~布施美樹さん・大野農業高校相撲部顧問~
アナウンサーの向井一弘です。
ことしも年明けとともに大相撲初場所が始まりましたね。
相撲と言えば、道南には伝説のアマチュア力士がいます。大野農業高校教諭で相撲部顧問の布施美樹(ふせ・よしき)さんです。8歳の時、農機具に巻き込まれ右腕の肘から先を失いましたが、高校から始めた相撲で全道王者となり、3年時には全国高校総体ベスト8。

高校2年生の高校総体で全国初勝利
社会人になってからも全日本選手権に出場するなど活躍しました。これまで23年間、東京の高校で指導者を務めてきましたが、去年、大きな覚悟を持って北海道に帰ってきました。抱き続けた故郷への思い、帰ってくるまでの経緯、そして今年にかける思いを聞きました。
教員生活23年“もう一度北海道を目指そう!”

布施さん
東京で教員になって、いつの間にか自分は東京で指導者人生を全うするんだろうと思っていたんですけどね。5年ほど前に“北海道の教員採用試験は49歳まで受けられる”って聞いたのがきっかけでした。そして、3年前に“北海道、もう一度目指そう”って思うようになりました。ちょうどその年の3月で(コロナの影響で)部員がゼロになったんです。区切りがあったところで、“(東京での)23年はこれからの北海道での教員生活のための糧なんだ”って信じて決めました。
布施さんにとって北海道の教員採用試験は大学卒業時に2度挑戦して結果を出せなかった苦い思い出。そこにもう一度挑み47歳で見事合格。そして去年2月、通知された赴任先はなんと母校・大野農業でした。
布施さん
電話で教育委員会にかけて赴任地を伝えられるんですけど、本当に、現実に、郷土に帰れるだけじゃなくて、母校に帰れるという。だいぶ間は空いたんですけど、二重の喜びでした。
人生は変えられる
いま、相撲部員に対して布施さんは「何かに打ち込むことで人生は変えられる」と指導しています。

大野農業高校での指導の様子
布施さん
正直、中学までは身体障害者ですよ。それが、本当にまわし1つになって全てをさらけ出して、高校から相撲を始めてまさか3年目で全国の8番目の中に自分がいるんです。相撲の選手としてだけでなく、(周囲の)好奇の目にも勝つことができた。人間としても成長できたんじゃないかなと思っています。

高校時代の布施さんの稽古の様子
現在、大野農業高校相撲部は部員4人ほど。今年度の全国高校総体も団体で出場しましたが、部員不足は慢性的。選手としても指導者としても経験豊富な布施さんの指導に期待が寄せられています。

現在も十分体が動く布施さん。稽古ではまわしを締めて部員に胸を出し、実際に動きながら手本を見せます。こうして東京での23年間で8人の選手を全国大会まで導きました。

平川楓希選手(1年)
(布施先生は)片手だけど片手とは思えない、感じさせない強さです。

竹山竜世選手(1年)
(布施先生は)実際にまわしをつけて、手本を目の前で見せてくれます。説明が凄く上手なので、パッと頭の中に入ってきて分かりやすいんです。
今年は全国高校総体 最高の舞台を
布施さんはいま、週の半分は出向という形で別の場所で働いています。今年の全国高校総体の相撲競技が開催される北斗市の実行委員会です。大野農業高校の地元です。布施さんの仕事は、運営計画の作成から役員の制服のデザインまで多岐に渡ります。

布施さん
今までは審判や選手としてしか関わっていませんでしたが、いろんな方々のご支援なくして大会は開催できないということを改めて感じています。そして、会場を見渡して、そこで自分が教えている生徒たちが戦っている、そして1つでも2つでも勝ってくれる。そういうイメージをしながら、インターハイ(全国高校総体)を今か今かと待ち望んでいるんです。
自らの人生を切り開くきっかけになった全国高校総体。ことし、その舞台を自らの手で用意し、ふるさとの後輩たちを立たせてあげたいと布施さんは強く願っています。
布施さん
私はケガをしていなかったら、間違いなく地元で就職先を見つけて、多分平凡な人生で終わっていただろうと思います。間違いなく思っています。

チャレンジ精神を貰うための大きな試練だったかもしれない右腕のケガっていうのは、今にすごく生きているなと思っているんです。そういう宝をいっぱい貰ったんで、ここからはそれをどんどん発揮するしなかいと思っています。

最後、「チャレンジ精神を貰うための大きな試練だった」と布施さんはおっしゃいましたが、自分が8歳で片腕になっていたら布施さんのようなチャレンジ精神を持てたのか、全く自信が持てません。ただ、布施さんの数々のエピソードや言葉から、「これを成し遂げるのだ」と思いを定め、その熱量を保ち続けることで人生は切り開けるということを、私は心の深いところで納得することが出来ました。「人生で壁にぶつかった時はどうすれば良いんですか?」と聞くと、布施さんは「その場でいま出来ることをやるしかないんです」と優しく笑いながら言いました。人生で何が起きようと、受け取り方は自分次第。「人生の宝は、あなたが今いるその場にある」と言われたような気がしました。
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