NHK札幌放送局

沼で育てるサケの稚魚

ほっとニュースweb

2021年4月15日(木)午前11時52分 更新

北海道を代表する魚「サケ」。 近年は深刻な不漁が続いています。 資源回復に向けた研究は、どうなっているのか。 現場を取材すると「稚魚」に焦点をあてた興味深い研究が進んでいました。
(釧路放送局 田村佑輔)

サケを沼に放流!?

道東の浜中町で、ことしの稚魚の放流が始まりました。去年人工授精して育てた40万匹以上のサケの稚魚が勢いよく放流されていきました。
サケの稚魚といえば一般的に川や海に放流するイメージがありますが、この日放流していたところは藻散布沼(もちりっぷぬま)です。

藻散布沼は、海とつながっていて淡水と海水が混じり合う「潟湖(せきこ)」のひとつです。道東では稚魚の放流に、こうした「沼」を活用しようという研究が注目されています。
サケの稚魚は、北海道では一般的には川や海に放流され、太平洋を回遊したあと、およそ4年で産卵のために沿岸に戻ってきます。ただ、道東の太平洋側ではサケが海に出た直後の春の海水温が極めて低いため、稚魚が生き残れないことが長年の課題とされてきました。

そこで「沼」に着目したのが道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場の卜部浩一研究主幹などの研究グループです。潟湖のような沼は、川や海よりもサケの稚魚の放流に適しているのではないかと考えたといいます。

沼のメリット
①水温が海よりも高く 稚魚の成育に最適
②稚魚のエサとなる生物が豊富

これを確かめるべく、卜部さんたちは2017年から4年間にわたって調査を行いました。
その結果、放流した稚魚が戻ってくる「回帰率」は、浜中町の幌戸沼では、釧路市の釧路川に比べて3.5倍も高くなっていました。

温暖化でサケが…

サケの資源回復へ期待できる研究成果が出た「沼」への稚魚放流。一方で、卜部さんは、稚魚の成育環境に深刻な影響をもたらす、ある問題があると指摘します。
それは、地球規模の「温暖化」です。
一般的に放流されたサケの稚魚は、春の海水温が8度になると沿岸で活発にエサを食べて成長し、13度になると外海に出て行く習性があります。この海水温が8度から13度の「適水温」の期間に大きく成長できれば、その後の生き残りにもつながります。

卜部さんはこの「適水温」の日数が温暖化に伴って2100年までにどう変化するか、海域ごとにシミュレーションを行いました。
すると、「オホーツク」では現在の26日から、最短では17日に短くなったほか、「根室」でも大幅に短くなりました。つまり、稚魚は十分に成長できないまま沿岸部を離れて外海に出て行くことになり、生き残り率の低下が懸念されます。
一方、「日本海側」では「適水温」の日数は長くなりましたが、その時期は2月ごろまで早まります。稚魚の習性を考えると、いまは春に行っている放流を2月ごろに早める必要があります。
ただ、この時期には放流できる大きさまで成長していないため、やはりサケの稚魚にとって環境が悪化することになります。

道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場、卜部浩一研究主幹
「全道でサケにとって非常に不利な環境が用意されつつあります。北海道のサケ漁業が継続できるよう、気候変動にも関心を持っていただきながら、その影響を最小化できるよう、私たち研究者、漁業者、そしてみなさんで協力して取り組みたい」

取材後記

私が釧路に赴任して2年近く、サケの不漁は深刻さを増し、ベテラン漁業者から「なんとか水揚げが回復してほしい」という祈るような声を聞いてきました。
今回の取材で分かったのは「サケの資源回復」は地球規模で考えなければ解決しない大きな問題だということです。
一方で、資源回復に向けた研究が地道な努力で実りつつあるのも事実です。
沼をはじめ北海道の沿岸にかつてのように大量のサケが戻ってくる日を待ち望みながら、今後も道内の研究を取材します。(田村佑輔)

2021年4月6日放送

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