NHK札幌放送局

「カーリングのまち」を科学で支える研究者

0755DDチャンネル

2022年2月25日(金)午後9時15分 更新

「カーリングのまち」北見市は、北京オリンピックで銀メダルを獲得したカーリング女子日本代表ロコ・ソラーレの活動拠点です。その北見市に2020年に完成したカーリングホールでは、カーリングを科学的に分析するシステムが設置されていて、国内では類を見ない研究が行われています。その研究の中心人物の北見工業大学の桝井文人教授に迫ります。
初回放送:0755DDチャンネル 2022年2月26日

「カーリング情報学」桝井文人教授

カーリングの体験教室が行われている北見市のカーリングホール。その傍らに黒いウェアに装置を取り付け、研究に取り組む人の姿が。
この人物こそ、北見工業大学でカーリング情報学を研究する桝井文人教授です。

カーリング情報学とは?
デジタルスコアブック、解析画像、位置情報など、デジタルデータを駆使して、カーリングの試合のデータを収集し分析。戦術の立案や技術の向上に役立てる研究のこと。

もともと「自然言語処理」を専門分野としていた桝井教授は、北見に根ざした研究に取り組もうと、8年前にカーリングの研究を始めました。
当時、ストーンの曲がり方や、選手のトレーニングに関する研究が多く行われていましたが、戦術面での研究はまだあまり行われていませんでした。

研究者の知恵が集結 国内でここだけのヒミツ!

こうした中、桝井教授が所属する北見工業大学のほか、北海道大学や公立はこだて未来大学、電気通信大学、信州大学といった5つの大学の研究者たちは「カーリングを科学する」研究プロジェクトを発足させ、現在、戦術面での研究を共同で進めています。

2020年に北見市にオープンしたカーリングホールには、研究プロジェクトを推進するための「分析室」が設けられました。プロジェクトに所属する大学の研究成果を取り入れ、ほかの地域では真似ができない「カーリングの発展」につなげる狙いです。

ホールにある3つのシートのうち一つは、研究用シートで、天井やアイスの下に、多くセンサーやカメラが設置され、投げたカーリングストーンの軌道を記録する「ストーントラッキングシステム」、プレーヤーの動きを解析する「画像解析システム」・「モーションキャプチャシステム」など、あわせて10のシステムが導入されています。

AIはついに世界トップレベルに!?

ホールに搭載されているシステムの1つ、電気通信大学が開発した「AIカーリングシミュレーションシステム」は、試合経過に応じた戦術を提示することができます。
作戦を立案するのは、電通大、北大、東大のそれぞれが開発した3つのAI。AIどうしの試合で得た200万ショット以上のデータをもとに状況を分析し、勝つための次の一手を示します。
桝井教授に、このシステムを使ってカーリング女子日本代表ロコ・ソラーレの北京オリンピックの試合を再現してもらいました。

①予選リーグ カナダ戦 第7エンド。後攻日本のラストショット

5対4と1点をリードする展開で迎えた第7エンド。
ハウスにはカナダのストーンが3つ入っていて、日本がナンバー1の相手ストーンを動かさなければスチールされる状況。ハウスの手前には、ガードストーンがあり、「半分程度しか見えない」シーンでした。
この展開で、3つのAIが予測した次の一手は・・・。

AIシミュレーションがコースを提示したときの様子。藤澤選手は実際②のコースで投げた。

3つのうち1つのAIが導き出した作戦は、藤澤五月選手が実際に投げたものと同じ。実際の試合では、この最後の一投で2点をあげ、強豪相手にリードを広げていました。

②予選リーグ デンマーク戦 第10エンド後攻日本のラストショット

5対7と2点を追う展開で迎えた最終の第10エンド。
ナンバー1と3のストーンをデンマークにおさえられているなか、追いつくためには2点、このエンドで勝利を決めるには3点が必要となったこの場面。
この展開でAIが導き出した作戦は・・・。

こちらはすべてほぼ同じコースを提示。藤澤選手も実際にこのコースを投げている。
桝井教授
「選手と3つのAIはみんな同じですね。ちょっとウェイトが違うだけかな」

実際の試合では、藤澤選手は、最後の一投でダブルテイクに成功。投げた石も残して3点をあげ、土壇場での逆転勝利を引き寄せました。

桝井教授
「こうやって実際の試合と同じ選択をAIがしたということは、つまり、人間のトッププレイヤーの判断と同じ判断ができたということ。AIがようやく人間に追いつこうとしているということが言えると思います」

カーリング情報学の目指す先は

オリンピックを、トップレベルの試合を分析できる機会と捉える桝井教授。ロコ・ソラーレが出場した前回のピョンチャンオリンピックと、今回の北京オリンピック、その両方のデータ分析結果の比較を通じて、「カーリングを科学する」観点からの、さらなる発見に期待を寄せています。

桝井教授
「カーリングとは結局スポーツなので、人間が絡みます。さらに氷という自然現象も絡むので、そういった多くのデータを調べるという点ではカーリングは科学だと思っています。これまで経験的に言われていたものが、分析をした結果同じくなったときに、やっぱりそうだったとなると、満足感やうれしさはありますよね。あとは、今まで知られていなかった傾向や特徴が見つかったり、あるいは今まで思われていたものとは少し違う結果を示すデータが得られたりすると、驚きというか発見というか、面白さがあります」

カーリングホールを使って進む、カーリング情報学の目指す先について、桝井教授に聞きました。

桝井教授
「カーリングホール自体が、地域の人たち誰もが集まってほしいというコンセプトなので、システムについても、トップレベルから市民まで気軽に使って、自分たちのパフォーマンスを上げたり、自分のプレーを客観的に見たりしてもらって、カーリングの競技力向上というのもありますが、カーリングを楽しむという意味でも使ってもらえるといいなと思います」

頭の中では作戦をわかっていても、実際に氷の上でプレーすると、わずかな違いでストーンの軌道は大きく変わり、カーリングは、まさに見るとやるとで大違い。
でも、その作戦を語り合い、作戦を実現するために少しでも上手くなろうとがんばることは、カーリングの楽しさの一つです。
その楽しさを、科学の目でさらに興味深くさせてくれる体験が、きっとこのホールでできますよ。

文・撮影:北見局メディア部 新島・原

2022年2月25日

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