NHK札幌放送局

謎の食材「たらおさ」の秘密

ほっとニュースweb

2020年12月21日(月)午後6時19分 更新

みなさんは「たらおさ」という食材をご存じでしょうか。 柄の付いたブラシ?映画「エイリアン」に出てきた謎の生物? 不思議な形をしていますね。 実は冬に北海道の根室や稚内で作られる乾き物です。その「たらおさ」を調べてみると北から南へ食材が大移動し食文化が独自に生まれた背景が見えてきました。
(取材・撮影 根室支局宇佐美隆治カメラマン)

漁業の町根室 マダラ漁最盛期

北海道東部、周りを海で囲まれた根室市は漁業の町です。
漢字で魚へんに雪と書いて「鱈(たら)」。冬、マダラの水揚げが最盛期を迎えています。

水産加工業者 謎の生産物

創業から75年以上続く根室の水産加工会社ではマダラの頭や内臓を取り、一夜干しやかたく干したタラを生産しています。

作業場では同時に見慣れない作業が・・・。タラの「エラ」と「胃」をさばいていました。実はこれが“たらおさ”の原料です。漢字では鱈=たら、胃=おさ。「鱈胃」と書きます。ていねいに水洗いし塩水につけ、1ヶ月ほど干すとたらおさの完成です。重さは生のタラの10分の1ほどになり、長期間の保存も可能です。

”たらおさ” 知らない地元の人たち

地元根室の人たちにたらおさを見てもらいました。たらおさを手に取った男性は「これはわかんない。初めて見る」。別の女性は「残骸じゃないの。これ自体を食べるの?見たことも聞いたこともない」。ほとんどの人たちはたらおさのことを知りませんでした。

いつからたらおさが作られているのか? 水産加工会社の吉田幸明代表にたずねました。

「ずっと昔からだ。先代の親父がやっていたから」
どこに送られるんですか?
「九州の方だと聞いている」

”たらおさ”探しに大分県日田市へ

吉田代表のことばを頼りに九州へ。向かったのは根室から直線距離でおよそ1700キロメートル離れた大分県日田市。標高1000メートルの山々に囲まれた盆地にあり、海はありません。さっそく日田の人たちにたらおさを知っているか、聞いてみると・・・。

「たらおさ、日田で有名なね」
「みんな知っているんじゃないか。みんな家では食べるんじゃないかね」

地元では当たり前の食材のようです。

季節限定食材?

地元で営業するスーパーを訪ねてみました。店頭にはどこにも見当たりません。宮岡紘士店長にたずねてみました。

「今の時期は、置いてないですね」
え、それではいつ、販売するのですか?
「お盆の時期になると、お店の方に出すようになっています」

写真を見せていただくとお盆用品として山盛りで売っています。なんとたらおさはお盆の時期だけに食べられている特別な食材でした。

なぜ”たらおさ”が日田で?

なぜ、たらおさが日田で食べられるようになったのでしょうか。大分県の食文化に詳しい楢本譲司さんにお話を聞くと1つの説を教えてくれました。

江戸時代、干されたタラは貴重な食材として北海道から京都・九州へと運ばれました。美味しい身の部分は流通の過程で先に売られてしまい、内陸部の日田にはたらおさが運ばれたのではないかということです。

楢本譲司さん
「山間部の地域なので新鮮な魚介類・海産物は手に入らない。あまり食べられなかったタラの内臓を干したたらおさが伝わってきて食べるようになったんじゃないかな」

”たらおさ”は故郷の味

たらおさはどのように食べられているのでしょうか? 日田で生まれ育った梶原償子さん(83歳)に作ってもらいました。

カチカチに干されたたらおさを一晩水で戻したあと適当な大きさに切ります。砂糖・醤油・酒・みりんなどで味付けして、一時間ほど煮込むと煮付けの完成です。

味付けは甘辛く、胃はホルモンの様なモチモチとした食感。エラの部分は軟骨のような独特な味わいでした。ご飯のおかずとしてはもちろん、お酒のお供としても合いそうです。

梶原償子さん
「たらおさの煮つけはお盆に帰省した市民が味わうふるさとの味になっています。日田市の代表的な郷土料理のひとつですね」

北海道で作られた“たらおさ”。遠く離れた九州で地域の大切な食文化を生み出していました。

【取材後記】

2020年12月上旬、わたしが根室にある水産会社で取材していると、ふと奇妙なものを干しているのに気づきました。
「えっ、深海魚?なんだこれは!」
根室支局に7年いますが今まで見たことも聞いたこともありませんでした。会社の代表に聞くと「タラの中身だ。エラと胃」とのこと。興味を持ち調べてみると・・・深い世界が待っていました。
北海道で作られた“たらおさ”を遠く離れた九州でおいしく食べられるよう工夫した人々の熱意に驚きましたし、郷土の味として大切に継承している姿にも感動しました。取材でお世話になったスーパーは大分県内に20以上の店舗を展開していますがたらおさは日田店だけでの販売となっています。

取材・撮影 宇佐美隆治カメラマン


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