プロ野球・ヤクルトから4位で指名された坂本拓己投手は人口およそ2400人の奥尻島出身。奥尻島からプロ野球選手が誕生したのは通算165勝を挙げた佐藤義則さん以来、46年ぶりの快挙です。「応援してくれる人のために」プロでの飛躍を誓う坂本投手のことしにかける思いを取材しました。
(函館放送局 奈須由樹)
奥尻島から46年ぶりの快挙

坂本拓己 投手(入団の記者会見)
「ユニフォームに袖を通してやっとスタートラインに立てたので早く1軍に上がれるように頑張りたい。将来は最多勝を狙える投手になりたい」
知内高校の坂本拓己投手。
左腕から繰り出す最速147キロの速球にキレのあるスライダーを駆使して、去年夏の函館支部予選では3試合15イニングを投げ、22個の三振を奪って無失点に抑えました。
続く南北海道大会では決勝進出までの3試合を1人で投げ抜き4失点と好投。
町立の高校を初の準優勝に導き、才能を大きく開花させました。

甲子園出場はならなかったものの、将来性が期待できる左腕としてドラフト会議でヤクルトから4位で指名されました。
体重増で飛躍を誓う
ドラフト以降もおごることなく、プロ入りに向けた練習を続けてきました。
厳しい世界で活躍するために、特に取り組んだのが体作りです。
もともと食が細い坂本投手ですが、夕食に1キロの米を食べるなどし、去年の夏から7キロの増量に成功しました。
坂本投手
「冬も近づいてきてなかなか外で練習できなかったので体作りを中心に行いました。特にごはんを食べることを意識しました」
坂本投手の栄養面を3年間支えてきた寮母の宮武比奈子さんは、成長を実感しています。

宮武比奈子さん
「知内高校に入学したときは普通の少年でしたが、本当に成長しました。特にこの冬はたくさん食べて体重も増えました。東京に行ってしまうのはさみしいですが、早く1軍で活躍してほしい。試合を見に行くのが楽しみです」
増えた体重を生かすため、下半身を徹底的に鍛えました。
北海道の厳しい冬では外での走り込みが満足に行えないため、室内でウエイトトレーニングを重点的に行いました。
スクワットはおよそ180キロの重さを上げるといいます。

ノビのある速球に
坂本投手の1番の持ち味はコースをつく力強いストレートです。
体重と筋肉が増えたことで、持ち味にさらに磨きがかかりました。

坂本投手
「体重が上がったことで体重移動がしっかりできているのでその分球に体重を乗せることができた。キャッチャーにも球の威力が上がっていると言ってもらっているし、自分でも低めの速球が伸びてきている感じがする」
奥尻島の大先輩もエール
坂本投手は人口わずか2400人の離島・奥尻島の出身です。
奥尻島出身で初めてプロ野球選手となり、阪急などで通算165勝を挙げた郷土の大先輩、佐藤義則さんが坂本投手にエールを送りました。

佐藤義則さん
「奥尻島は年々人口も減っていて、もうプロ野球選手は出ないと思っていたのでびっくりする気持ちが大きい。よくプロ野球選手になった。自分の165勝の記録を超えられるように頑張ってほしい」
坂本投手
「自分がプロ野球選手になることで奥尻島という名前を全国に出すことができてうれしかった。目の前のことを1つ1つやっていけば佐藤義則さんの記録の165勝を超えることも可能だと思う。ただ、先を見過ぎず目の前のことをちゃんとやっていきたい」
さまざまな支援に感謝
奥尻島から海を渡って知内高校に進学した坂本投手。
全校生徒わずか163人の全国的にも珍しい町立の高校です。
坂本選手は、島を離れ寮生活を送りましたが、町の農家や父母会からたくさんの差し入れを食べることで増量し、入学したときよりも球速はおよそ30キロアップしたといいます。
大会で函館や札幌に向かうときには町民や父母などが寮の前まで毎回見送りに来ます。

坂本投手はエースとして町の大きな期待を一身に背負ってきました。
その中で、知内高校の吉川英昭監督の教えでもある「周りに応援される選手を目指せ」というそのことばを胸に知内高校で3年間過ごしました。
そして、「応援してくれた人のために勝つ投手になりたい」という思いが芽生え、みずからの成長につなげていきました。
“1つ1つちゃんとやる”
2つの町への思いを胸にさらなる飛躍を誓う坂本投手。
厳しいプロの世界でルーキーイヤーにかける思いを色紙に書いてもらいました。
坂本投手
「『1つ1つちゃんとやる』。1年目なのでけがをしないことがまずは第1なので焦らずにちゃんと1つ1つやれたらと思う。1年目なので体作りをしっかりしていき、将来的には先発投手として最多勝などを狙える投手になりたい」

応援してくれる人のために!
生まれてから中学卒業まで過ごした奥尻島と、プロに指名される選手にまで成長する高校時代を過ごした人口およそ4000人の知内町という2つの小さな町で育った坂本投手。
今まで支えてくれたすべての人のためにプロでの飛躍を誓います。
坂本拓己 投手
「今までたくさんの方々に応援してもらい感謝しています。奥尻島や知内町を離れるのは少しさみしい気持ちもありますが、自分で決めた道なので自信を持って今後活動していきます。プロ野球選手になることはゴールではなくスタートなので、今度は自分が活躍することで、今まで応援してくれた人に恩返しをしていきたい」

【取材後記】坂本投手を追って半年
私はこれまでに坂本投手を取材するため知内町を20回ほど訪れました。
坂本投手は函館支部予選から全試合見ているため、特に思い入れの強い選手です。
半年間の取材の最後に坂本投手に夢は何かと聞きました。
「小さな子どもたちに夢を与えられるような選手になりたい。子どもたちにプロ野球選手になりたいと思ってもらえるのが自分の夢」
坂本投手のヤクルトでの背番号は「56」。
大リーグを目指す少年の成長を描いた漫画「MAJOR」の主人公と同じ背番号です。
この主人公のようにプロの世界で活躍し、子どもたちに夢を与えられるような投手になることを期待したいです。
2023年1月11日

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