銭湯で背中を流してもらったことはありますか?
懐かしい場所として思い出がある人も多いのではないでしょうか。
古き良きこの銭湯文化ですが、函館市内では銭湯の減少が続いています。
あたたかいお風呂と交流の場を守ってきた銭湯を取材しました。
守ってきた地域のお風呂、でも…
函館市上湯川町にある銭湯「菊乃湯」。店主の松倉重直さんが24歳の時に父から引き継ぎ50年近く守ってきました。しかし今、閉鎖の危機にひんしています。背景にあるのはまずことし73歳になった松倉さん自身の体力的な問題。そして利用者の減少です。

この銭湯は風呂がない市営住宅に囲まれています。建設当時、銭湯の設置もあわせて計画に含まれていたそうです。しかし団地に住む人が減り、高齢化も進んでいます。松倉さんによると、かつては1日に300人近くの客が訪れていて、脱衣所ではかごが足りず座る場所もないほど混み合っていました。しかし、今では銭湯の1日あたりの平均利用者は60人ほど。ほとんどが市営住宅に住む人たちで、週に2~3回来る人が多いといいます。
松倉さん
「まず体力的にきつい。それと利用者が増える見込みがない中で何人まで減ってもやっていけるのかなと。100人切ったらやめようとかそういう風に考えるようになった。建物も古くて経営も厳しい。利用者はまだいるのでなんとか残すことができないかという思いもありますが、ここが限界」
厳しさ増す銭湯の経営
かつて地域の銭湯は多くの人にとって生活に欠かせないものでした。しかし、各家庭に内風呂が普及すると利用者が減少。また、松倉さんのように経営者の高齢化や後継者不足も大きな課題となり、全国で廃業する銭湯が増えていきました。函館でも40年ほど前には83軒ありましたが、ことしの夏にも廃業した銭湯がありことし12月時点で18軒まで減少しています。

さらに追い打ちをかけているのが、重油などの燃料価格の高騰です。
「菊乃湯」でも厳しい経営状況が続いています。老朽化による設備の修理費用が必要なうえに、お湯を沸かすボイラーに使う重油などの燃料費が高騰。ことし1月から5月までの赤字はおよそ120万円にのぼりました。さらにこれからの寒さが厳しい冬は、夏に比べてお湯をわかすのに倍の燃料がかかることから、少しでも節約しようと週1日だった定休日を週2日に増やすなどしています。
地元からは存続の声
一方、利用している人たちからは、「徒歩圏内にあるこの銭湯がなくなると困る」という声が多く聞かれました。「菊乃湯」が閉まってしまうと、次に近い銭湯はこの団地から2キロ以上先です。車を持っていない人や一人暮らしの高齢者が多く、往復のバス代もかかります。

利用客
「ここがなくなったら大変。でも経営が厳しいこともわかる。昔は店主が、静かに入ってくれ!と怒るくらいにぎわっていた」
「ほんとうに困ります。車もないし年金暮らしでバス代もかかるので」
「松倉さんも私と同じように年をとって大変だと思う。でもやっぱりお風呂に入れないのは困る。それに新しい銭湯に行けたとしても顔見知りの人たちと会えなくなるかも」
特に女性は銭湯に来てはおしゃべりに花を咲かせるなど、交流の場としても大切にされてきました。店主の松倉さんも、近況を聞いたり声をかけたりと見守りの役割をしています。こうしたなか営業は長くても来年9月までで、松倉さんは引退しますが、今後もなんとか銭湯をこの場所に維持できないか、函館市と話し合いを進めたり後継者を探したりしています。

松倉さん
「一番気がかりなのはお客さんのこと。それこそ風呂難民をつくってしまう。もしできるならお客さんが最後の1人になるまで何とか維持できる方法があればと思いますが…。本当にお客さんには申し訳ないです」
”いま”の銭湯 利用してもらうには
いまの時代に、どうすれば銭湯を利用してもらえるのか。函館市田家町にある「田家の湯」では、模索しながらあの手この手に取り組んでいます。

この銭湯は一度、火災で閉鎖しました。当時はまだ近隣に銭湯が複数ありましたが、その後近くの銭湯も次々と閉鎖。こうしたなかで地元からの声を受けて2015年に再開しました。
店主の木村正裕さん
「銭湯がどんどん減少し、とても残念に思うと同時に、経営が厳しいこともよくわかります。それでもなんとか銭湯の文化を残したいという気持ちが強かったので、もう一度やってみようかなと決断しました。ただ銭湯も商売なのでお客さんが何人来てくれるのか不安もありました」

木村さんは、車のない高齢者などのため曜日や時間を決めて銭湯と利用者の自宅を車で送迎しています。始めたきっかけは、廃業を決めた銭湯の店主から頼まれたことでした。利用者は10人以下と決して多くはありませんが、家に風呂がない人を助けるとともに少しでも利用を増やしたいとの思いで続けています。無料ではありませんが公共交通機関などを利用するよりも安い料金で対応し、年明けからは市内の別の地域へ送迎の範囲を広げる計画です。
さらに毎週土曜日は小学生以下を無料にしています。親子で訪れる人が増え、利用者の増加につながっているということです。こちらも来月3日から、小学生以下は毎日、無料にする予定です。
田家の湯では再開後、軌道に乗り始めたやさきに新型コロナウイルスの影響で利用者が減少しました。そして燃料高騰の影響も受けています。しかし、今年は道内の1日あたりの平均利用者を上回る90人以上を維持。今後はイベントなども企画して、町内の人が集まる場所にしたいと考えています。

木村さん
「もっと子どもたちにたくさん来てほしいですね。銭湯は情報の交換場所であり、ふれあいの場所。これからもこの町でなにかの形で役に立てるようにしていきたいです。お風呂で知り合った人たち同士でのコミュニケーションがありますし寂しくないですよ」
地域に安らぎを提供し続けてきた銭湯。厳しい経営環境の中、模索を続けています。


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