NHK札幌放送局

温暖化で変わる世界のワイン・ビジネス

北海道クローズアップ

2020年1月31日(金)午後4時38分 更新

ローマ帝国の時代から続く、高級ワインの名産地・ブルゴーニュ地方。ブドウ栽培に適し、「神に愛された土地」と呼ばれてきたワインの味が、ここ数年変わってきているといいます。背景にあるのは「地球温暖化」です。良質な味を維持できなくなった老舗ワインメーカーは、新たなブドウの産地として函館への進出を決めました。一方、中国では国を挙げてワイン・ビジネスを推進し、世界で頭角を現しています。温暖化によって大きく変わろうとしている、ワイン・ビジネスの最前線を追いました。

名産地を襲う 地球温暖化

2019年の夏、日本のワインに新時代を告げるセレモニーが函館湾を望む丘の上で開かれました。あいさつに立ったのはブルゴーニュの名門ワイナリーの15代目当主、エティエンヌ・ド・モンティーユさんです。

「私たちの初めての植樹祭に、皆様を迎えることができて光栄です」(ド・モンティーユさん)

ブルゴーニュ以外の地でワイン造りに乗り出すのは、300年続く歴史の中で初めてのこと。ブドウ栽培に適した土壌や気候に恵まれ、「神に愛された土地」と呼ばれていたブルゴーニュ地方ですが、代々受け継がれてきたワインの味がここ数年変わってきているというのです。

原因はブドウに起きている“ 異変 ”です。

「猛暑の影響で葉が枯れてしまいました。こちらの実は、暑さで焼けてしまっています」(ド・モンティーユさん)

ブルゴーニュで伝統的に作られてきた品種は、気候の影響を受けやすい「ピノ・ノワール」です。味の決め手となるのは糖度や酸味などの絶妙なバランスで、気温が高くなりすぎると糖度が上がる一方、酸味が減り、バランスが崩れてしまいます。生育期の平均気温が、14度~16度の間であることが質の高いワインを造る条件となっているピノ・ノワールですが、ブルゴーニュではすでに平均気温が16度に達し、伝統の味を維持するのが難しくなっているとド・モンティーユさんは語ります。

「温暖化と乾燥が進んでしまうと、ブドウに悪影響を及ぼします。ブルゴーニュのピノ・ノワールの持つ繊細さや、優雅さが失われてしまうのです」(ド・モンティーユさん)

温暖化で変わる?ワインの産地

危機に陥っているのはブルゴーニュだけではありません。最新の研究では、ヨーロッパの多くの名産地で、2050年には今と同じ質のワインを作ることが難しくなると言われています。ことし、ブルゴーニュと並ぶ名産地・ボルドーでは、歴史上初めての決断を余儀なくされました。

ボルドーでは伝統の味を守るため「カベルネソーヴィニヨン」や「メルロ」など、限られた品種のみの使用が認められてきました。しかし温暖化で質を保てなくなってきたため、暑さに強い7つの品種を新たに加えたのです。フランス国立農学研究所のアニエス・デストラックさんは、苦渋の決断だったと語ります。

「何か手を打たなければ、ボルドーワインに期待されている高い品質を保てません。これまでのブドウに新たな品種を組み合わせることで、今のボルドーワインに似た味を作り出したいんです」(デストラックさん)

温暖化の影響を最小限にできるのではないかと考え、収穫の時期を早めてワインを造ってみたド・モンティーユさん。しかし、大手ワイン商社でバイヤーを務めるロビー・トゥーシルさんは、味が若いと悲観的です。

「ワインといえばボルドーやブルゴーニュという時代はもう過ぎ去ったのです。これまでワイン造りが難しかった場所も、温暖化で良い産地になっていますからね」(トゥーシルさん)

新たな産地 函館へ

ド・モンティーユさんは地元のブルゴーニュ大学とともに、4年前から新たなワインの産地を探してきました。

ブルゴーニュに近い環境を求め、世界各地の気温や降水量を徹底的に調査。候補地には直接出向き、現地のワインの味を確かめます。その中で、北海道のワインにブルゴーニュに匹敵する可能性を感じたのです。

「候補地は日本だけではありませんでした。ニュージーランド、タスマニア、南アフリカ、それに中国も候補にあがりましたよ。でも、私が一番興味を持ったのは北海道だったんです」(ド・モンティーユさん)

その後、専門家とともに道内各地で土壌調査を実施。そしてたどり着いたのが、函館湾を見下ろす丘でした。

ブルゴーニュと同じ、南向きの緩やかな傾斜と水はけの良い土壌で比較的雪が少ないことも決め手です。

さらにド・モンティーユさんは、世界各地のリゾートホテルを手掛けてきた建築家を畑に連れてきました。ここにレストランやホテルも建設し、この地をワインツーリズムの拠点にする構想です。

「函館への進出は、ブルゴーニュの長い伝統に新たな1ページを加えることを意味します。今はまさに転換点です。温暖化でこの先何が起こるのかは誰にもわかりません。私たちは適応していくしかないのです」(ド・モンティーユさん)

温暖化をチャンスに 勢いを増す中国

一方、いま世界のワイン市場で急速に存在感を増しているのが中国です。

北京から西へ900kmにある寧夏回族自治区(ねいかかいぞくじちく)。標高1,000m以上の山岳地帯に荒野だけが広がっていたこの地域が、地球温暖化の影響で高級ワインの一大産地に生まれ変わろうとしています。栽培面積は、この自治区だけで日本のブドウ栽培面積の約2倍。ヨーロッパの城のようなワイナリーが次々と登場し、数年後にはおよそ200まで増える見通しがあります。

この動きを主導しているのが中国政府です。

2018年、ワイン生産を始めたばかりのワイナリーに約6億円の補助金で最新の設備を導入。政府がワイン産業の発展を全面的に支援しているのです。さらにボルドーなどのフランスの名産地から醸造家を招き、ヨーロッパの高級ホテルや一流レストランにワインの輸出も始めています。

地元政府でワインを担当する趙世華さんは、意気込みを語ります。

私たちの力で、この地を世界的なワイン産地にしてみせます。温暖化は寧夏のワイン産業を大きく発展させるまたとないチャンスなのです」(趙さん)

大切なのは自然との対話

世界中のワイン産地を訪ねて取材しているワインジャーナリストの山本 昭彦さんは、世界中でワインの開発が急速に進んでいる状況を懸念しています。

「拙速に進めるのは好ましくありません。デジタル製品のように効率だけ考えればいいわけではなく、自然との調和を考えながら産地の開拓をする必要があると思います」(山本さん)

修道士が開墾したブルゴーニュは、中世から自然とともに歩んできた長い歴史があると山本さんは語ります。

「栽培農家たちは非常に職人的な人たちです。彼らがよく言うのは、『自然とともに働く』あるいは『我々は神から一時的に土地を借りているに過ぎない』。つまり、自然に対して敬意を持っています。例えば、ブルゴーニュでは馬が畑を耕している風景をよく見ます。かつてはトラクターで畑を耕していた時代もありましたが、いまでは馬耕に戻しています。理由は土を踏み固めないから。踏み固めないことで土の中の微生物が生き、土壌が活性化するのです。あと、排ガスを出さないという環境との調和もあります。このような『自然との対話』を積み重ねてきたことによって、ブルゴーニュはワインの名産地となったのです」(山本さん)

ワインツーリズムを目指そうとしている、北海道。ワインをただ楽しむだけではなく自然と向き合い、ワイン造りを通して自然と対話する。それが、温暖化やさまざまな環境問題について考えるきっかけになるかもしれません。

2019年12月13日(金)放送
北海道クローズアップ
「温暖化で変わるワイン・ビジネス」より

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北海道クローズアップ

北海道の“いま” を見つめ続ける報道番組 1993年4月に放送を開始した「北海道クローズアップ」。 昨年度は、大きな被害を出した胆振東部地震について、被害の深刻さやそれに立ち向かう人々の姿を様々な角度から伝えてきた。また、AI農業の最前線や、TPPなどで貿易の自由化が加速する中での人々の新たな取り組みなども見つめ、北海道の様々な課題に向き合ってきた。この26年間の放送回数は、746回を数える。 平成から新たな時代にかわる節目の今年、番組では新たに新キャスターを迎え、番組の更なる飛躍を目指す。北海道の“いま”を、より分かりやすく、より深く。 「北クロを見れば、今の北海道がわかる!」 そんな報道番組をめざし、新たな可能性を探っていく。

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