NHK札幌放送局

ばん馬大会で馬の顔や頭を何度も叩く行為。競技の範疇?動物虐待? #道南WEB取材班

道南web

2021年11月4日(木)午後4時39分 更新

コース上に設けられた坂を乗り越えられずにうずくまる馬。 その馬の顔のあたりを何度も手綱で叩く男性。「かわいそう」と呟く観客の声。 北斗市で行われた「草ばん馬」の大会で撮影された映像だ。 SNS上にはその行為を非難する声が相次ぐ。いったい何が起きたのか。取材を始めた。 

取材先からもたらされた映像

ある日、普段から付き合いのある取材先と電話で話している中である情報がもたらされた。
「ばん馬の大会で馬が叩かれている映像がSNS上で炎上している」
さっそくそれらしき映像を見つけてクリックすると・・・。

2分ほどの映像には今月10日に北斗市で行われたばん馬の大会、いわゆる「草ばん馬」の様子が収められていた。
ばん馬大会はコース上に設けられた2つの障害の坂を乗り越えてタイムを競う競技だが、途中の坂で1頭の黒いばん馬がうずくまっている。どうやら重りになっているそりを引っ張りきれないようだ。

映像には複数の関係者が馬を取り囲み、しきりに立たせようとしている様子が収められている。そして次の瞬間・・・。
「パンッ!」という鋭い音と共に、男性が手綱で馬の顔や頭のあたりを叩き始めた。
1度ならず、2度、3度。少なくとも5回は馬の顔のあたりを叩いているのが確認できる。映像は何とか立ち上がって坂を下っている馬の様子で終わっていた。
SNS上には行為を非難するコメントの投稿が相次ぎ、いわゆる「炎上」している状況になっていた。
「なんなんだこの映像は・・・」
後味の悪さを感じながら、これは真相を探らなければならないという思いで取材を始めた。

半年前にも起きていた同様の問題

私はこれに似た映像を見た記憶があった。
ことし4月、帯広の「ばんえい競馬」で行われた馬の能力検査。
坂を越えられず座り込んでいた馬の顔を騎手が蹴ったというニュースだ。
その後騎手ら5人は動物愛護法違反の疑いで書類送検されている。
帯広市主催の公式のばんえい競馬と「草ばん馬」という違いはあれど、馬の顔や頭のあたりに物理的な衝撃を与えたことは同じだ。
私はまず映像を撮影した人物を探すことから始めた。

子どもにとんでもないものを見せてしまった・・・

動画を投稿したとみられる人物にSNS上でコンタクトをとると快く取材に応じてくれた。インタビューの現場に現れたの女性は幼いころから馬が好きで、馬を見られるイベントによく参加しているという。そして、今回は自分の子どもをつれて見に来たということだった。馬をたたく行為は撮影する前から行われていたという。

動画を撮影した女性
「男性が馬の顔に何回も手綱を当て始めた。たたくのをやめないので『これはまずいな』と思って、動画を撮影しました。大人が大声をあげながら馬の顔をたたくのを子どもが何度も見てしまい、本当に残念でひどいと思います」

地域で毎年開かれている小さなお祭り的なイベント。
老若男女が見に来るもので、女性は安心して楽しめるものにしてほしいと思いあえて投稿したという。

動画を撮影した女性
「主催者にはなぜあのような行為をしたのか説明してほしいです。公式のレースではないので馬が動けないならば、そりを外して誘導するなどの対応をしてもよかったと思います。今回のようなことが起きるとばんえい競馬を廃止しろという声が多くなるのではないかと思うと残念です。今後もこうした大会を続けてほしいですが、ルールをきちんと決めてやってほしいです」

主催者「馬を救うためだった」

確かに馬が何度も手綱で叩かれる様子を見てしまった子どもはどんな気持ちだったろう・・・。
私は真意を確かめるべく主催者への取材を試みた。
主催したのは地元企業。
責任者に直接質問をぶつけた。

記者
「なぜあのような行為が起きたのか」
主催者
「あのままだと馬が窒息してしまいます。うずくまったままの状態が続くと(そりなどを引く装具で)首が締まり窒息するおそれがありました。虐待とかそういうことではありません」
記者
「苦情や意見はどれぐらいきたか」
主催者
「たくさんきました。100件ぐらいは。ちゃんと聞かれたら今話したとおりの説明はするので誹謗中傷はやめてほしいです」
記者
「坂の途中で馬が止まってしまい窒息するおそれがあるから叩いたということか」
主催者
「毎日面倒を見ている馬を虐待などするわけがありません。もっと上手にして種馬にしたいのです。また、このイベントも地域の人たちがやってほしいというので金がかかっているけど開いています」
記者
「見ていた人の中には子ども連れもいてショックを受けたという人もいるが」
主催者
「びっくりするだろうし、その人の気持ちもわかります。腹を立てる人もいると思います。でも私たちは勝たせたいと思ってやっただけです」
記者
「とはいえ顔や頭をたたく行為はいきすぎにも見えるが」
主催者
「そうかもしれないですね。馬に聞いてみないとわかりませんが」

以上が主なやりとりだ。

専門家「ルール整備を」

一方でひっかかったのは、大会では馬の顔をたたくことを禁止するなどのルールが決められていなかったということだ。

確かJRA=日本中央競馬ではルールがあったはず。
JRAの広報に確認をすると「むちの使用に関する禁止事項」が複数項目定められていて、そのうちのひとつに「頭部もしくはその付近に対しむちを使用すること」ということが明確に定められていた。
一方、「ばんえい競馬」を所管する帯広市に尋ねると「手綱を不当に扱ってはいけない」という一文が明文化されているものの細かいルールは定められていないということだった。

ではどうすればよいのか。
私はばん馬の生態に詳しい獣医師で、帯広畜産大学の南保泰雄教授に話を聞いた。
南保教授は動画を見た上でこう指摘した。

帯広畜産大学 南保泰雄教授
「まず今回の行為は行きすぎているというのが感想です。馬は目が大きい動物で、顔のあたりをたたくことは失明するおそれがあり危険です。獣医学でも馬が失明につながるような病気は獣医学でも非常に気をつけるものです。今回の場合は早い段階でそりを外して馬が立ち上がりやすくすべきだったのではないかと思います」

さらに南保教授は、馬を扱う際にでん部などをたたくことは、馬を制御する行為として一般的だと説明した上で、JRAでは明確なルールがあることも踏まえた上でこう述べた。

帯広畜産大学 南保泰雄教授
「ばん馬は1トンを超えるような動物で、扱いを間違えれば大けがにもつながるし、馬の命をも絶たなければなりません。そうした中で明確なルールがないということが今回のようなことにつながるのでしっかりと(馬の扱いなどに関する)ルールを整備すべきです。馬の扱いに対する見方は時代、時代で変化していくものなので、北海道遺産にもなっているばんえい競馬などの馬文化がよい形で理解されるようにしてほしいです」

(2021年10月29日放送)

<取材した記者>
西田理人(函館放送局記者)
平成29年入局。
長崎局を経て、去年9月から函館放送局で主に「食」に関する分野を担当。このほか、渡島総合振興局や奥尻島など行政分野のほか、スポーツ取材も担当。出身は札幌市の道産子で、高校生以来の北海道生活。

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