伝説の横綱、千代の山と千代の富士を生んだ町、北海道南部の福島町。
この町で行われてきた女性だけの相撲大会が4年ぶりに開かれました。
大会に強い気迫で臨んだ、1人の女性。
しこ名も「まこデラックス山」の挑戦を追いました。
(取材:NHK函館放送局 奈須由樹)
大会3連覇中 まこデラックス山
北海道知内町出身で、東京で准看護師をしている西山まこさん。
身長155センチ、体重125キロの恵まれた体格で相手を圧倒。
得意技は、大横綱・千代の富士をほうふつとさせる「上手投げ」です。
「まこデラックス山」というしこ名で、コロナ禍前の大会では、ほかを寄せつけない相撲で3連覇を果たしました。

圧倒的な強さを誇るまこさんはなんと相撲未経験。
大会の4連覇、そして歴代最高記録となる5連覇に向けて、本格的な筋力トレーニングに取り組みます。
ベンチプレスは80キロ、スクワットは最大140キロの重さを上げるまでに力を付けてきました。

しかし、3年前、大会に向けて練習を本格化するなか新型コロナが猛威をふるい始めます。
女相撲の大会も中止となりました。
「まこデラックス山」西山まこさん
「これまでの大会はトレーニングせずに優勝していて、次の大会からはしっかり鍛えて大会に臨もうとしていたので中止は残念でした。
いつまで中止になるのか不安な気持ちと、何のためにつらい思いをして鍛えてるんだろうと思うことがありました」
母の日を父にもささげる
さらに大会の中止期間には、誰よりも大会を応援してくれた父親の西山秀松さんが亡くなりました。
家業のかき漁をしていたときの転落とみられ、突然のことでした。
大会を誰よりも楽しみにしていた秀松さん。
まこさんが3連覇を達成したときは秘密で準備したメッセージボードを恥ずかしそうに抱えています。

秀松さんは口数があまり多くありませんでした。
しかし、勝負事には誰よりも熱く、小学校の運動会や水泳大会ではいつも“絶対に負けるな”と指導していたといいます。
初めてまこさんが女相撲の大会に出場を決めたときも、「お前、負けはないからな」のひと言。
「まこデラックス山」というしこ名も父親と母親が一緒に考えてつけてくれたものです。コロナがなければ、大会の中止がなければ、父に見せられたかも知れない大会記録の5連覇。
「母の日」に開かれる大会を“父”にもささげる。まこさんは特別な思いで大会に挑みます。

大会に備えて知内で英気を養う
大会の4日前、東京から実家の知内町に帰省しました。
母親のひとみさんは食事でまこさんを支援します。
この日の食卓には地元で採れたカキやニラ、それにささみカツなど豪華な食事が並びます。ごはんはなんと4合。地元の食材をたくさん食べて大会に備えます。

4年ぶりの開催
そして迎えた大会当日。
東京や鹿児島などから59人の女性力士が集まりました。
歴代6回の最多優勝を誇る「おデブ山」こと、札幌市出身の山本静香さんの姿もあります。

迎えた初戦。
圧倒的な体格差があるなかでの立ち会いでしたが、まこさんは気合い十分。
すごい形相で構えます。

「はっけよいのこった!」。
得意の右手をふり抜いて投げを打つと相手は勢いに耐えられず、転んでしまいます。
決まり手はユーモアを込めて「貫禄の横綱相撲」と名付けられました。
まこさんは勝利してもあまり笑顔を見せません。土俵を下りてから、体を冷やさないように上着を羽織り、次の試合の準備に備えます。
その結果、圧倒的な強さで2回戦3回戦と順調に勝ち進みました。
一方、反対ブロック。
まこさんが最大のライバルと話す歴代最多優勝の「おデブ山」。
初戦では相手がみずから土俵の外に出る圧倒的な迫力で勝利しました。
決まり手はこちらもユニークな「せっかく来たのに運が悪かった」。
2人のライバルは「決勝で会おう」。そう約束してお互い順調に勝ち進んでいきます。
波乱の準決勝
先に始まったのはおデブ山の試合で、相手は北海道鹿部町出身の彩聖丸。
激しい取り組みの末、最後は「下手投げ」でおデブ山は惜しくも敗戦となり、3位決定選にまわります。

決勝で対戦できなくなり、まこさんに「ごめん」と手を合わせるおデブ山。気持ちの整理ができないまま、まこさんの準決勝が始まりました。
対戦相手は相撲経験があり、前回大会の決勝で対戦した「クロ太郎丸」です。
まこさんは塩を豪快に投げ、気合いを入れ直します。負けられないと構えにも迫力がありました。
「はっけよいのこった!」。
威勢のいいかけ声で取り組みが始まると、まこさんが得意とする立ち会いで押し込みますが、土俵際で返されます。
ふたたびまこさんが押し返すものの、最後まで押すことができず惜しくも破れ、4連覇はなりませんでした。

決勝での対戦はならなかったまこさんとおデブ山。
2人はひかれ合うように3位決定戦で相まみえました。
3位決定戦始まる
優勝候補2人の3位決定戦。
会場はこの日一番の盛り上がりを見せました。
「おデブ山」山本静香さん
「まこには思いっきりぶつかって土俵の外まで飛ばせと言っている。
土俵の外に飛んでみたい。大きく負けてみたい」
2人の構えは対照的なものとなりました。
思いのすべてをこの一番にぶつけようと荒々しく、あの大横綱・千代の富士をほうふつとさせる構えで挑むまこデラックス山。
それとは対照的に笑顔で構え、胸に手を当ててここに向かってこいとおデブ山。
「はっけよいのこった!」。
この日集まったおよそ1700人の観客が固唾をのんで見守った試合。
勝負は一瞬で決まりました。
得意の立ち会いで勢いよく押し込み、「寄り切り」でまこデラックス山が勝利しました。

試合終了後、まこさんは涙が止まりませんでした。
「まこデラックス山」西山まこさん
「おデブ山さんに稽古だと思っておもいっきりぶつかってこいと言われて、何も考えずにまっすぐ強くぶつかりました。
負けたのに応援のみんなもおデブ山さんもいい相撲だったと言ってくれて、涙がとまりませんでした」

4連覇がなくなり、引退も頭をよぎった西山さん。
来年へのリベンジを決めたのはおデブ山の言葉でした。
「おデブ山」山本静香さん
「まこは強いですよ。本当に強い。
長い人生で1度負けたぐらい関係ない。
いつか超えてもらおうと思っています。私の4連覇」
亡くなった父にもささげたいと強い思いで挑んだ大会。
ユニークなしこ名や、笑顔をふりまく女性力士たちによって試合は終始和やかな雰囲気で進みましたが、まこさんが立ち会いで見せた真剣な表情、そして流した涙から、他の参加者と意気込みが違うのは明らかでした。
4連覇はならず、初めての敗北を経験したまこさんですが、今は新たな思いで前を向いています。

西山さん
「おデブ山さんのことは大好きで人間としても尊敬しています。
ただ、女相撲と言えばまだおデブ山と言われることがやっぱり悔しい。
おデブ山さんが達成できなかった大会5連覇を達成して女相撲といえばまこデラックス山と言われるように、またトレーニングに励んで来年優勝できるように頑張ります」

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