まもなく閉店を迎える帯広市のデパート「藤丸」。その再建を担うために先月設立された新会社の社長に就任したのが、帯広日産自動車の親会社の村松一樹社長です。再建への思いや構想について聞きました。(取材 NHK帯広 米澤直樹)
1月中旬、村松社長を訪ねました。

「そら」のスポンサー受託“素晴らしい決断”
-去年7月に藤丸の閉店が報道された時、村松さんはどう見ていましたか?
村松)藤丸の経営は厳しいところに差しかかっているという話は聞いていたので、「とうとうこういう形になるんだ」と。悲しく、残念だなと思いながら受け止めました。
それに対して米田さんが手を挙げてスポンサーをするということだったので、「これはぜひ頑張ってほしいな。素晴らしい決断だな」と思いました。
米田社長との出会い“信頼置ける”
-米田社長に初めて会ったときの印象を教えてください。
村松)藤丸のスポンサーで、36歳というのは聞いていました。そして、元証券会社のスーパー営業マンだというのを聞いていましたので、勝手にイメージを作り上げてたんです。
けど、正直ちょっとイメージが違う。どっちかっていうと朴とつとしていて、「口先じゃないな、この人は。中身があるな」って。
素晴らしい営業の方って、大抵そうだとは思うんですけれど、「俺が俺が」という形じゃなくて、「信頼の置ける青年だな」というのが第一印象でした。

-その後、米田さんから去年の11月25日に藤丸再建に向けた協力を要請されました。
村松)米田さんから「村松さんのことは藤丸の応援団の1人だというのも知っています。これから新しい藤丸を展開していきたいと思いますが、ご協力いただけますか」という話がありました。
私は「微力ですけれど、私のできることだったら協力させていただきますよ」とお話しました。元々私は藤丸応援団の1人ですから、協力を要請されたことは大きな意外性はなかったですね。
社長就任への打診
-そして5日後(11月30日)社長就任への打診を受けましたね。
村松)今度は具体的に「新しい藤丸の会社を立ち上げようと思います。村松さんに代表になってほしい」という依頼を受けました。
さすがに代表になるとは思ってなかったので、「それはどういうことなの?」「現状はどうなってるの?」ということを、私なりに確認をさせてもらいました。
その時の彼の受け答えが素晴らしくわかりやすく整理されているもので「この人は本当に優秀な方だな」と思いましたね。もう本当に年齢を飛び越えて、素晴らしい事業家であると思いました。
とにかく私の質問に対して明朗に説明をしてくれました。そこでの私の納得感は相当に高いものでした。
-どんな話に納得したのでしょうか?
村松)話の内容もそうなんですけど、「この人と一緒に会社を立ち上げて新しい藤丸を展開していく。それはとてもワクワクすることだな」と思いました。
この素晴らしい青年、実業家と一緒に仕事できるということの喜びを、その時のやり取りで受け取りました。
-米田社長がどんな点で優れていると感じましたか?
村松)米田さんを中心にした「そら」は、若い優秀な人たちが集まったブレーン集団です。会う度に新しいアイデアに出会いますし、そのアイデアが色んな基礎データに基づいた裏付けのある建設的な提案なんですよ。
なかなかこういうやり取り、仕事の進め方ってできない。彼らと今それができてるのが刺激的で、ワクワクしています。

新会社“藤丸”に込めた思い
-新会社、藤丸株式会社に込めた思いを聞かせてください。
村松)やはり十勝・帯広のランドマークである藤丸。人々から愛されている藤丸。この名前をぜひ受け継いだ形で、新しい藤丸を展開していきたい。その思いで新たに「藤丸株式会社」という名前で会社を立ち上げました。
-新藤丸はいったいどんな施設になるのでしょうか?
村松)どういう館にするのか、どういうコンテンツを入れてくのか、これが大きな肝ですから、あらゆる選択肢を模索してます。より魅力的な、市民が、お客様が集ってもらえるような館にしたいなという風に思ってます。
“変えるもの”と“残すもの”がある
-新しい藤丸は、大きく変わらなければいけないと思いますか?
村松)今までの経営陣、今までの従業員の方々が、あれだけ努力されてたけど、残念ながら閉店に向かってるわけですから、変えるべきものは変えないといけないのかなと。
そのバランス、折り合いをどうつけていくかということだと思いますね。そこの見極めに今時間をいただいているということですね。

-コンテンツを考えるにあたって重要視していることはありますか?
村松)藤丸が122年繋がってきた価値の1つは、やっぱり贈答品ですよね。藤丸の包装紙に包まれている贈答品。やっぱり同じものでも価値が上がるんです。
百貨店としての価値、これは残したい。「デパートに行きたいのはこれがあるから」というのが百貨店の価値だと思います。
-以前、食に関するコンテンツに言及していました。
村松)選択肢の中の1つです。やはりこの十勝・帯広、1つは食というのがこのエリアの価値ですから、入れ込みたい1つの選択肢ですね。
コンテンツの見極めを
-経営を成り立たせるための戦略についても教えてください。
村松)新しい藤丸を存続させるためには、経済計算が成り立ってかなきゃいけない。収益を上げてかなきゃいけません。
そのためには、より魅力的なコンテンツ、より多くのお客様に集まってもらう館にしなきゃいけない。これは至上命題ですね。藤丸という名前の館を作るときにも、マーケット、市場のニーズがありますから。
どういうものをお客様は求めるのか、ここをしっかり見極めなきゃいけないと思っています。現藤丸が持っているデータも含めて、戦略的に分析を進めています。
新しい客層の獲得が不可欠
-全国のデパートの事例を取材していると、新しい客層の開拓が不可欠という印象を感じました。
村松)残念ながら藤丸が閉店に向かっている理由の1つは、やはり客層がちょっと偏ってきてしまっている。もっと多くの層のお客様、新しいお客様に来ていただくということは、必要不可欠な話だと思います。
その昔は、あの辺りも高校生が放課後に行き来していたんですよね。ただ、今ほとんどいませんね。新しい藤丸が、放課後あそこの辺りを高校生が歩く1つのきっかけになれば嬉しいなと。
それは多分、新たなお客様の一画を占めると思います。若い人たちが放課後、青春を謳歌する1ページを街中で繰り広げることができればいいなと。それに貢献できるような新しい藤丸であったらいいなということは考えています。

-「新しい客層」をどうやって獲得していきますか?
村松)若い層がここのエリアには何人いるかとか、従来の年配の客層の購配力ってどれぐらいあるのとか、そういうデータって、行政が持っていたり、色々なシンクタンクが持っていたりします。
それを集めてきて、基礎データに基づいて、新しいお客様を創造するためにはどうすればいいのか分析します。米田さんたち、「そら」はそういうことができますね。
新たなコンテンツ“温泉の活用も議論”
-各地のデパートの事例を調べてみました。新たな人の流れを生み出すには、“強力なコンテンツ”が必要かなと感じました。
村松)そうです、強力なコンテンツです。今、それを見つけ出す作業をしてます。
-例えばの話ですが、最上階に映画館があるとか、温泉施設があるとか。上から下に人の流れを作る、そんなイメージでしょうか?
村松)そんなこともあり得るかもしれませんね。米田さんが経営している「そら」のグループ会社には、「ふく井ホテル」があって、源泉が出ているんですよね。
そのお湯なんかも、もしかしたら活用できるかもしれないなっていう話は、米田さんともう議論してます。目玉になるものがいくつかないといけないと思うんですよね。

開店は早くて1年後
-今後のスケジュールについても教えてください。
村松)いろんなものが全て、スムーズに“スーパーウルトラC”で積み上がってって、(開店は)早くて1年後です。何か1つ課題が起きたら、3ヶ月、6ヶ月、1年、下手したらもう1年かかる。
ここはあまりスケジュール感持たずに、やっていきたいなと思ってます。ここで失敗はしたくない。スピードありきの時間軸で、「ここまでに絶対開店させなきゃいけない」というものではないなと思っています。
しっかりしたもの、魅力的なもの、本物をどう作っていくかっていうのを、しっかりやってきたい。
従業員の再雇用にジレンマも
-現藤丸の従業員の再就職も進んでいますが、接客業で働きたいという希望を持っている従業員も多いです。
村松)しかるべき期間が空いた後に開店し、スタッフを募集させていただくという時に、「またぜひ藤丸で働いてみたい」という方にもし来ていただけたら、個別に大歓迎ですね。
それは歓迎したいと思ってます。藤丸ってこの地域を代表する企業で、本当に優秀な方々がたくさんいらっしゃいます。正直ここはね、ジレンマなんですよ。「もうぜひ来てください」って思うんだけど、そうはできない。
やっぱりしかるべき間を空けて、新たに立ち上げなきゃいけないっていう使命があるので。従業員の皆さんって、やっぱりとても大事な会社の構成員なので、大事にしたいと思うんですよね。
だから、そうできないのがとても残念ですね。どうしても必要な時間があるので、そうできないっていうのが、自分自身ちょっと無力さを感じます。
-こうした考えは、従業員に共有されているのでしょうか?
村松)それはあまり軽率にはできないと思うんですよ。どういうコンテンツになるかによって、どれだけ募集するかっていうのは違うじゃないですか。
どういうコンテンツになるかによって、どういう方に来ていただきたいとかってのも変わるじゃないですか。
だから、「再度の雇用については、個別に対応させていただきたい」っていうのは、そういう意味なんですね。

まもなく閉店“バトン受け継ぐ”
-今月(1月)末で閉店を迎えます。改めて、村松さんの決意を教えてください。
村松)藤丸は素晴らしい十勝の顔です。街なかにおけるランドマークでもある。ここに住んでる方々の少なからず精神的支柱でもあります。
とにかくバトンを受け継いで、藤丸という名前を受け継いで、街なかの活性化に向けて微力ですけど貢献できたら最大の喜びですし、それが実現できるように、なんとか尽力していきたいなという風に思っています。

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