NHK札幌放送局

私が「うずうず」するメディア ~ドット道東とローカルフレンズはなぜ仲間を作る?

ローカルフレンズ制作班

2023年1月20日(金)午後1時08分 更新

“メディア”と聞いて思い浮かぶものは何でしょうか。新聞を読む、ニュース番組を見る、ラジオを聴く。これらは情報を一方通行的に得るもの、つまりは「消費する」ような感覚です。そんな中、それとはなんだか違って「うずうず」するメディアがあります。北海道の道東を舞台に本を作る「ドット道東」と、地域の人たちがNHKのテレビ放送を作る「ローカルフレンズ」です。この『うずうず』の正体は一体…? その謎を解いていきます!

こんにちは! NHK札幌局のローカルフレンズ制作班で学生アルバイトをしている谷郁果です。

札幌出身の大学2年生。地域と食に興味があり、地元食材でカレーを作るなど活動中

2022年12月9日(金)の夕方、NHK札幌局の1階のスタジオを埋め尽くすほどの人が集まっていました。大学生からスーツ姿の方、さらにはお子さんを連れたご家族まで。

この日はドット道東とローカルフレンズのトークイベントが予定されていたのです。平日でしたが集まった人の数は80人ほど! 

ステージに登壇したのはこちらのみなさん。写真の左から…

▼スペシャルゲストとして「ローカルフレンズ滞在記」のテーマソング「ローカルフレンズ」を演奏した、なかにしりくさん
▼一般社団法人ドット道東の須藤か志こさん
▼NHK札幌局で「ローカルフレンズ滞在記」を担当するディレクターの大隅亮さん
▼司会を務めるクリプトン・フューチャー・メディアの服部亮太さん
▼一般社団法人ドット道東の工藤安理沙さん
▼一般社団法人ドット道東の代表理事、中西拓郎さん、です


グッドデザイン賞に選ばれたローカル番組「ローカルフレンズ」

まずはディレクターの大隅さんから、NHKの地方局として初めてグッドデザイン賞のベスト100に選出された「ローカルフレンズ滞在記」について紹介がありました。

「ローカルフレンズ滞在記」はNHKのディレクターが1か月間、道内の各地域に滞在し、地域の魅力を伝える番組です。夕方のニュース「ほっとニュース北海道」で木曜日に放送しています。ディレクターを案内してくれるのは地域に根差した「ローカルフレンズ」たち。企画から取材まで、彼らが主体的に作るのがこの番組の特徴です。

イベントの行われた2022年12月に放送されていたのは釧路市編でした

大隅さんはこの番組企画が動き出す前「マスメディアの言葉が素直に伝わりづらくなっている」と感じていたといいます。

「今の時代、NHKだからとか〇〇新聞だからといって、その言葉を信用する人はどんどん少なくなっています。社会のメディアリテラシーが上がったからだと思います。そんな中で、地域の人たちが自分たちの言葉で発信することで、マスメディアが再び信じられるものになるのではないか。そんな考えからローカルフレンズがはじまったんです」


フレンズからフレンズへ 地域から地域へ エネルギーが届く

自分の地域がテレビに取り上げられる。いつも隣にいるあの人が、あのお店が、あの風景が、画面を通じてお茶の間に届いている。ちょっと恥ずかしくなるような、でも誇らしくもなるような。確かに放送を見ているとそんな気持ちになります。

道北・枝幸町の町民に愛されているカフェや、十勝・広尾町で盛んな昆布漁も放送

ローカルフレンズは放送から3年で道内30か所ほどにネットワークが広がったそうです。SNSを見ているとローカルフレンズ同士が交流する様子がよく見られます。

また、ローカルフレンズや制作関係者は定期的にミーティングを開催していて、最近では道南の大沼公園に30名ほどが集まりました。道東の知床や道北の枝幸町から往復1000キロ以上の距離を越え、わざわざ駆けつけてきた人もいたほど。

喜茂別町では放送後にローカルフレンズ自らイベントを開催

単発の番組で終わらず、ローカルフレンズたちがつながる。その結果、ほかの地域の良いところをマネしたり、自分の地域の課題を克服するヒントを得たり。時には大がかりなイベントに発展することもあるそうです。

「関係性があらゆるところで花を咲かせている」ような感覚。
ローカルフレンズはテレビ番組をつくっているだけではなかったのです。

ローカルフレンズ滞在記のHPはこちら


全国から注目を集める「ドット道東」って?

次に中西拓郎さんから「ドット道東」の紹介です。中西さんは開口一番こう言います。

「友達と仕事しているみたいな感じなんだよね!」

ドット道東は「理想を実現できる道東をつくる」を掲げる一般社団法人。道東のクリエーターとともに、地域ブランディング、情報発信、コミュニティづくりなど活動は多岐にわたり活動しています。

特に注目されるきっかけになったのは2020年に出版された道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto vol.1」。何十人ものクリエーターが参加して作った本です。

そして2022年の夏に出版された、道東の1000人の理想を集めたビジョンブック「.doto vol.2」。いろんな雑誌や本で「〇〇な100人」という特集はありますが、「1000人」を扱ったものは見たことがありません。

提供 一般社団法人ドット道東

この2冊は共に「日本地域情報コンテンツ大賞」の各賞に選ばれ、その名は全国区に! なんと今回のイベントには関東から飛行機に乗ってやってきたという人もいました。


本を作る、ことは目的ではない!?

私が面白いと思ったのが、ドット道東の巻き込み方です。
出版された本2冊は、どちらも資金集めにクラウドファンディングが使われています。一風変わっているのが「制作リターン」。クラウドファンディングのリターンとして「制作に関る」というものです。つまり、お金を払って、かつ、制作に協力してもらっているのです。

こうしてドット道東に関心を持った、大学生が未経験ながらライターに抜擢され、記事になったページもあります。

ドット道東・中西拓郎さん

「本をつくる、ということが目的ではなく、仲間をつくりたいんです。だから、つくる過程で関わる人を増やしていきたくて、クラウドファウンディングなどを活用しました」

ドット道東・須藤か志こさん(左から2人目)

「つくる過程をオープンにしているのも特徴かもしれません。失敗しているところも、うまくいっていないところも、みんな公開しています。時にはSNSで『あんなに大スベリしてもいいんだ!』というところまで(笑)」

ここまでお話を聞いてきて「ローカルフレンズ」と「ドット道東」の共通点が浮かび上がってきました。

テレビをつくっている…? 本をつくっている…?
いや、地域、そして仲間をつくっているんだ…!


わたしでも地域で働ける!?

会場には大学生の姿もちらほら。今も大学生の希望就職先は大企業などが多いのですが、中にはローカルに惹かれている若者もいます。実はわたしもドット道東やローカルフレンズを知り、将来どこでどう働いていくかを模索している最中です。

では、「情報発信ではなく仲間づくりを目的にしたメディア」で働くとは、いったいどのような感じなのでしょうか。ドット道東の須藤か志こさん、工藤安理沙さんのおふたりは、学生の頃からドット道東に関わってきました。


いきなりSNSの担当者にスカウト 工藤安理沙さんの場合

釧路出身の安理沙さんがドット道東と出会ったのは大学生の頃。Twitterで様子を見て、面白そうだと思った工藤さんはクラウドファウンディングにお金を出し、「制作リターン」を選びます。そして、東京で開かれたイベントに参加した時、ドット道東のみなさんが話しかけてくれたそう。

「若いからSNSできそうじゃない?」

と、中西拓郎さん。実はSNSの発信がまだうまくいっていないと感じていたそう。いきなり、会ったばかりの安理沙さんを誘います。

当時、東京で就職が決まっていた安理沙さん。でも二足の草鞋として、ドット道東のSNS発信を引き受けることに決めます。

実際にやってみたら、これが意外とうまくいったそう。

工藤安理沙さん
「やりながら、みんなで考えて作っていく、型がないことが自分に合っていたんだと思います」

従来の「消費する」メディアの場合。いつ、どんなものを発信するのか決まっていて、そこには仕事の「型」が存在する。でも「仲間づくり」を目的にしたメディアでは、情報発信は二の次で、むしろ、誰と一緒に作るかが重視される。当然、「型」は少なくなります。

そして安理沙さんは1年後に東京での仕事を辞め、道東にUターンしました。

「自分の故郷でもある道東にいるドット道東の皆さんとつながることができ、さらに一緒にお仕事もすることが出来た。そこから、『ここに仲間がいる!帰ろう!』と思ったんです」


「私は一度、ドット道東をやめています」

そんな安理沙さんの話を聞いていると、会場からこんな質問が飛びました。

「活動していて、つらい、やめたいと思ったことはありますか?」

その質問に「一度、ドット道東を抜けたことがある」と答えたのは須藤か志こさんです。

か志こさんがドット道東に出会ったのは大学生の頃。そのまま新卒でドット道東にフルタイムのメンバーとして就職します。でも。

フリーランスなどで活躍してきた他のメンバーは、自分より、気力も体力も上をいく。仕事の基礎ができていないのにドット道東に入ってしまったことで「ついていけない」と感じてしまったそう。一度距離を置くことにします。

その後、もう一度アルバイトとして戻ってきたか志こさんは徐々に自分のペースがつかめるようになったそうです。

須藤か志こさん
「仕事の仕方は人それぞれ。4人の上司(メンバー)からそれぞれ学んで、だんだん自分の仕事の仕方がわかってきました」


ローカルのこれから メディアのこれから

イベントも終盤。「ドット道東の5年後、10年後はどうなっていると思いますか?」という質問に「僕も正直わかりません!」と中西拓郎さん。

「道東に住むって“無理ゲー”なのかもしれないと思うことがあります。環境が厳しいから。でも、だからこそ、みんなで生き抜く、共生するんです」「この地にいるからには、いてよかったと思えるように、ここでしかできない共通体験をみんなでつくっていきたい」

中西さんには、これまでずっと「目の前にあるものをその都度クリアしてきた」感覚があるといいます。計画してきたわけではなく、いつの間にか理想や思いが実現する。きれいではなく、泥まみれになることでこそ、見えてくるものがあるのかもしれません。

それを受けて、ローカルフレンズ・ディレクターの大隅さん。

「ドット道東のみなさんは一冊の本をつくるのにこんなに労力をかけている。信じられませんよね」
「でも、これがメディアの新しい価値だと思うんです。今までのメディアに対して“そうじゃないなにか”を模索し続けてきているのかもしれません」


効率とか計画性ではなく、汗をかくメディア

よく知る人がテレビに映っている。
同じ大学生が文章を書くことにチャレンジしている。

そんな“身近さ”を感じさせ、わたしにもなにかできるかも…という思いにさせるドット道東とローカルフレンズ。効率とか計画性とかではない、もっともっと泥臭く、汗だくになりながら仲間をつくり続ける姿。それが、私が「うずうずする」気持ちの正体でした。

情報を一方的に伝えるだけのメディアから、仲間と一緒にメディアを作り、その過程でさらに仲間を増やしていくメディアへ。そんな新しいメディアのあり方に、これからも注目していきたいと思っています。

文章・谷郁果 (大学2年)
写真・小室光大(大学4年)

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