NHK札幌放送局

つながりが生む新たな表現

ローカルフレンズ制作班

2021年10月14日(木)午後4時12分 更新

ディレクターが地域に1か月滞在して“宝”を探す「ローカルフレンズ滞在記」。10月は十勝を舞台に、「カルチャー」に関わる人たちと出会いを重ねています。2週目は中札内村と更別村。この地域でいま、クリエイティブな若者たち同士がつながることで、新たな表現が生まれています。 

子どもの頃のように みんなで自由に絵を描く

ローカルフレンズの濱家勇さんから「面白いことをやっている若い人たちがいる」と聞いてお邪魔したのは、使われなくなった児童館。
中に入ると…10人ほどが集まって、絵を描いています。
料理家、木版画家、革作家、パン屋、不動産業、猟師など、十勝に住む年齢も職業もさまざまな人たちが参加し、思い思いにクレヨンや筆を動かしています。

この“絵の共同制作”、主催者は絵描きの熊谷隼人さん(30)。去年新潟から中札内村に移住し、養護学校で働きながらライフワークとして絵を描いているとのこと。

  熊谷さんが以前描いた絵がこちら。

自然や生き物をモチーフとした繊細な絵に、心惹かれます。

絵の共同制作は、熊谷さんが十勝に来てから知り合いに声をかけて始めたもの。
あえてゴールは決めず、遊び感覚で自由に描いてもらうことを大切にしています。
熊谷さんもアドリブで「これをやったら面白そう」ということを提案。毎回、予想もつかない芸術が生まれるそうです。

この日も、参加者たちが手や足も使いながら楽しく描いていると…。

紙が破れてしまいました。すると、「破いた紙を使って生き物を作りましょう」と熊谷さん。いきいきとしたカラフルな動物たちが生まれました。

仲間たちの感性に触れ 広がった表現

共同制作を始めたことは、熊谷さん自身の転機にもなりました。
ご自宅を訪れると、まず目に入ったのは玄関にかけられた絵。

移住前の作品は、色数をしぼった絵が多かったといいます。

十勝に移住後、新しい仲間と出会い一緒に絵を描く中で、自身の表現の幅が広がっていきました。

こちらが現在手掛けている作品。さまざまな色や線を描いた絵をちぎって組み合わせ、コラージュを作っています。

ひとりで線を描いていると、ありきたりになってしまうなど限界を感じてしまっていたという熊谷さん。しかし、ほかの人が描くのを見ていると「もっと違う線が描けるかもしれない」と思えるようになり、自分自身も絵をもっと自由に描きたくなっていきました。

絵描き 熊谷隼人さん
「こういう色使いも、これまでの自分だったらありえなかったんですよね。でもこっちに来てから、原色もピンクやゴールドも使っちゃえとだんだんなってきて。全部の色から許され始めている感じがして、嬉しいですね。」

料理家×猟師のコラボ

若い世代の横のつながりは、地域も活気づけています。

絵の共同制作に参加していた料理家の中村果歩さん(27)と猟師の中村まやさん(29)(またの名を“鹿女のまやもん”)は、十勝で出会ったことでコラボレーション料理を生み出しました。(左が中村果歩さん、右が中村まやさん)

こちらは、中村まやさんが獲ったエゾシカの肉を使って中村果歩さんが作ったバインミー。

こうした料理をふるまうイベントも2人で企画し、大盛況だったそうです。

出会いから生まれる あたたかい料理

料理家の中村果歩さんがふだん働いているのは、更別村のレストラン。すべてのメニューの開発を任されています。

十勝の幕別町で生まれ育ち、札幌で栄養学の勉強や飲食店での勤務をしたのち、3年前に更別村へ移り住んだ中村さん。十勝に戻ってきて地域の人たちとつながり、あらためて食材の豊かさを実感したといいます。この時期だと、いもやかぼちゃは農家さんがたくさんくれるので困らないんだとか。こうした出会いから、日々新しい料理が生まれています。

この日私がいただいた「十勝まんぷくプレート」には、更別村の卵を使った卵焼き、広尾町の漁師さんが獲ったマスを使った広尾のマスのちゃんちゃん焼き風、道内産鶏肉を特製のタレにつけこみ更別村のつぶつぶでんぷんをまぶして揚げたからあげなど、丁寧に調理された季節ごとの旬の食材がてんこ盛り。

いただいてみると…あぁ、美味しい!素材の味をいかしたシンプルで優しい味付けに、なんだかほっとするような、懐かしいような気持ちになりました。

料理家 中村果歩さん
「シェフとかを目指す人もいると思うんですけど、私はそうじゃなくて、お客さんに近くて“あたたかい”料理を提供したいなと思っていて。あたたかさや心地よさを自分なりに表現して伝えていきたい。その表現のひとつが料理だと思っています」

滞在中、まんぷくプレート以外にもグリーンカレーやきのことベーコンのスパゲティなどをいただいたのですが、どれもお腹も心もあたたかくなる料理ばかりでした。

“もうちょっと生きてみようかな”と思える文章を

中村さんが料理以外に打ち込んでいる“表現”があります。それは、文章を書くこと。
毎日のようにノートに自分の思いや考えを書きつけています。料理に関することもあれば、人との関係のことや、 “生き方”について書くことも。

休みの日の朝、音楽を聴きながら散歩しているといろいろな考えが浮かんできて、書かずにはいられなくなるそう。散歩中の写真とともに、SNSで文章を発信することもあります。

表現を通してどんなことを伝えたいのか聞くと、こんな答えが返ってきました。

「死にたいと思っている人がいたとして、そんな人が見たときに『もうちょっと生きてもいいかも』って思える文章がいいなと思ってるんです。すごく重く深い文章は書けないので、もう一日くらい生きてみるか、くらいに思ってもらえるような。料理も、食べた人がもう少し生きてみようかと思えるような、ちょっと元気になれるようなものを目指しています」

たしかに、料理にも文章にも、中村さんの優しさや懐の深さが表れている気がします。

絵描きは旅を続ける

料理家の中村さんと絵描きの熊谷さんは二人とも本好きで、よく話をするそう。それぞれのご自宅には、たくさんの本が並んでいました。

熊谷さんの自宅には、本や絵のほかにも、旅先で拾い集めたちょっと面白い形の石や流木などが飾ってありました。眺めていると生き物に見えてきたりして、絵の発想にもつながるんだそうです。

「絵を描きながら旅を続けたい」と話す熊谷さん。移住する前は海外を長期にわたって旅することも考えていたそうなのですが、コロナでいったん中止し、北海道に来ることにしました。

十勝にいると、日々の生活をしながら週末に道内の各地へ行ったりもしやすく、“旅をするように暮らせる”ことも十勝の魅力なんだとか。

北海道の自然や暮らしはもちろん、縄文やアイヌにも興味があるそうで…旅はまだ始まったばかりのようです。熊谷さんの絵の今後も追っていきたくなりました。

ゆるやかなつながりが生む新しい芸術

中札内村と更別村に滞在して感じたことは、十勝のクリエーターたちが自由に創作活動をしながらも、ゆるやかにつながっているということです。

それぞれの町が遠くても「十勝」として連帯感があり、集まることができる。まったく違う業種の人同士も交流することから意外な出会いがあり、新たな表現が生まれていました。

都会にはない、ここならではのクリエイティブな環境といえるかもしれません。

これからどんな表現がここから生まれていくのか、楽しみになりました。

2021年10月14日
NHK帯広局ディレクター 川畑真帆


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