エネルギー価格や食品、資材などで深刻さを増す値上げ。
函館市では居酒屋の経営や住宅の販売価格にも影響を及ぼしている一方で、従業員の生活を支えようと支援金を支給する企業も出ています。
仕入れ価格値上がりも価格転嫁できず
新型コロナウイルスの感染状況も一時期に比べると落ち着き、飲食店では客足が戻り賑わいを取り戻しつつあります。そんな中、食品やエネルギー価格の高騰で提供する料理などの仕入れ値が上昇しています。

函館市杉並町にある居酒屋では去年春ごろから原材料の仕入れ値が上昇し始め、特に揚げ物に使用する油は18リットル入りの一斗缶の価格が6000円台と去年の同じ時期に比べて倍の価格に値上がりしているということです。

このほか、オーストラリア産の牛タンやノルウェー産のサーモンは仕入れの数が少なくなっていて、店では、すぐに売り切れるということです。また、せっかく入ってきたノルウェー産のサーモンは仕入れ値が30パーセントほど値上がりしているということです。
このほか、オーストラリア産の牛タンやイカ、タコなど国産の水産物も平均して10パーセントほど値上がりしているということです。

さらに、ビール大手各社は、業務用のビールの価格をことし10月から引き上げることを決めています。こうした中、この店では客離れを防ぐために当面、仕入れ値の上昇分を価格に上乗せせず、利益を削って営業を続けていきたいとしています。


「酒肴菜友 じょっぱり」森田吉郎店長
「物の値段が徐々に上がってきていて、値段を変えずにお客に提供するのが
苦しくなってきていますが、簡単に値上げする訳にはいかないので、今は耐えています」
憧れの“マイホーム”も値上がり
値上がりの波は憧れのマイホームにも。
輸入木材が品薄となり、価格が上昇している中、函館市の住宅メーカーでも十分な住宅用の木材が手に入らないなどの影響が及んでいます。

函館市の住宅用の建材を扱う会社では、主にカナダから木材を輸入しています。
カナダやロシアなど、寒い地域の木材は強度が高くなることから、住宅用の木材として、利用することが多いと言います。

しかし、ロシアへの経済制裁などで、ロシア産の木材が品薄となり、カナダ産の木材に需要が集中しました。
世界的に品薄の状況が続いていて、輸入価格が高騰しているということです。

会社によりますと、特に住宅の構造材で使用する木材の仕入れ価格は、2年前の同じ時期に比べて、およそ3倍にまで値上がりしているといいます。

また、床や屋根など合板に使用する木材は1割から2割程度上昇しているということです。さらに世界的に木材が品薄の状況になっていて、いつ納品できるのか見通せない状況が続いていると言います。
納品も不安定で、想定よりも時間がかかったり、必要な量を確保できなかったりすることも多いということです。
会社では木材の安定供給を図るためこれまで取引のなかった業者にも納品を依頼していますが、それでも必要な量の2割程度しか在庫が確保できていない状況だということです。
住宅を建築するうえでは欠かせない木材。
会社のグループ企業である住宅メーカーでは、住宅価格を上げざるを得ないといいます。

会社によりますと、需要が多い一般的な戸建て住宅で考えると、30坪ほどの土地に2000万円台から3000万円台で住宅を新築した場合、去年と比べて100万から300万円程度高くなっているということです。

小倉木材店 夏井圭 総務部長
「いままでこんなことになったことがなかったので驚いています。急激に値上がりをしていても、私たちは木材を集めないと住宅を建築できないので、価格が高くても購入するしかありません。函館では、住宅を建てたいという需要がまだあるので、経営の影響は少ないですが、このまま価格が上がっていくと影響が出かねないと心配しています」
従業員の生活守れ
物価や原油の高騰が市民生活に影響を及ぼす中、函館市内の企業の中には、職員の生活を支えようと独自の取り組みを始めたところもあります。

函館市田家町の建設会社「齊藤建設」では、ことし4月、社員の生活を少しでも支えようと、会社の決算時期に合わせて、給与とは別に「原油及び物価急騰支援金」という名目で50人余りのすべての社員に一律5万円を支給しました。

さらに、今後も物価高や原油高が続く可能性があるとして、ことしの夏と冬のボーナスの際にも支援金を新たに支給することを検討しています。
「齊藤建設」は主に道内で公共工事を受注していますが、建設資材が高騰する中、公共工事では上昇したコストを発注者側が負担する制度があるため、経営への大きな打撃は避けられているといいます。

齊藤建設 齊藤大介社長
「物価高騰というより急騰したという印象だったので、会社として社員を支援したいという強い気持ちがありました。社員と会社は共存しなければダメだと思うので、物価高騰が世の中で話題にならないぐらいに落ち着くまでは、会社ができる範囲で社員の支援を続けていきたいです」
建設業界では賃上げの動きも
物価や原油の高騰が続く中、建設業界では賃金を引き上げる動きも出ています。
背景には、国が発注する公共工事やシステム調達などのうち、価格だけでなく技術力なども評価する「総合評価落札方式」と呼ばれる入札について、政府が今年度から、参加する企業の賃金の引き上げを促そうと、賃上げをした企業を優遇する措置を始めたことがあります。
この措置では、企業による賃金の引き上げを評価する項目を新たに加え、前の年と比べて、▼大企業で3%以上、▼中小企業で1.5%以上、賃上げを行うと表明した場合、その企業の評価の点数が加点されることになりました。
これを受けて、函館市内で公共工事を請け負っている複数の建設会社はNHKの取材に対し、賃上げをすでに実施したり、今後行うことを表明したことを明らかにしていて、建設業界で賃金を引き上げる動きが出始めています。
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