新型コロナウイルスの感染が拡大した後、全国的に人気が高まっているレジャーの1つが、海釣りです。密を避けて手軽に楽しめることが理由のようです。道内でも、岸壁などで釣りを楽しむ人の姿が増えたと言います。その一方で、海への転落事故が増加しています。
(室蘭放送局 篁慶一)
波は突然防波堤を越えた
伊達市の漁港は家族連れや若者で賑わっていました。北海道では春先からよく釣れる、カレイを狙って来ていたのです。私の家族もその中にいました。大物を釣って父としての威厳を保ち、晩ご飯のおかずも手に入れる。まさに一石二鳥を期待して、竿を振っていました。
ところが、楽しいはずの時間が長く続くことはありませんでした。

一見穏やかに見えた波が突然、防波堤を越えてきたのです。波は、隣にいた家族の携帯電話が入ったバッグや持ち運びできる家庭用ゲーム機を一気に海の中へ流してしまいました。呆然と立ち尽くす家族を前に、声をかけることもできませんでした。私たちも、もし防波堤の上に立っていたら流されて海に落ちていたかもしれない…。そう考えると空恐ろしくなり、とても釣りを続ける気持ちにはなりませんでした。
増加する釣り中の転落事故
実はこの日、室蘭市で釣り人の死亡事故が起きていました。苫小牧市から来ていた男性が防波堤から転落したのです。こうした釣りをしている際の転落事故は、去年、道内で増加しました。第一管区海上保安本部によると、去年1年間に発生した転落事故は計22件。前年より6件増加し、過去3年間で最も多くなりました。ことしは、5月末までに10件の転落事故が発生し、去年を上回るペースとなっています。
また、室蘭海上保安部が管轄する噴火湾とその周辺の海では、去年は6件の転落事故が発生し、4人が死亡しています。いずれも救命胴衣を着用していなかったということです。
事故が増加した背景には、新型コロナウイルスの感染拡大があるという見方もあります。
屋外で手軽に楽しめるレジャーとして、釣りの人気が高まっているからです。室蘭市で釣り具を扱うホームセンターの店長も、売り場での変化を感じていました。

イエローグローブ東室蘭店 田原公一店長
釣り具を求めて来店するファミリー層や女性客が目に見えて増えました。釣りは密状態を避けることができ、感染リスクが低いと考えられているので、新しく始めたいと思っている人が増えてきたなと実感しています。
「聖地」室蘭には札幌圏からも
室蘭は、「ロックフィッシュ(根魚)の聖地」と呼ばれるほど、アイナメやソイなどの魚影が濃く、大型のカレイも釣れることから、道内でも特に人気が高い地域です。それだけに、札幌圏などからも今まで以上に多くの人が訪れるようになっていると、地元のベテラン釣り師が現状を語りました。

日曜日、土曜日になったら釣り人が多くてすごい状態だ。コロナの前と比べると、明らかに数は増えている。札幌ナンバーの車がたくさんやってきて、釣りをする場所を見つけるためにグルグルしている。
さらに、室蘭市で観光船の運航などを行っている「スターマリン」によると、釣り船をレンタルするための申し込み件数が去年、例年の約3倍に増加したということです。免許を持っていない人からの希望にも応えようと、ことし3月からは小型船舶の操縦免許を取得するための教習所事業を始めました。昨年度、全国で小型船舶免許を取得した人の数は、前の年より25%以上増加したということです。
海の転落事故 対策の徹底を
事故の増加を受けて、海上保安部は警戒感を強めています。室蘭海上保安部の三浦瑞樹交通課長は、釣りをする際は、救命胴衣を着用するなど、事故対策を徹底してほしいと呼びかけています。

室蘭海上保安部 三浦瑞樹交通課長
必要最低限の装備として、海に落ちたときに脱げないような、体にフィットしたライフジャケットを装着してほしい。また、自分が行く釣り場の環境にあった靴を履いてほしい。防波堤や岩場はデコボコしていてつまずくこともあるので、滑りにくい靴を履いてほしい。天気が悪い時、天気が悪くなる予報の時は、無理をせずに釣りに行くのを中止してください。

三浦課長によると、釣りに来た人の車が岸壁などから海中に転落する事故も道内で相次いでいるということです。
原因としては、アクセルやブレーキの踏み間違いが多いそうです。そこで、万が一踏み間違えても海に向かわないように、車は岸壁の端と平行になるように駐車してほしいと話していました。道内では6月20日で緊急事態宣言が解除され、7月には学校が夏休みに入ります。釣りに行く機会がこれまで以上に増えるかもしれません。悲惨な事故を防ぐためにも十分に対策をした上で、楽しんでほしいと思います。
2021年6月18日放送

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