NHK札幌放送局

胆振東部地震4年 ブラックアウト被害を防げ エネルギー地産地消の未来

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2022年9月6日(火)午後5時47分 更新

2018年9月6日の胆振東部地震から4年。多くの人の記憶に残っている被害の1つが「ブラックアウト」ではないでしょうか。一時、道内で最大295万世帯が停電。特に北海道の基幹産業の1つ、酪農家にとっては搾乳ができなくなるなど、大きな打撃でした。今、そのブラックアウトによる被害を防ぐため、注目されているのが「マイクログリッド」と呼ばれる仕組みです。エネルギーの地産地消を目指すこの仕組み。今の現状と課題を探りました。 (釧路局記者 島中俊輔)。 

酪農家、不安だったブラックアウト

酪農が基幹産業の釧路市の阿寒地区。菊池辰巳さんの農場では、およそ800頭の乳牛を飼育しています。4年前のブラックアウトでは菊池さんが勤める農場も停電。搾乳ロボットや生乳を冷やすバルククーラーが一時、ストップしました。自家発電があったため、大きな被害は受けずにしのぐことができましたが、初めての経験に不安を抱いたと言います。

釧路市阿寒地区 酪農家 菊池辰巳さん
「一応搾乳が開始できたけど、思ったよりも長く停電が続いたので。牛乳が出荷できるのかなというのが、一番大きな焦りでした。酪農は、電気がなかったら何もできないので、本当に困りましたね」

4年前、道内ではブラックアウトによる酪農被害が広がりました。▼乳を搾ることができず「乳房炎」になってしまった牛が出たほか、▼生乳を冷やすことができずに廃棄せざるを得ないケースもありました。農林水産省のまとめによると、道内全体の酪農被害は23億円あまりに上りました。

“マイクログリッド”構築進む 阿寒

ブラックアウトによる被害を繰り返さないため、阿寒地区が始めた新たな対策が「マイクログリッド」という取り組みです。
「マイクログリッド」は地域単位で再生可能エネルギーを発電し、エネルギーを“地産地消”する取り組みです。ふだんは酪農家の電力として活用したり、余ったら売電したりします。万一、電力会社からの送電がストップしてブラックアウトが起きた場合でも、「マイクログリッド」が構築されていれば、地域内で電力をまかなうことができます。災害時のバックアップ電力となるのです。

阿寒地区では来年2月の運用開始を目指して準備が進んでいます。太陽光発電のほか、牛のふん尿を活用したバイオガス発電を再生可能エネルギーとして活用します。
バイオガス発電は牛のふん尿を発酵させて取り出したメタンを活用して電気をつくる仕組みです。
別のメリットもあります。現在は畑に肥料としてまいたふん尿の臭いが周囲にたちこめて課題となっていますが、バイオガス発電にすることで臭いが抑えられ、肥料としても均等な効果も期待できるといいます。

JA阿寒地域対策室 田中義幸室長
「やっぱりブラックアウトの経験があって、酪農家に電気を流せるようなシステムができればブラックアウトの被害はなかったなというのがスタートです。エネルギーの自給自足。これが最終的にはできればいいなと」

「今までは、家畜から排せつされるふん尿をそのまま畑に散布する形なので、結局においもそうだし。肥料効果についてもばらつきがある。ガスをとったあと、工程を経ることで、臭いはなくなる。肥料効果的にもバランスのとれた液肥ができるというメリットがある」

エネルギーに詳しい専門家はブラックアウト被害を防ぐための有効な対策であるとともに、気候変動対策の1つとしても注目されていると指摘しています。

北海道大学大学院工学研究院 田部豊教授
「ブラックアウトを完全に防ぐというのは難しいかもしれないが、電気が落ちた時、即座に地域内で復旧させて、被害を最小限に食いとめるということでマイクログリッドという仕組みは非常に価値がある」

「さらに今、急務になっている二酸化炭素の排出量の大幅削減。再生可能エネルギーは量はたくさんあるが、広く薄く分布しているという特徴があるので、エネルギーの地産地消が非常に重要だ。災害時の電力、そして脱炭素。この2点で最近注目されている」

広がりにはコストが課題

一方で、マイクログリッドの普及にはコスト面がネックとなっています。
この日、阿寒地区を訪れたのは、JAとともにマイクログリッド事業を行う東京のベンチャー企業です。阿寒地区の場合、新たにバイオガス発電や太陽光発電、それに蓄電池などのハード整備を行うための事業費がおよそ10億円です。今回のマイクログリッドで対象となるのは、酪農家14軒、民家20軒、避難所1軒のあわせて35軒。小規模なものでもこれだけの費用がかかります。
JA阿寒では加盟する酪農家すべてに広げようと考え、試算したところ、コストが10倍近くに膨らむことがわかり、頭を悩ませています。

JA阿寒地域対策室 田中義幸室長
「JA管内で全部の地域に電気が行き渡る計画は作っているが、実際にやるとなると費用面からも現実的に難しい」
東京のベンチャー企業 小峯充史社長
「決して今の段階ではもうかる事業ではないし、国の補助金や道の補助金などを活用して何とかというところ。経済性、地域を引っ張るJAのような存在などがうまく合致したら、こういう事業はこれからも進んでいくんじゃないかなと思う」

国は補助金で後押し

マイクログリッド導入の背中を押そうと、経済産業省は補助金の制度を創設しています。各事業主体が▽計画を策定する際や▽ハード整備をする際にそれぞれ4分の3、3分の2を補助する内容です。
これまでに補助金を申請したのは全国でおよそ50件ですが、採算面や送電網の課題などがあり、計画段階で頓挫するケースも少なくありません。実際に具体化しているのは10件未満にとどまっています。
このうち、神奈川県小田原市と沖縄県宮古島市の2件では、補助金を活用して導入を進め、実際に運用がスタート。さらに道内でも、石狩市が道の補助金を使ってマイクログリッドを構築し、ことし4月から運用が始まっています。

どこまでカバーか検討を

災害時に平時と同じような電力を求めると大がかりな設備が必要になってしまいます。
そこで専門家は、酪農家や避難所の機能を維持するための必要最低限の電力にとどめれば、コストも抑えられ、導入のハードルも下がると指摘します。
また、災害時のメリットだけでなく、脱炭素社会の実現につながることなども丁寧に説明することで地域での理解が得られやすくなると言います。

北海道大学大学院工学研究院 田部豊教授
「平時はなるべく地産地消で地域内のエネルギーを有効利用する。災害時の孤立したときは、全部ではなく必要最低限のエネルギーを供給できればいいとする。災害時にどこまでカバーしていくかっていうところを地域で考えることが、低コスト化などといった課題の解決につながってくる」

「CO2=二酸化炭素を排出しないことに価値を認められてこそ、脱炭素に注力する意味が出てくるが、価値が理解されにくいというのが一番難しいところ。その意義を広げるとともに、地産地消でエネルギーをまかなうと、“わが町のエネルギー”といった意識が地域内で芽生えてくるのかなと思う。それは単純にコストやCO2排出量といった問題を超えた地域内での活性化にもつながってくるのではないか。最終的に、そういう将来の安心・安全な地域をみんなで作り上げることを楽しむことを道内、地域が一丸となって考えていくことが重要だ」

2022年9月6日

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