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“副業”は自衛官 web

ほっとニュース北海道

2020年12月4日(金)午後0時48分 更新

「自衛隊のOBじゃなくても、大丈夫」。 取材に応じた自衛隊の担当者は、そうアピールしました。 

別の仕事をしていても、有事の際は自衛官として活動できる“副業”自衛官の制度。 被災地などの最前線で活動することが期待されています。 その最前線での活動、今までは自衛隊のOBに限られていましたが、去年からは一般の人もできるようになったのです。 新制度ができた背景と、応募した人たちの思いに迫りました。 (札幌放送局・浅井優奈記者)

新制度 その特徴は

警備員の藤本幸治さん(38)。来春、「東日本大震災」以来の思いがかなうことになりました。

「震災のときに被災地で活動している自衛隊の姿を見て、自分も誰かのためになる仕事がしたいと思うようになりました。でも10年前の時点で既に、自衛隊の入隊の年齢制限にひっかかっていたんです」(藤本幸治さん)

藤本さんの最大の期待は、“副業”の自衛隊員であっても、災害の最前線で活動できること。最前線での活動は自衛隊のOBに限られていましたが、条件さえ満たせば一般の人でもできるようになったのです。

「胆振東部地震が起きたとき、もどかしい気持ちでした。だからこの制度を聞いたときにはすぐに手を挙げたんです。自分も現場に出て人の役に立ちたい」(藤本さん)

藤本さんは、災害の被災地に入って支援活動にあたることに備えて、警備員の仕事を続けながら訓練にあたることになります。

アラフォー女子も

この制度に期待を寄せる人が、もう1人います。松坂奈々さん(45)。「リュージュ」の元日本代表選手です。

「高校生のころから、自衛隊のパイロットになりたかった。でも2度挑戦して、不採用に。諦めざるを得なかったので別の仕事をしてきましたが、夢は心の奥底に消えることなく残っていました」(松坂奈々さん)

そんな松坂さんは“副業”自衛官になるため、休日を利用しておよそ40日の訓練を2年かけて受けてきました。取材した日は最前線での陸上戦闘にあたる「普通科」の隊長が教官となって「迫撃砲」の訓練が行われていて、扱い方を一から教わっていました。

「ここまで任せてくれるんだと驚きました。と同時に、実際に砲弾を間近で見る機会もあり、あらためて自衛官の仕事の重みが実感ができました。アラフォーで、もう若くはないですが、年齢を言い訳にしたくない。若い人にも負けない働きで貢献できるよう努力したいです」(松坂奈々さん)

松坂さんは、体力維持のためにジムに通ったり、片道1時間かかる距離を自転車で毎日通勤しています。「高校のころからの思いが、この新たな制度でようやく叶いそうだ」と話していました。

能力より“思い”大切に

「自衛官として人の役に立ちたい。その思いを大切にしたいんです」

なぜ新制度をつくったのか。北海道を拠点とする陸上自衛隊北部方面総監部の吉春隆史人事部長に聞くと、熱い口調でそう語りました。
その一方で、「人口減少」と「なり手不足」という厳しい現実が、新たな制度を設けた背景にあることも見えてきました。

「人口減少と少子高齢化でこれからどのように隊員を確保するかに危機感があります。全国各地で災害が相次ぎ、さらに海外での任務も増え、自衛隊に期待される任務の幅が多方面に広がっているからです。現役の自衛官の採用はほぼ横ばいになっている以上、この新制度が緊急時に必要な自衛官の数を確保してくれると期待しています」(北部方面総監部 吉春隆史人事部長)

事実、自衛隊では災害出動や海外での任務が増加していますが、一方で、自衛官の採用は増えていません。災害や有事のなどの際に招集する“副業”自衛官は、定員のおよそ半数しか集まっていないのです。
このため自衛隊は制度を見直し、まずは年齢制限を引き上げたうえで、一般の人にも枠を拡大して募集することにしました。そして「自衛隊のOB」かどうかにこだわらず、さらに40代でも“副業”自衛官として最前線で活動することを可能にしたのです。

「今までの経歴はこだわりません。訓練ではなく社会経験で培った、例えば物腰の柔らかさや交渉力、機械に強い人など、多種多様な人を求めています」

自衛隊の担当者は、最後にそうアピールしました。

そのことばが、人口減少と少子高齢化のなか、自衛隊が大きな変化を迫られていて、新たな可能性を見いださなければならない現状を物語っていると感じました。

「思い」受け止める社会を

“副業”自衛官になるための全ての訓練を終えた松坂さん。再び会うと、印象的なことばを語ってくれました。

「国民のみなさんに何かあったとき、役に立てる存在になりたい」

このときの松坂さんは、迷いのないまなざしをしていました。「人のために役立ちたい」。そんな思いを持つ人が、それぞれが願うかたちで夢を叶えて、力を発揮できる社会。次代を担う子どもの数も減っているなか、ひとりひとりの思いを受け止め、それを実現する機会を提供できるようにすること。それは自衛隊に限らず、どの組織や現場にも、ますます必要になってくるのではないか。そう考えるきっかけになった取材でした。

2020年11月25日放送

【編集後記】
今回、紹介した“副業”自衛官の制度は、正式には「即応予備自衛官制度」というものです。もともとは自衛隊を辞めた人を対象にした制度で、32歳未満という年齢制限がありました。それが平成30年には50歳未満にまで引き上げられたほか、去年はさらに枠が拡大され、自衛隊に入隊した経験がなくても、一定の訓練を受ければ採用されるようになりました。この「即応予備自衛官」になるためには、まずは「予備自衛官補」として訓練を受けて「予備自衛官」に任用されてから、さらに最前線での活動を想定した訓練を受ける必要があります。藤本さんと松坂さんは、新たな制度で、道内で初めて誕生することになった6人の隊員のうちの2人で、来年3月に正式に採用される見通しです。

札幌局 記者 浅井優奈

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