政府が示したロシア産石炭の輸入禁止の方針を受けて、道内に拠点がある企業も対応を迫られています。ロシアは石油やLNG・液化天然ガスだけでなく、石炭の輸出大国でもあります。ロシア産石炭からの切り替えが、今後、さまざまなモノの値上がりにつながるという心配が広がっています。
突然の“ロシア産石炭禁輸”方針に波紋
「第1にロシアからの石炭の輸入を禁止致します」
4月8日、岸田総理大臣は新たな経済制裁を発表。まず第1にロシア産の石炭の輸入を最終的に禁止すると説明しました。突然、明らかになったこの方針に、道内に工場などの拠点がある企業は対応に追われました。
各社が戸惑ったのは、ロシア産石炭が存在感を増してきていたことが一因です。
IEA=国際エネルギー機関のまとめによりますと、主に発電用に使われる「一般炭」と呼ばれる石炭の輸入量は、おととし・2020年は2196万トンでした。オーストラリアに次いで2番目に多く、全体の15.6%を占めています。

この量、年々増加していました。2000年にはおよそ430万トンにとどまっていて、20年で5倍以上に増えたことになります。
石炭はさまざまな原料やエネルギー源としても幅広く活用されています。一番使われているのが「電気業」、つまり発電です。次いで「鉄鋼」、セメントやガラスなどの「窯業土石」と続いています。それだけに波紋は広がりました。
北海道電力はロシア産契約せず
もっとも石炭を使っている「電気業」の北海道電力が、さっそく対応を打ち出しました。ロシア産の石炭の新たな契約は行わない方針を明らかにしました。

北電にとって、石炭の火力発電が2020年度の発電量の半分以上を占める主力電源です。石炭の調達先としては、オーストラリアが最も多く、ロシア産も10%近くあります。
北電によりますと、今年度末までに発電に必要な石炭は調達のメドがたっていることから、ロシア産の契約をしなくても、電力供給への影響はないということです。
北電は「ロシアからほかの国で生産される石炭に調達先を切り替え、電力の安定供給確保に努めていく」としています。
道内拠点企業も続々対応に
対応を迫られたのは「発電業」だけではありません。
道内でビートを原料に砂糖を生産している「北海道糖業」では、工場で使う石炭のおよそ30%をロシアから輸入していましたが、ことし10月からオーストラリア産に切り替えることを決めました。

北海道糖業 北見製糖所
また、苫小牧市などに工場がある製紙大手の「王子ホールディングス」は、燃料の石炭の3分の2ほどはロシア産でしたが、3月の荷揚げを最後に原則、輸入をやめました。
工場が北斗市にある「太平洋セメント」も、石炭の6割がロシア産でしたが、オーストラリアなどからの調達を増やしています。
しかし、各社がいっせいに産地を切り替えることになれば契約できなかったり、運ぶ船を確保できなくなったりするおそれもあり、懸念の声も強まっています。
消費者への影響は?
そして、気がかりなのが消費者への影響です。ロシア産石炭の禁輸で将来的に何が起こるか、エネルギーの専門家に聞きました。
日本エネルギー経済研究所 佐川篤男 研究理事
「(主に発電用の)一般炭でいうと、一番多いのはインドネシア産とオーストラリア産で、それらを中心にまず増やし、代替していくということになると思う。あとはアメリカやカナダ、南アフリカといったところからも少しずつ増やしていくだろう。ほかの国も(禁輸に)追従するならば、取り合い、競争になってしまうので、価格が一段と上がる可能性はある」

まずは石炭の価格が上がり、それが電気料金の上昇を引き起こす、ひいてはさまざまなモノの値上がりにつながると指摘しています。
日本エネルギー経済研究所 佐川篤男 研究理事
「電気料金に当然はね返って来ることになるので、そこが、いちばん消費者が感じるところではないか。それ以外だと、セメント業、製紙業といった産業で石炭を使っているのであれば燃料価格が上がるので、当然、製品価格に転嫁しなければならなくなり、製品についても価格が上がってくる」
ウクライナ情勢が緊迫する前から、すでに電気代、ガソリンや灯油などのエネルギー価格は上昇。さらに小麦粉や食用油といった食料品の値上げも相次いでいます。そこにロシア産石炭の禁輸は拍車をかける恐れがあり、くらしへの影響は避けられない見通しです。
(札幌放送局 山口里奈)
2022年4月18日
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