NHK札幌放送局

作家・桜木紫乃さん 書店への思い

ほっとニュースweb

2022年9月16日(金)午後3時15分 更新

本好きの私は札幌市内の書店をよく巡りますが、最近、閉店する書店が多いことに気づきます。JR札幌駅近くにある「札幌弘栄堂書店」もそのひとつです。9月末に市内の最後の店舗が閉店し、半世紀の歴史に幕を閉じます。閉店を前に「一日店長」として店頭に立った直木賞作家がいます。北海道釧路市出身の桜木紫乃さんです。その思いを聞きました。(札幌放送局 飯嶋千尋)


桜木紫乃さん 書店の一日店長に

今月4日、札幌駅近くにある「札幌弘栄堂書店 パセオ西店」の店頭に、直木賞作家、桜木紫乃さんの姿がありました。「頼むからサインをさせてっ!」と書いた自作の看板を手に、1人でも多くの客を呼び込もうとしていました。

桜木紫乃さん
「今回のイベントは、個人的な思い出作りに、お客様を巻き込んだんです。9月末で閉店になるということは、本が売れ残ったら、出版社に返さないといけないでしょ。それもなんか切ないので、どうせなら私の本、全部売っちゃえということなんです」


街から姿を消す、書店

「札幌弘栄堂書店」は、昭和47年に開店し、道内に複数の店を展開してきました。JR札幌駅周辺では「APIA」と「PASEO」に2店舗がありました。
しかし、「アピア店」は7月に突然、閉店し、最後の店舗となった「パセオ西店」は、今月末で閉店することに。50年の歴史に幕を降ろすことになったのです。

昭和62年撮影 札幌市公文書館所蔵

桜木さんも、「札幌弘栄堂書店」に足を運んだ1人です。駆け出しのころから直木賞作家になったいまも、新しい本を出すと、アピアとパセオの2つの店の棚を、おそるおそる見に来ていたといいます。

桜木紫乃さん
「新刊が出たあとは、個人的には怖くてなかなか書店に来れないの、結構怖いんだよ。弘栄堂さんの場合、アピアのお店はランドマークみたいなショーウィンドーがあったでしょ。そこに飾ってもらっているとね、『ああ、次も頑張ろう』『良いもの書かなきゃ!』っていう気持ちになるんです」


厳しさも、励みも、書店員から

そんな桜木さんにとって、書店の本当の魅力は、書店員の人たちでした。

客に本を薦める立場にある書店員の評価は、誰よりも厳しい。だからこそ、認められたときに得られる「励み」は、大きな力になってきたといいます。

桜木紫乃さん
「書店員さんというのは、ほとんどの方がパートで、時間給で働いている人たちなんです。その方がね、1時間どのくらいお給料をいただいているのかわからないですけれど、1冊、1500円や2000円もする本を自費で買って、良いと思ったらその場所を決めて、“推して”くださるんですよね、『この本良いよ』って、店頭の水際で宣伝してくれる。
書店員さんが「良い」って思わなければ、一番良い棚に置いてもらえないんだから!評価が悪いのを目の当たりにすると切ないよ・・・。その水際にいる人と、おおもとで陰から見ている私と、ここにはね、プロセスをすっ飛ばした信頼関係というのがあるんです」


「お別れ」と「お礼」を

「厳しくも、あたたかかった」書店員のみんなに、恩返しがしたい。桜木さんが一日店長を買って出たのは、「お別れ」とともに、「お礼」を言うためのきっかけがほしかったからでした。

その中でも、桜木さんが最も「お礼」を言いたかったのが、書店員の坂胤美さんです。坂さんは、26年間、札幌弘栄堂書店の店員を務めてきました。そのなかで20年近く、文芸書を担当してきた坂さんに、桜木さんは、新作を出すたびに感想を聞きに行っていたといいます。

書店員・坂胤美さん
「紫乃さんはいつも、本を出すたびに来てくださったりして。そうじゃないときも来てくれたりして。新型コロナで店が閉まっていた時も、色々気を遣ってくださったり。そういう縁もあって、一緒にやってこれたんではないかなという気はしてるんです。
こういう風に人がいっぱい来てくださる場として、作家の思いを届けられることはなかなかないですし、私たちもこの店が閉店したらそういう場がどこにもなくなってしまうので、ありがたい、ただただありがたいです」


湿っぽいのは嫌い、明るくお別れを

「パセオ西店」の閉店が決まった際、桜木さんは「何か私にできることはない?」と坂さんに声をかけました。その時、坂さんが書店員になって26年間、一度も作家のサイン会などを開いたことがないということを初めて知りました。そこで桜木さんは、「私が一日店長をやろう!」と名乗りをあげたのです。

桜木紫乃さん
「私もそうだし書店員の彼女たちも、湿っぽいのは基本好きではないんです、北海道の女だからね。湿っぽいのは嫌いだから、ここはひとつお祭りで。お礼も、お別れもやっぱりきっかけが必要なんですよ。だからこのイベントがきっかけになればいいなと思って。書店業界にどうのこうのという気持ちは一切ないんです。書店員さんとの付き合いの中から生まれた、良いお別れの方法なんです。まだ9月末までありますのでね、おこしいただければと思います」


ピーク時は500を超えた道内書店

書店の閉店は後を絶ちません。北海道書店商業組合によりますと、ピーク時は加盟店舗だけでも500を超えていましたが、今では76店舗に減っています。

組合の理事長を務める志賀健一さん
「年々、5%から10%ほど市場の規模が縮小していて、書店もその縮小にあわせて減っていくしかない。現代の子どもたちは塾に習い事にと忙しく、さらにはゲーム機やスマートフォンなどの娯楽も多く、紙の本を読むということに費やす時間も減っている。さらに学校の図書館には司書がいないことが多く、司書から子どもたちに紙の本を紹介する機会も減少している。こうして子どものころから紙の本に触れる機会が少ないことも一因になっているのではないかと思う」


かけがえのないつながり

「紙の本を売る書店とは、どういう存在ですか?」
桜木さんに問いかけてみたところ、「場所じゃないのよ、書店員さんなのよ!」とすぐに答えが返ってきました。坂さんにとっての「札幌弘栄堂書店」での最初で最後となるイベントは、『作家と書店員』のつながりがあらわれていて、互いにとってかけがえのない存在なのではないかと思えるほど、温かさであふれていました。


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