NHK札幌放送局

シラベルカ#47「前向き駐車」、実は危険って本当?

シラベルカ

2021年4月14日(水)午後4時08分 更新

みなさんの疑問に答える「シラベルカ」。今回は交通安全についてです。

投稿で、

「コンビニなどで車を建物の近くに駐車する際に、フロントを壁側に向けて駐車する人が多いのは何故?危険度が増すはずです」

と質問をいただきました。

フロントを壁側に向けて駐車する「前向き駐車」と、後ろを壁側に向けて駐車する「後ろ向き駐車」。実際、どちらが多いのでしょうか?「シラベルカ」が調べを進めたら、驚きの実態、そしてリスクが明らかになったんです!
(札幌局記者 関口祥子・ディレクター 大隅亮)

前向き駐車が7割!(シラベルカ調べ)

まず向かったのは、札幌市内のコンビニエンスストア。「情報は足で稼げ」とばかりに、2時間にわたって、目につく限りのコンビニの駐車場を調べて回りました。

その結果、駐車場にあった93台中、前向き駐車は65台。おお!確かに多い!
通りかかったドライバーのみなさんにも聞いてみたところ、前向き駐車を選ぶという声が多く聞かれました。

20代男性・前向き駐車派
「そのまま前向きで入っちゃいます。自分たぶん上手くはないので、そういうのちょっと考慮して、前から入れるっていうのもあります」
10代女性・前向き駐車派
「たまにヒヤッとすることはありますね。駐車場から出るときバックしてて、確認が不十分で、『あっ人がいた』みたいな」

驚きのリスクが明らかに!

駐車場の中には、近隣への配慮などから前向き駐車を指定する所もありますが、実際「前向き駐車」と「後ろ向き駐車」、どちらの方がいいのでしょうか。

道警によると、去年1年間に駐車場など道路以外のところで起きた事故は約430件。このうち290件あまりは、車がバックしていた時に起きていました。その割合、なんと7割!特に、駐車場に止めるときより、出るときにバックする方がリスクが大きいそうです。

道警本部交通部中村勉管理官
「駐車した車の運転席からバックで周囲の安全を確認しようとすると、隣に止めた車が死角になったりして、とても確認しづらい状況になりまして、その分、危険も高くなります。大変でも、駐車する際にはできるだけバックで駐車して、出るときは前向きで周囲の安全を十分確認して、事故を起こさないようにして欲しいです」

前向き駐車は人間の性(さが)??

前向き駐車に、こんなリスクがあるとは知りませんでした…。
でも、どうして人は前向き駐車をしてしまうのでしょうか。調べていたら、「人がそもそも持っている特性によるものだ」という話が飛び込んできました。それってどういうこと?

発信源は、北海道大学大学院の河原純一郎教授。人の行動と認知の関係が専門です。さっそく、なぜ人は前向き駐車を選ぶのか尋ねました。

北海道大学大学院文学院 河原純一郎教授
「後ろ向き駐車するためには、いろんなことを考えなくちゃいけなくって、もともと避けがちというか、回避しがちなんですよ」

河原教授の説はこうです。
バックで駐車しようとするとき、どうハンドルを切るか、どこまでバックすればいいか、後ろに車がいないか、歩行者や自転車がいないかなど、複雑な「行動計画」を考えなければなりません。
すると人は無意識にその負荷を避けて、より簡単な「前向き駐車」を選ぶというのです。

実は根深い人間の“無意識”

河原教授は、ある実験の結果を教えてくれました。

手順は以下のとおり。

  • 青と紫でそれぞれ1から9までの数字が書かれたカードを混ぜ、2つの山にする。
  • 実験対象の人がカードをめくり、数字が青だったら5よりも小さいかどうかを、紫だったら偶数かどうかを、それぞれ「はい」か「いいえ」で答える。
  • どちらの山からカードを引くかは実験対象の人の自由。一方の山から連続で引いても構わない。
  • これを100回、200回と繰り返す。

カードの山には、ある仕掛けがしてあります。片方の山は青のカードが連続して出るように、もう片方は青と紫が交互で出るようになっています。もちろん、実験対象の人には内緒です。

対象者は、最初はどちらの山も平等に引いていくのですが、実験を続けるうち、だんだん青のカードが出る方の山を引く回数が増えていくというのです。

カードを引くたびに質問は何かを考えるより、決まった質問に答える方が楽です。このカードの実験結果は、無意識に楽な方を選ぶという人間の特性を示すそうです。

河原教授
「例えば、健康のためには階段を上ればいいのに、『誰も見てないからエスカレーター乗っちゃうか』っていうのあるじゃないですか。その身体的負荷も頭の負荷もできれば簡単な方にいきがち。
それを踏まえると、『前向き駐車』は頭から突っ込むから、車の向きを変えなくても済んで簡単。『後ろ向き駐車』は、車の向きを反転させないといけないので難しい。だから簡単な方に引っ張られる。
コンビニに止めるときは、周囲の交通量が多いとか、後ろから車が来たら嫌だなという思いから急いでいます。その場合は特に、簡単な方に飛びついてしまうのです」

前向き駐車からの脱却は…無理?!

それでは、「前向き駐車」をしないようにする方法はないのでしょうか。
その答えは、私たちの意表を突くものでした。

河原教授
「もともとそうやって人間が進化してきて、そういうものの考え方、頭の働かせ方をしているので、それ自体を変えるのはたぶん無理なんですよ。それを変えるには何万年も何百万年もかかって進化していかなくちゃいけない」

む、無理なんですか…。
まさか、前向き駐車から人類の進化の話に行き着くとは思いもしませんでした。
「じゃあ…どうしたら良いんでしょうか」と藁にもすがる思いで尋ねると、河原教授は、「練習すべき」とアドバイスしてくれました。

河原教授
「練習、練習、練習。後ろ向きに止める練習をするのがいいようには思いますけどね。後ろ向きに止めること自体に、認知的コスト(負担)がかからなくなれば、よりその行動が出やすくなると思います」

練習あるのみ!前向き駐車脱却への道

前向き駐車をしないためには練習あるのみ!
正しい後ろ向き駐車のしかたを教えてくれる所を探してみると…ありました!
全国でも珍しい、後ろ向き駐車の講習を行っている教習所があると聞き、私(大隅D)は、感染対策を徹底した上で、大阪に向かいました。

教えを請うたのは、その名も「交通安全管理支援チーム」の皆さん。北は新潟から南は熊本まで、全国の企業から依頼を受けて講習を行っています。

チームのリーダーは、もともと大阪府警で交通関係の業務にあたっていたという岸さん。事故を少しでもなくしたいという思いから、独自にバック事故の原因を分析し、対策を研究してきたそうです。うん、頼もしい!

大阪香里自動車教習所 岸良昭さん
「どこの企業も一緒ですけど、事故の30%から60%がバック事故なんですね。ですから、それを防止したいという願いが会社にはあるわけです。どうすれば、事故が防げるかという観点で講習をしています」

思っていたより大きい!車の死角

講習で力を入れているのは、バックする際の「車の特性」を徹底的に理解することです。

  • 車の後方には大きな死角がある(死角検証)
  • バック中に急ブレーキを踏んでもすぐに車は止まらない(停止距離)
  • 人間の感覚はあいまいで、正確にバックしたつもりでも誤差がある(車輌感覚)

特にショックだったのは、車の後方の「死角」が予想以上に大きいことでした。1歳児ほどの高さ(72cm)のカラーコーンを車の最後尾に置き、少しずつ離しながら運転席から見たら、4メートル離すまでカラーコーンのてっぺんさえ見えなかったんです。

大阪香里自動車教習所 大隈昇さん
「この高さが見えないってことですから。バックで出てくることがいかに危険か理解してもらったらいいですね」

大隅Dは後ろ向き駐車が苦手

正直に告白しますと、私(大隅D)は、後ろ向き駐車が苦手です。運転のうまい人が滑らかに車をバックさせ、狙い通りの場所にピタリと止める。あんな風にできたらなぁ…と何度思ったか分かりません。

そこで今回、自己流の運転をチェックしてもらいました。ふだん通りにハンドルを切りながらアクセルを踏んで、窓から顔を出して駐車位置を確かめて…。脳内のイメージでは、すーっとバックしてスムーズに駐車しようとしているのに、現実には、どの位置でどのぐらいハンドルを切ればいいか、迷ってばかりです。

さらに頭をもたげたのは、先ほどの「車の死角」です。幼い子どもが見えないほど死角は大きい…。ただでさえ迷いながら駐車しているのに、ルームミラーを見て、サイドミラーを見て、窓から顔を出して、キョロキョロし通しです。うおおおお!落ち着け!

…結局うまく止められず、ドアが開けられないほど右よりに駐車してしまいました。

大阪香里自動車教習所 大隈昇さん
「途中で調整するってのは、なかなか慣れていないとできないんですよ」

伝授!後ろ向き駐車、4つの極意

では、どうしたら安全かつ簡単に「後ろ向き運転」ができるのでしょうか。安全運転管理支援チームが指導しているポイントは4つです。

  • 停止して駐車スペースの確認する(死角を事前に見る)
  • 安全確認をしてからバックする(車は急に止まらない)
  • 切り返してまっすぐバックする(車輌感覚はあいまい)
  • 二段階に分けて停止する(衝突の軽減)

多くの人は急いで駐車しようとするあまり、こうした基本的な確認をしていないのが現状ではないか、でも、考え直してほしい。岸さんはそう言います。

大阪香里自動車教習所 岸良昭さん
「そんなたいしてかわらへん。1分もかわらないと思います。その1分でどれだけ事故防止をするかいう考え方をしていったほうがええんちゃいます?」

まず止まる!ハンドルは全部切る!

この4つの極意、具体的にどうすれば?教えてもらったのが、次のような方法です。 

・駐車する位置の前でいったん止まり安全確認
・その状態でハンドルをめいっぱい切る
・ハンドルを切り終わってからアクセルを踏む
・前に進んだらまた止まって安全確認
・の状態で逆向きにハンドルをめいっぱい切る
・ハンドルを切り終わったらアクセルを踏む

いつも同じ位置で同じだけハンドルを切るわけですから、当然ですが車はいつも同じ動きをします。私もさっそくやってみましたが、ハンドルとアクセルを同時に操作しないだけで、迷いも不安も格段に少なくなり、安全確認にも心の余裕が持てました。

心理学でいう「認知的負荷」が少ない状態、というわけですね。

後ろ向き駐車に苦手意識をお持ちのみなさん。そして、ついつい前向き駐車をしてしまうみなさん。止まってハンドルを全部切る。この練習をするだけで、落ち着いて駐車できるようになりましたよ!

取材を終えて

投稿していただいた疑問から始まった今回の取材。そこから見えてきたのは、前向き駐車のリスクと、その背景にある「人間が進化の過程で身につけた性(さが)」という、思いもよらない壮大な展開でした。

ことしも春の交通安全運動が始まり、街には真新しいランドセルを背負った子どもたちが歩いています。1件でも悲しい事故が減るよう、私(大隅D)も練習に励みたいと思います!

2021年4月14日


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