NHK札幌放送局

冬の避難の備えは(前編)極寒!避難所体験記

ほっとニュースぐるっと道東!

2023年3月8日(水)午前11時42分 更新

「寒い…寝られない…」。
 釧路に赴任して1年あまり。寒さには慣れてきたはずでした。しかし、その空間は想像を超える厳しさでした―――。
冬場に地震や津波が起きたら、避難したあとに何が待っているのか。厳冬期に避難所に宿泊する体験訓練が1月、釧路市で開かれました。この訓練に私(記者)も参加しました。
体験記を前編、何を備えておくべきかの対策編を後編としてお伝えします。
(釧路局記者 島中俊輔) 

電気・ガス・水道が使えない

体験訓練の会場となったのは釧路市にある指定避難施設の体育館。釧路ではマイナス15度を下回る最低気温が予想される厳しい寒さの中、1月下旬に行われました。釧路市の防災士で作る団体が開いたこの訓練に参加したのは30人あまり。そのうちの1人として私も参加させてもらいました。
訓練は、停電して電気・ガス・水道が使えないという厳しい条件のもと行われました。用意された暖房設備はポータブルストーブが2台のみ。私は寒さ対策として、防寒着はもちろんですが、寝袋、カイロ、防寒用の手袋、ネックウォーマーを持っていきました。


午後3時 段ボールベッド設営

まずは避難所の設営から取りかかります。寝床の段ボールベッドを確保します。
2人1組でベッドを作っていくのですが、小さな箱を9つ作って組み合わせ、敷き布団のように大きな段ボールを上に置くだけの簡単なもの。私は初めて作りましたが、2人で5分もあれば組み立てられました。
底冷えのする避難所では段ボールベッドで床から30センチほど高くするだけでも、ずいぶん温度が変わると言います。実際に横になってみると固さはほとんど感じず、寝返りもうてる広さで快適さを感じました。

体験した参加者
「普通のベッドとそんなに代わりがないです。揺れたりはするけど、ふだん寝ている2段ベッドの上よりも安定性はあると思います」


午後5時 炊き出し

夕食の時間には、炊き出しを想定した訓練が行われました。調理には発電機を使うことができました。一度に最大200人分の料理を作ることができる設備を使って豚汁を作りました。
そしてもう1つの料理は非常食の「アルファ化米」。たき火で暖めたお湯を使って戻します。私もいただくと、少しパサパサした食感でしたが、味がしっかり付いていておいしかったです。何よりありがたかったのが、温かいものを食べられるということ。徐々に気温が下がる中で、温かいお米に豚汁が体に染み渡るおいしさでした。


午後10時 就寝の時間

いよいよ就寝の時間です。
予定では午後9時だったのですが、あまりに時間が早かったため、参加者の多くがポータブルストーブで暖を取りながら話していました。ストーブは小さく、すごく暖かいわけではなかったのですが、赤い炎の色を見ることで心を落ち着かせてくれる効果があったと感じます。

就寝前には靴下にカイロを貼って寝袋に入り、避難所で配られた毛布をかぶりました。目を閉じますが、なかなか寝付けません。
「寒い…寝られない…」。
手元の温度計を見てみると室内は7.9度。正直「マイナスにならなければマシ」かと思っていましたが、室内で一桁台の気温だとこんなに寒いのかと痛感しました。寝袋が夏用の薄い生地だったので、寒くて寝付けませんでした。


午前0時 車へ避難

寒さに耐えかねて駐車場にとめてある車に避難しました。車の暖房で暖まろうと考えたのです。エンジンを付けて暖房を付けます。ほっとしたのもつかの間、ガソリンの目盛りを見てみると目盛りは残り2つ。ガソリンを十分に入れるのを忘れていました。日頃から残量を確認しておくことが大事だと思いました。

ただ、車中泊をする時に注意してもらいたいことがあります。
▼一酸化炭素中毒…マフラーが雪に埋まることで排気ガスが車内に流れ込むおそれがあります。
▼エコノミークラス症候群…長い時間、同じ姿勢で寝ていると、血行が悪くなってできた血栓が詰まるおそれがあります。

私はガソリンの残量も心配だったので、30分ほど暖まってから避難所へ戻り、再びベッドに横になりました。


午前6時 起床

窓の外が明るくなってきた午前6時前。結局、薄い寝袋と毛布では寒くてほとんど寝られませんでした。この日の外の最低気温はマイナス17.2度。私だけでなく参加した皆さんが疲れた表情をしています。厳しい冷え込みの中での宿泊体験となりました。

参加した人
「思ったよりも寒いし、ほかの人の動きも気になった。寝袋も夏用の寝袋しかなくとても寒かったので冬用の寝袋がほしいなと思います。これからしっかり準備していきたい」
「これを1週間、1か月というのはかなり厳しい。やっぱり暖房器具を充実させないとダメだなと。自分で用意できるとすれば、毛布、防寒着、湯たんぽがあったらいいなと思った」
主催した防災団体の小野信一さん
「冬場に電気・ガス・水道が使えない避難生活について、実際に体験をすることで得られることがたくさんあるだろうと今回の体験訓練を企画した。参加した人は高齢者もいれば、若い人もいた。そしてペットのことを心配される方もいた。学んだことを家族や地域の人たちに伝えていってもらうインフルエンサーになってもらえればと思う」


取材後記 寒さを侮ってはいけない

今回の訓練に参加して痛感したのが、「寒さを侮ってはいけない」ということです。
私はスキーの時にも使えるような厚手の防寒着を着て参加した上、今回、避難所の中は氷点下にはなりませんでした。それでも1桁台の気温だと寝るのは相当難しかったです。
日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の道の想定では、低体温症で命の危険にさらされる人は最大6万人以上と推計されています。命を守るためにいち早く避難をすることが最優先ですが、そのあとの避難生活で電気・ガス・水道といったライフラインが使えなくなった場合、冬場は過酷な状況になることが身をもって分かりました。避難所には自家発電機や毛布、食料などがある程度備蓄されてはいますが、行政に頼るだけでなく、自分自身でも準備しておくことが大事だと感じました。

後編の記事では、冬場の避難で何を備えておくべきか、冬の防災対策の専門家にアドバイスをしてもらいます。

冬の避難の備えは(後編) どんな持ち物?服装は?

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