NHK札幌放送局

そのままの自分でいられる場所―狸小路の一角で

ナナメの場

2021年7月2日(金)午後2時02分 更新


この場所を奪ったら、あの子たちどうなっちゃうんだろう。
 実家のラーメン屋を間借りして、子ども食堂を切り盛りしている佐野久美子さん。新型コロナが流行してからは活動を休止することも考えましたが、頭をよぎったのは学校や家のことを不安そうに話す子どもたちの顔でした。
(札幌局ディレクター 三嶋立志) 


学年ごったまぜのラーメン屋

夜ごはんの香りが漂う細い道を抜けていくと、だんだん子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきます。遊び場になっているのは一軒のラーメン屋。

「冷やし中華はじめました」の張り紙の前にシャボン玉が舞っているのは何とも不思議な光景です。さらに驚くのは集まっている人たちの年齢層。ちっちゃい子から中学生、大学生までいろんな人たちが年に関係なく走りまわっています。思い返してみれば、学校では授業も休み時間も同じクラスの人と過ごすことがほとんどでした。「所属」に関係なく遊べるのは何だかうらやましい気がします。

かつてのパンク少女

佐野さん自身、10代の頃は両親とそりが合わず、居場所を探していた一人でした。

「高校時代は、ほとんど家にいなかったですね。寝に帰ってくるみたいな感じで。だから、ほかの居場所って絶対必要だなとは思います」

佐野さんがたどり着いたのは近所のライブハウス。好きなパンク・バンドのライブに行ったのがきっかけで、話の合う友人たちと出会いました。

ライブがない日でも、そこにいて時間を潰してるというか。来た人たちとしゃべって、遊んでもらったりしてもらいましたね

右から2番目が佐野さん。パンクですね。ライブハウスの一角にあるレコードショップに集まり、時間を忘れておしゃべりし続けたそうです。みなさんとは今でも連絡を取っていて、中には子ども食堂を開いている人もいます。運営のノウハウは、そのお友達から教わったそうです。

いつもの3人組

毎週必ず来る中学生3人組がいます。この日は、お決まりの角っこの席でゲームをしたり、ガンプラを合体させたりしていました。

そのひとりは、家などで我慢することが多く、不満をまわりにぶつけてしまうこともありました。佐野さんは家と学校以外の「ナナメの場」が子どもたちには必要だと考えています。

「思春期の子どもと親が、ずうっと一緒にいるっていうのは、ふだん良好な関係でも、うまくいかなくなってくると思います。(子ども食堂があることで)見えてる世界が広がるし、あとは自分が困ったりしたときに助けを求められる相手も増えるし、いいことがいっぱいあると思ってます」

「お兄さん」になっていく中学生たち

3人組が子ども食堂に通い始めたのは5年ほど前。当時は遊んでもらう側でしたが、今では、すっかり子どもたちの面倒を見るお兄さんになりました。

彼らの大事なプラモデルで遊び始める子どもたち…

しかし、決して怒らずに、やんわりとプラモデルを返してもらっていました。

後日、聞いてみると、内心カチンと来ていたそう。それでも優しく接するのは、佐野さんや他の大人が粘り強く彼らの声に耳を傾けてきたからなんだと思います。

佐野さん「もともとは自分たちも同じように遊んでもらっていたのが、年を重ねて、ちっちゃい子どもたちのけんかの仲裁に入ってみたりとかしていて、すごい成長してるなって思います。うねうねしてる時期だと思うんですけど、小さい子たちの面倒を見ることで、真っすぐな自分を取り戻すのかもしれません」

両親や先生以外の大人の価値観に触れる。そういう経験をすることで、自分のやりたいことや役割のようなものを見つけられるのかもしれません。

子ども食堂ぽんぽこ
場所:札幌市中央区 南3条西10丁目
日時:毎週木曜日16:00~19:00ごろ
お弁当:中学生以下は無料・高校生100円・保護者200円(要予約)
◆応援したい方は「子ども食堂ぽんぽこ」で検索!◆


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2021年7月2日

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