを始めた時から、青年たちと同じ目線に立とうとしています。

堀田さん
「よく生きてきたなっていう子たちですよ。無口だったり、嘘をついたり、暴力を振るうだとかも、その子なりに生きてきた中で身に付けてきた、自分たちが生きていくためのスキルなんです。
だから、良い時も悪い時も見放さない。自分の若い時のことを思い出して、同じ目線に立って関わる。それで普段はふざけたことしか言わないんですけどね。
網の目からこぼれ落ちちゃったような子たちこそ、関わっていかなきゃいけないと思っています」


リクは、そのままの自分を受け入れてくれる堀田さんや野々村さんと接するうち、安心感をおぼえるようになったといいます。

リク
「2人は親みたいな存在です。今まで、自分の周りにいる人たちって、みんなどっか行っちゃったんですよ。だから、別に誰かが突然いなくなっちゃったり嫌われたりしても、あまり気にしなかった。というか、気にしててもしょうがないじゃないですか。
でも、トヨさんやお母さん(野々村さん)は離れていかないんじゃないかなって、少し思ってます」


ケンカ、家出…もがく青年たち

6月のある日曜日。この日の畑には、前の月に堀田さんのもとへ来たばかりの青年、ケント(仮名)がいました。

最初は不安げだったケントも、大人たちに「よく来たね」と話しかけられたり、草取りをしたり、子どもたちと遊んだりするうちに、笑顔を見せていました。

そこへ一人遅れてやってきたリクは、ケントと一緒に作業しようとしません。
数日前にケンカし、仲直りできずにいたのです。


それから半月後。
リクはこの日も、ホームで別の仲間と言い争いになり、声を荒げてしまいました。

仲間が部屋に戻ったあと。つい感情を爆発させ、これまで何度もつまずいてきた自分へのもどかしさを打ち明けました。

リク
「わっとなると、人のこと考えられなくて、いろんなことやっちゃう。
本当は自分も学校に行きたかった。高校だって行きたかったけど、行きたいって言ったって行かせてくれないし、お金ないと行けないし。
俺だって普通に生まれてみんなみたく生活したかった。そういうことなんですよ」

野々村さんは、そんなリクの話を静かに聞きます。

野々村さん
「この子の言ってることはその通りなんです。だけど、誰よりも清らかなものも持ってるから。もう想像を絶するような経験をいっぱいしてる。だけどやっぱり純粋。だから、苦しいと思う」


翌日。リクとケンカしたままだったケントが、行方をくらましてしまいました。
幸い、連絡は取れた堀田さん。気持ちが落ち着くまでは戻らなくていい、帰ってくるならいつでも受け入れると、ケントに伝えました。

堀田さん
「(ケントは)まだ悩んでるっていうから。戻りたい、俺たちと離れるのはさみしいって。
帰ったら迎えようって、みんなにも伝えた。とりあえず、俺を頼ってきた人間は誰でも拒まねえって決めたんだって」


“みんなをいかす”畑に

7月最後の日曜日。
堀田さんはこの日、リクたちに見せたいものがありました。

カボチャ、豆、トウモロコシという異なる野菜を、あえて一緒に植えることで、互いの性質をいかしあう栽培方法です。

堀田さん
「とうきびが支柱のかわりになって豆を支えてくれて、カボチャがヨコに広がるからマルチ(覆い)の代わりになる。豆は窒素を作ってくれる。3つが支え合って助け合って成長していく」
リク
「自分とホームの仲間みたいな」
堀田さん
「そうだな、助け合って。たまにはつかみあってもいい。だけど仲直りするんですよ、こいつらは。気づいたら仲いい。だったら初めからケンカするなって言いたいんだけど。それはまだな」

ありのままの自分を受け入れ、周りの人とともに、社会で生き直す。
ここでの日々が、その土台になればと、堀田さんは考えています。

堀田豊稔さん
「はた目には分からなくても、青年たちのちょっとの変化ってわかるんですよ。変わってきたなって。良くなってきて、また戻るんですけどね。でも、戻る振れ幅がだんだん少なくなってきて、どんどん成長していくのを見たら嬉しいです。
ミナイカシの畑に来る人は、思いはひとつなんだけど、考えは人それぞれみんな違いますし、性格も違うし。だからいいんです。いろんな人が来て、笑顔でコミュニケーションをとりながら、みんなが長所を生かし合える場にしていけたらと思っています」


行方をくらましてしまったケントは、まだ帰ってきていませんが、別の場所で仕事を見つけたと堀田さんに連絡がきたそうです。
ここを去った人とも定期的に連絡をとっている堀田さん。なにかあったときにはいつでも支援し、自立へ向けた後押しをしたいと考えています。

2022年8月12日


NPO法人スマイルリングは児童養護施設や少年院出身の青年たちの社会生活・自立を支援する団体です。
シェアハウス運営、相談・生活・就労サポート、畑での活動(ミナイカシ畑)などを行っています。
取り組みへの参加や支援について、詳しくはスマイルリングのホームページをご覧ください。


こちらの記事も!

根室と十勝のほっとできる“居場所” 訪ねてみたら…

札幌の「いとこんち」 たまには”自分ち”をひとやすみ

#ナナメの場 トップページ


関連情報

“読む”ラジオ あなたの町の“#ナナメの場”   ~帯広 …

ナナメの場

2022年2月24日(木)午後1時08分 更新

縦・横・ナナメのネットで、地域の子育てを受け止める「ぷれい…

ナナメの場

2022年2月18日(金)午後6時41分 更新

“読む”ラジオ #ナナメの場 ~後編 場づくりトーク~

ナナメの場

2021年9月28日(火)午後1時10分 更新

上に戻る