十勝の池田町では
「自伐型林業」と呼ばれる小規模な林業の普及を進め、
地域の活性化につなげる取り組みを始めています。
(NHK帯広 小川祥)
町内の森林を生かせ!
十勝の池田町は人口およそ6000人、町内の約6割が森林です。50年ほど前に高度経済成長に伴う木材需要の高まりから大規模に森林伐採が行われました。しかしその後、長いあいだ放置され、人が入れない森が多く残されたままになっています。町は「自伐型林業」であればこうした森林を活用できると考え、取り組みを始めました。

“持続可能な林業”
自伐型林業とは大量に木を伐採する大規模林業とは違い、環境になるべく負荷をかけずに、森林を整備しながら間伐材などの資源に付加価値をつけ、収益を確保する小規模な林業です。持続可能な林業とも言われ、初期投資が少なく個人や小さなグループで参入できるのが特徴です。
実践している人はまだ僅か
しかし、自伐型林業という働き方が注目され始めたのはここ最近のことで実際に働いている人はまだ多くはありません。NPO法人自伐型林業推進協議会によりますと道内で自伐型林業を営んでいるのはおよそ250人で、そのほとんどが専業ではなく兼業で行っているということです。

町が担い手を育成
池田町は独自に自伐型林業の担い手を育てようと現在3人の地域おこし協力隊を採用しています。町の職員として知識や技術を学んでもらい、将来は町内に残って働いてもらうことを目指しています。
子育てをしながら林業!!
その1人、福家 菜緒さん(35)は2年前に札幌から移り住み、8歳の娘を育てながら自伐型林業を目指して経験を積んでいます。個人で参入でき、自分の裁量で働ける自伐型林業であれば子育てをしながらでも十分やっていけると感じたといいます。

自分の林業のスタイルを追求
福家さんは将来を見据えて始めていることがあります。地元の子どもたちを招いて自然とふれあいながら、森の動植物を学んでもらう「環境教育プログラム」です。大学で森林の生態を専門に学んだ福家さんが以前からやりたかったことです。協力隊の任期が終わった後も森林環境教育を取り入れた自伐型林業で生計を立てていきたいと考えています。

福家さん
「子育てをしているから林業はできないと思っている人が、結構いるんじゃないかと思っています。そういう方にも『私ができるよ』という姿を見せて、じゃあやってみようかという人が出てきたらいいなと思っています」

町もいろいろなアイデアを持った若い担い手が増えれば地域に活気が生まれると期待を寄せています。

池田町産業振興課林務係 山本 健太 係長
「自伐型林業は、それぞれのライフスタイルに合わせることができて、若い人は特に入りやすいのかなと思います」
課題は安定した収益の確保
自伐型林業を普及させるための大きな課題は安定した収益の確保です。森林を整備しながら間伐材などの資源をどう活用していくのか、町は民間と協力して利用価値の低かった間伐材に付加価値をつける取り組みを始めています。

間伐材がクラフト作品に!
この日作業が行われたのは50年ほど手入れがされず放置されてきた森です。ほかの木の成長を阻害しているシラカバの木を間伐し、その木を再利用する取り組みです。
一緒に作業するのはクラフト作家の嶋中 康祐さんです。シラカバの樹皮をきれいに剥がし、クラフト製品の材料にします。クラフト作家にとっても上質な材料が手に入る自伐型林業は魅力的だといいます。

クラフト作家 嶋中 康祐さん
「すごくきれいに収穫させてもらっています。いっぱい木を倒す皆伐の手法だと樹皮がボロボロになっていることも多かったんですよね」
間伐材から生まれたシラカバ細工の商品は町内の観光施設などで販売されています。客からの評判も上々で町の魅力を発信する新たな商品として売り上げを伸ばしています。

「自伐型林業」に期待する自治体
池田町は雇用を生みだし、地域の魅力を発信できる「自伐型林業」は地域活性化の活路になると期待しています。
池田町産業振興課林務係 山本 健太 係長
「われわれ中山間地域の自治体では若い人がどんどん出て行っている状態なので、少しでも呼び込める状態になればいいと思います。池田町と言えばワインもありますが、ワインだけじゃなくて山を見ればそこには若い人がたくさん働いている、そんな将来像を描けたらいいのかなと思います」

【取材後記】
道内の多くの自治体が人口減少問題を抱える中、それぞれのライフスタイルに合わせて働くことのできる「自伐型林業」は地域を活性化させる取り組みとしてはとても魅力的です。豊かな森づくりをしながら安定した収益が確保できるようになれば、池田町だけではなくほかの自治体にとっても可能性を感じる取り組みだと感じました。
(取材担当 NHK帯広 小川祥)

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