NHK札幌放送局

「どこに行っても困らないように」外国人の子どもに多様な教育を

ほっとニュースweb

2023年3月30日(木)午後6時40分 更新

「母国に帰っても社会になじめない」
「親とことばが通じない」 

仕事や留学といった親の都合で日本にきた外国人の子どもたちが直面することのある問題です。
札幌市に、こうした子どもたちに多様な学びの場を提供しようと取り組むインターナショナルスクールがあります。
通うのはイスラム教徒の子どもたちです。
この春から、新たに中学生にあたる子どもたちの受け入れも始めるというこのスクールの取り組みを取材しました。 (札幌放送局記者 堀内優希) 

札幌で唯一のモスク イスラム教徒コミュニティーは

私がスクールのことを知ったのは、去年、札幌に赴任して初めて迎えた夏の頃でした。
大学時代にアラビア語を学んでいた私は、札幌に住むイスラム教徒がどんな人たちなのか知りたいと思い、札幌にひとつだけあるモスクをたずねました。

トゥーフィク・アーラムさん

出迎えてくれたのは、バングラデシュ出身のトゥーフィク・アーラムさんです。
札幌に住むイスラム教徒が安心してお祈りできるように、イスラム教徒が協力してモスクをつくったこと。モスクに通うイスラム教徒の多くは、北海道大学への留学や仕事で日本を訪れていること。
トゥーフィクさんは、流暢な日本語で札幌のイスラム教徒のコミュニティーについて教えてくれました。私は週末に時間を見つけては、モスクやトゥーフィクさんたちが主催するイベントを訪れるようになりました。

来日したイスラム教徒 子どもたちの教育は

そのなかで気になったのが、子どもたちのことでした。
イスラム教徒の家庭では子どもが何人もいることが多いということで、モスクやイベントにも、たくさんの子どもを連れた親の姿がありました。
話しかけてみると、話題のテレビドラマについて日本語で熱心に話す子や、アラビア語と英語を混ぜて話す子、話す相手によって言語を瞬発的に変えられる子など、子どもたちのコミュニケーション方法はさまざまでした。

この子たちは将来どこで生きていくんだろう?
日本に住みながらイスラム教徒として育つということは、どういうことなのだろう?

考えをめぐらせていた私に、トゥーフィクさんが声をかけてくれました。
「一度、私たちのスクールに来てみてください」

後日、トゥーフィクさんに案内されて向かったのは札幌市北区にある小さな雑居ビルでした。インターナショナルスクールと言われて想像していた建物とは違う姿に驚いていると、子どもたちが続々と現れビルの中へ入っていきます。なかには、日本で買ったのであろう色とりどりのランドセルを背負っている子どももいました。

中へ入ると、小さな教室の中に机が並べられ、外国人の子どもたちが授業の準備をしていました。
このスクールに通うのは、日本の小学生にあたる年齢の子どもたちで、エジプトやインド、トルコなど国籍はさまざまです。日本の小学校から転校してきた子どもや、小学校に籍を置きながら通う子どもなど、およそ30人が通っています。

この日は、小学5年生と6年生にあたる子どもたちの授業を見学させてもらいました。
先生が意見を求めれば、子どもたちは積極的に手をあげて参加します。
このスクールでは、算数や理科といった一般的な教科のほか、イスラム教について学ぶ授業もあります。礼拝の仕方やコーランの朗唱、モスクでのルールなど、基本的なイスラム教の規範から学ぶことができます。

授業は、英語・アラビア語・日本語の3か国語で行われます。
さまざまな国から集まってきた子どもたちの共通語としての英語。
イスラム教徒にとって大切な言語であるアラビア語。
そして、日本での暮らしに困らないよう、日本語の授業にも力を入れています。
さまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちが集まる教室には、いつも複数の言語が飛び交います。

トゥーフィクさんや専門家によると、イスラム教徒の子どもたちが日本の学校に通う上で直面することが多い問題として、「礼拝の場所がないこと」があげられるといいます。
このスクールのすぐ隣には、地域のイスラム教徒がお祈りのために訪れるモスクがあります。そのため、子どもたちはお祈りの場所に困ることがありません。大人たちと一緒にイスラム教の教えを実践することで、イスラム教徒ならではの行動様式を身につけることができるといいます。

“どこに行っても困らないように”

子どもたちの保護者の多くは、留学や仕事で日本を訪れた外国人です。
留学生や駐在員はいつ日本を離れることになるかわかりません。
ことばや文化、宗教を学ばなければ、母国に帰った時に子どもたちが社会になじめなくなってしまう。しかし、母国のことばかり学ばせていては日本での生活に困り、一般的な知識も身につかない。保護者の多くは子どもの教育にそんな葛藤を抱えていたといいます。

自身も北海道大学の留学生として子どもを連れて来日したトゥーフィクさん。
留学や仕事で日本に住むことになったイスラム教徒の親の不安や葛藤を痛いほどわかっていました。特に留学で訪れた家族は、経済的に余裕があるわけではありません。
手に届く学費で子どもたちに学びの場所を提供しようと、おととし、イスラム教徒の仲間たちとともにスクールを設立しました。

トゥーフィク・アーラムさん
「このスクールをつくる前は、たくさんの親が困っていました。
子どもたちのことを心配して母国へ帰ってしまう人もいました。
英語とアラビア語、日本語。全部学ぶことで、どこに行っても困らなくなります。
私たちはそれが大事だと思っています」

ロジャインさん

スクールに通う子どもにどんな変化があったのか。
おととしからこのスクールに通う、12歳のロジャインさんをたずねました。
両親の留学のため、1歳半のときにエジプトから来日しました。

シャイマさん

母親のシャイマさんは留学生として来日したあと、いまは北海道大学で研究者として働いていますが、日本語は得意ではありません。
ロジャインさんは成長するにつれ、どんどん日本語が得意になっていきました。そして、学年が上がるにつれ、シャイマさんが学校の勉強を教えてあげようとしても、なかなか日本語のテキストを理解するのが難しくなっていきました。
シャイマさんは、家庭内でのコミュニケーションや母国に帰ってからの子どもたちの将来に不安を覚えるようになったといいます。

シャイマさん
「私たちはどれくらい日本にいられるかわかりません。
このままでは、子どもたちが日本の外では生きていけないと思いました」

日本に暮らしながら、母国の文化やことば、宗教に触れる機会を与えたい。
そう考え、日本の小学校からの転校を決めました。
最初はアラビア語や英語で授業が行われることに難しさも感じたというロジャインさんですが、転校してから1年半あまりたった今、アラビア語で不自由なく母親と会話できるようになりました。

シャイマさん
「スクールに通うまで娘は私たちの母語であるアラビア語を話すことができませんでした。スクールに通い始めてから完全に変わりました。
今はアラビア語と英語と日本語の3か国語を上手に話すことができます。
きっと、どこに行っても勉強することができるし、人を助けることができる人間に成長すると思います。このスクールがあって本当によかったです」

アイデンティティーの形成に大きな役割

日本に住むイスラム教徒に詳しい専門家は、2020年末時点で、日本国内に住むイスラム教徒はおよそ23万人、北海道にも3200人あまりが暮らしていると試算しています。
そして、新型コロナの水際対策が緩和され、海外との人の往来が戻りつつあるなか、日本に住むイスラム教徒の数はさらに増加すると見込んでいます。
こうした中、スクールはどのような役割を果たすのか。専門家は、子どものアイデンティティーを形づくるうえで、このようなスクールの存在意義は大きいと指摘します。

日本に住むイスラム教徒に詳しい 早稲田大学 店田廣文名誉教授
「たとえばエジプトから来た子どもの場合ですが、アラビア語がしゃべれない、イスラム教のことも知らない、エジプトの生活習慣も知らないということであれば、『一体私は日本人なの?エジプト人なの?』という子どもなりの葛藤を抱えてしまう可能性があります。
子どもたちのアイデンティティーを形成する場として、札幌のスクールが非常に重要視されています」

学びの場を広げたい

このスクールは、ことし4月から、新たに中学生にあたる子どもたちも受け入れることになりました。説明会を開くなど、着々と準備を進めています。
中学生にあたる子どもたちに対する教育においても、スクールが重要視するのは「どこに行っても子どもたちが困らないこと」。子どもたちが高校にあがる年齢になったとき、日本にいるか、母国に帰るか、それとも別の外国へ行くか、わかりません。
家族がどの選択をしたとしても、子どもたちが進学や就職の機会を失うことがないよう、語学をはじめとして、さらに高度な教育を目指すということです。
トゥーフィクさんは、このスクールがあることを理由に、留学先や転勤先に札幌を選んだ人も多いとして、今後、優秀な人材を札幌に呼び込むインセンティブになり、大好きな札幌に恩返しすることができればと話していました。

トゥーフィク・アーラムさん
「子どもたちにはいい人になってほしい。
イスラム的にだけじゃなくて、日本人とか外国人とか関係なく、いい人になってほしい。それがスクールの目的です。
私たちはいつも日本や北海道にもらってばかり。
でも、私たちも日本のためになりたい。
北海道のためになりたい。
いつもそう思って、何ができるか考えています」

「どこに行っても困らないように」。
何度も聞いたトゥーフィクさんの言葉に、子どもたちへの愛を感じました。
今後、イスラム教徒に限らず、外国人の子どもたちが学びを止めることなく、みずからのアイデンティティーについても知ることができる多様な教育の場所が求められていくのではないかと感じました。

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