NHK札幌放送局

浦幌編#2好きなことをあきらめない

ローカルフレンズ制作班

2022年9月15日(木)午後5時36分 更新

今、浦幌町に高校はありません。12年前、唯一あった道立浦幌高校が廃校。そのため多くの若者が中学校卒業とともに町を離れます。

今週の主人公もそんな浦幌の若者の一人。
浦幌編のローカルフレンズ、18歳の井上陽(はる)さんです。
高校進学で町を離れましたが、卒業をしたこの春、あえて浦幌へUターンしました。

井上さんはなぜ、浦幌へ戻ってきたのか。どんな仕事をしているのか。過不足ない収入で楽しく過ごせているのか。めちゃくちゃ気になることばかりだったので、1週間一緒に過ごし、じっくり取材させてもらいました。

浦幌編のローカルフレンズ、井上陽(はる)さん。18歳。

滞在13日目。
滞在先に迎えに来てくれたのは、運動着姿の井上さん。

実はいま浦幌のサッカー少年団のコーチを務めています。この日は十勝の各チームが出場する大会とのことで、井上さんは初めて監督として指揮を執るのだそう。

井上さんは小学生の頃から町の少年団でサッカーに明け暮れていたそうです。浦幌町にUターンしてきたのも、サッカーに関わり続けたかったからというのが最大の理由。いまその夢が実現でき、子どもたちとのコミュニケーションも楽しく盛り上がっています。

この日の結果は、みごと優勝!井上さんは「子どもたちの笑顔がたまらない」と話します。

井上さんは週15時間ほどサッカーのコーチをしていますが、実はお金を受け取っておらず、コーチ業は全くのボランティア。では、どうやって収入を得ているのでしょう?

午後6時。井上さんは創業95年の老舗そば屋にいました。

豚丼とかしわそばのセット。

このそばを打ったのは…

かしわ屋・近江幹太(21)

高齢になった元店主から事業承継した、若きそば職人で、この店の店主です。

井上さんのサッカー部の先輩にあたる近江さん。井上さんがUターンすると聞き、すぐに声をかけ、ここで働き始めてもらったといいます。

「同級生とか陽とか同じくらいの世代の人と一緒に何か浦幌で新しいことをしたいなって、友達と話す中でもそういう話になったりしていたので、しばらくは一緒に働いていくのかな」。

この日、そば屋に来たお客さんは全員が知り合い。
井上さんがUターンしたことをどう思うか聞いてみると、「帰ってきてくれて良かったです。コーチも増えて」「浦幌の星!」との声が次々と。みんなUターンを心の底から喜んでくれている様子でした。

このそば屋の他にも、井上さんは町の牧場で週18時間、コンビニで週8時間働いています。
それぞれ合計すると月収は18万円になるそうで、いま4万円の家賃を払って一人暮らしをしているそうですが、十分な生活でき、日中、サッカーのコーチをする時間もしっかり確保できているんだとか。

そんな複数の仕事を掛け持つ=マルチワーカーというワークスタイルを提案してくれたのは、実は父親の亨(とおる)さんだったそうです。

高校時代もサッカーに打ち込んできた息子陽くんが、公務員や会社員になったら好きなことができなくなると悩んでいることを知り、それなら“定職に就かない生き方だってありではないか”と背中を押してくれたのだそう。

父・井上亨さん

「サッカーコーチで飯食えるのかということじゃなくて、やりたいことをやればいいんじゃない?みたいな感じで。仕事は山ほどあるし、定職に就かなくてもいくらでも働ける、浦幌では生活できるんじゃないかな」

滞在16日目。
井上さんが浦幌町で一番好きだという場所へ連れて行ってくれました。
高台から太平洋が一望できる「昆布刈石(こぶかりいし)海岸」です。

「自分が普段やってなかったこと、興味がなかったことを浦幌だったらいろんなことがたくさんできる。そう考えたときにすごくワクワクした」。

「頑張ってねー」「応援しているよ」と町の人に声をかけられる毎日が、いまは楽しくてたまらないと井上さんは話します。地元に帰ってきて良かったと思うことはたくさんあるそうです。

そして―井上さんが浦幌町に戻る決意をしたのは、もうひとつちょっと面白い体験をしていたからです。それは、町で始まっている「浦幌部」という取り組みです。

高校のない浦幌町では、中学卒業後、進学のために多くの若者が町から出て行ってしまいます。そんな中でも若者と町とのつながりを途絶えさせたくないと始まったのが「浦幌部」。
町外に進学した後も、オンラインで集まったり、地元の祭りに参加したり、実際にみんなで集まって出店をしたり。様々な地域活動を行っているのです。
井上さんもこの「浦幌部」に参加することで、高校に進学して町を離れている間も地元とつながり続けていたのです。

移住者を惹きつけるだけでなく、地元出身者も戻りたくなる浦幌町。
その背景にはあたたかい人と人とのつながりと、それを支える町の取り組みがありました。

以上


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