NHK札幌放送局

北海道のエキノコックス対策は今? シラベルカ♯68

シラベルカ

2021年11月11日(木)午後5時54分 更新

皆さんから寄せられた疑問に答えるNHK北海道の取材チーム「シラベルカ」。 今回は、次のような投稿が寄せられました。 

当別町在住・70代男性
「愛知県の知多半島でエキノコックスが相次いで確認されています。
現在北海道のエキノコックス対策はどうなっているのか調べてください」

本州でも相次いで確認 エキノコックスのいま

長らく、寒冷でキツネが多く生息する北海道でしか生息が難しいと考えられてきた感染症「エキノコックス」。しかし、近年は愛知県の知多半島など本州でも相次いで確認されており、SNSなどネットでは、「まん延したらどうなるの?」 「外に出ても水や土に触れられなくなるの?」など不安の声も広がっています。

北海道では、感染状況や対策の現状はどのようになっているのか?調査・研究の拠点・北海道立衛生研究所を尋ねました。

取材に応じてくれたのは、エキノコックスを長年研究してきた浦口宏二さんです。
北海道以外でエキノコックスの感染事例が相次いでいる現状について伺うと…。

「もう素直に驚きましたね。これまでも北海道から本州に犬を運んでいってその犬がエキノコックスだったっていう事例は数例あるんですが、今回の場合は、報じられているものを見ると、野犬の糞から卵が見つかったということで、北海道から運んでいったっていうようなものではないとみられるんですね。知多半島で出たからには、他のところで出ないという保障は全くないわけですから。当然いろんなところで注視し、監視していく必要があると思います」
北海道立衛生研究所 浦口 宏二さん

知多半島で相次いで確認されているエキノコックスのニュースを聞き、最近、北海道立衛生研究所には、全国の人々からエキノコックスについての問い合わせが寄せられているといいます。中には誤った情報をネットで見聞きし、不安に陥っている人もいるといいます。

「エキノコックス」とは

改めて、エキノコックスとは、多包条虫(たほうじょうちゅう)という寄生虫が、
体の中に入り込むことで感染する感染症のことです。
人の体の中では、主に肝臓などで成長し、肝機能の障害や黄疸、腹痛などの症状を引き起こします。
特徴は、こうした症状が出るまでに数年から十数年と、非常に長い時間がかかることです。
知らずにかかってしまい、10年後に症状に気づいたときには、「心当たり」がなく驚く、というケースも少なくないそうです。
エキノコックスは、何もせずにほうっておくと、死に至る可能性の高い病気ですが、
現在は、検診を受けて発見し、手術で寄生虫を摘出すれば治療可能とされています。

さて、このエキノコックスが広まるのには、一定の寄生のサイクルがあります。
主にキツネや、(それよりは低確率ですが)犬の体内に成虫が生息していて、その卵が、
糞と一緒に体外に出されます。そして、その卵をネズミが食べて感染し、別のキツネ(あるいは野犬・放し飼いにされた飼い犬)がまたそのネズミを食べて感染する…と、自然の中の「食う」「食われる」のサイクルがぐるぐるまわっている間に感染範囲が広まっていきます。
そして、この糞に含まれたエキノコックスの卵を、人間が知ってか知らずか飲み込んでしまうことがあります。山菜や木の実をとったり、沢の水を飲んだり、あるいは飼い犬とふれあったりなど、日常的な行為から、卵が手などに付着し、誤って口から飲み込んでしまうのです。こうして、人への感染が起きる、というわけです。
ただし、エキノコックスは人の体内では卵を産む成虫にまで育たないため、人から人にうつることはありません。

北海道の感染の現状

現在、北海道では、どのくらい新たな感染者がでているのでしょうか?

「最近は、平均すると毎年20人程度、新たに患者さんが見つかります」
―20人程度というと、一時期よりかは抑えられているんですか?
「むしろ逆で、患者さんの数は長い目で見たらずっと増えてきました。エキノコックスは、北海道本島では1960年代に初めて根室地方で患者さんが出ましたけれども、そのころは、1970年代まで年間5人くらいしか患者がいませんでした。
それが80年代には10人になり、2000年代以降は20人になり、患者さんの数はそういう流れでいうと増えてきています。ですから、エキノコックスは北海道において決して終わった病気でもありませんし、解決した病気でもないということがいえます。」

道の健康安全局食品衛生課に問い合わせたところ、道内のエキノコックスにかかったキツネの割合の推移がわかりました。
1970年代から80年代は、10%~20パーセント台ですが、ここ20年は、30%~40%台と高い傾向が続いています。もともとエキノコックスは、戦前に礼文島に確認されてからは、千島列島や根室地方という一部の地域でしか感染が広がっていませんでした。しかし、80年代以降は全道へと感染のエリアを広げ、それに伴い感染率も増加していることがわかります。

〔参照:北海道のエキノコックス症流行の歴史と行政の対策
国立感染症研究所 IASR Vol. 40 p43-45: 2019年3月号〕

「都市ギツネ」により増加する感染リスク

しかし、このグラフを見たとき、こんな疑問を覚えました。
この20年もの間、感染の割合が30%から40%と横ばいだということは、
私たちがエキノコックスに感染するリスク(年間20人程度の感染者数)も一定していて、今後もこの状況が悪化するおそれはないのでは…?と。

率直にこの疑問を、衛生研究所の浦口さんにぶつけました。すると、こんな答えが返ってきました。

「(キツネの)感染率というのはあくまでキツネが何割かかっているかという数字ですので、人間がどのぐらいあぶないかは、実はこれにもう1つ、きつねの個体数を掛け合わせないと本当のリスクは計算できません。感染率が一定だとしても、個体数が増えていれば、エキノコックスを持っているキツネは増えている事になるので。」 

確かに…。でもキツネの「数」なんてどうやってわかるのでしょう?
浦口さんが挙げたのが、札幌市内で事故などで死亡し回収されるキツネの数です。
札幌市保健所に問い合わせたデータを、グラフにまとめました。

ここ15年あまり、全体的に増加傾向が続いていることがわかります。
2010年には100頭を超えましたが、2019年には200頭、翌2020年には250頭近くに達するなど、特に顕著に増加しています。

浦口さんは、こうしたデータや、自身で行った個体数調査などから、近年、私たちの生活圏である市街地に出没するキツネが増加し、感染のリスクも高まっているといいます。

「最近は、多くの道民の方が、『キツネが多くないか?』『増えてきてるんじゃないか?』という印象を持っていると思います。『都市ギツネ』と呼ぶんですけれども、人間の住んでいる住宅地であるとか、そういうところにキツネが住み着くという現象が見られるようになっているんです。今までいなかった町なかにもキツネがいるということはですね、直接キツネにさわることがなくてもキツネの糞に接する機会が増えてきてるわけで。そういう意味ではリスクが上がってきてるかなと思います」

対策は?

こうした中、どのような対策が可能なのでしょうか?
現在、北海道ではエキノコックスの対策を目的とした、キツネの計画的な駆除は行われていません。たしかに、駆除によってエキノコックスにかかったキツネの数を減らすことはとても難しいように思われます。

その代わりに行われているのが、キツネの体内の寄生虫だけを死滅させる「駆虫薬」の散布です。プラジクアンテルという薬を、キツネが好む魚のすり身などと混ぜ合わせ、小さく切り分けます。

駆虫薬

ちなみに、駆虫薬を切り分けるこの機械は、かまぼこの製造に用いる機械を応用しているそうです。
できあがった駆虫薬は、キツネの通る場所に撒きます。

複数の自治体で行った調査によれば、駆虫薬の散布後は、感染したキツネの割合が大きく低下し、その効果が認められています。

広まらない「駆虫薬」 対策のジレンマ

しかし現在、この駆虫薬の散布を行っているのは道内の自治体の1割以下。
なぜ、広まらないのでしょうか?

その原因は、駆虫薬を撒くのにかかる「コスト」にある、と浦口さんは指摘します。
駆虫薬は、確かに、キツネの体内のエキノコックスを取り除くことができます。
しかし、一度駆虫薬を食べたキツネが、しばらくしてエキノコックスをもったネズミを食べると、またエキノコックスにかかってしまいます。感染したキツネの割合を集団的に下げるためには、一か月に一度のペースで、1000個以上の駆虫薬を撒き続けなくてはなりません。自治体にとっては、人・モノにかかるコストは、決して小さくないといいます。
しかも、一つの自治体で継続的に取り組んでも、エリアの外から入ってきたキツネが新しくエキノコックスを持ち込むため、感染のサイクルを完全に断ちきることは、きわめて困難です。

また、エキノコックスの感染症自体にも要因があるといいます。
最初に触れたように、エキノコックスに感染しても、症状がでるまでには数年から十数年かかります。この「タイムラグ」のせいで、今おこっているエキノコックスの実害を自治体が把握しづらいというのです。

今後の課題は

キツネのエキノコックスの感染が高い割合にとどまり、市街地でのキツネの増加という新たなリスクもみられる中、「駆虫薬」の対策はなかなか広まらない。
こうした状況をふまえ、道立衛生研究所の浦口さんは、今後の課題についてこう語ります。

「北海道では例えば、除雪費なんてなくなる事ないですよね。北海道であるかぎり雪かきはしなきゃいけない。あれと同じように、北海道であるかぎりエキノコックス対策をしなきゃいけないというふうに考えを変えると。各自治体で、その自治体の実情に応じてですね、このベイトを撒くのも絶対の対策ですし、あるいはそれがどうしてもできないんであれば、検診をもっと充実するとか、あるいは住民への教育にもう少し力入れるとか、地域の実情に応じた選択というのをして頂ければと思います」

あらためて身を守るためには

最後に、あらためてエキノコックスの感染から身を守るためには、
何をすべき(あるいはすべきでない)か。
道が呼びかける予防法は、以下のようなものです。

エキノコックスの予防法(道HPより)
●外から帰ったら手を洗う
●キツネに餌付けをしたり触ったりしない
●飼い犬が野ネズミを食べないよう放し飼いにしない
●山菜などは加熱・水洗いしてから食べる
●沢水など生の水は飲まない

北海道民にとって、「エキノコックス」という名前は、長らく聞きなじみのあるもので、普段から注意して暮らしている人も多いかもしれません。一方、年間20人程度という感染者の現状では、身近に感染した人の声を聞くことは少なかったかもしれません。しかし、専門家に話を聞くと、現在感染リスクが増加していても、それが必ずしも現在の私たちの目に見えない可能性もあることがわかりました。
改めて、エキノコックスについて正しい知識を持ち、基礎的な予防策を行っていくことが重要だと考えました。

取材 札幌局ディレクター 趙 顯豎

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2021年11月11日

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