「冬の避難」をテーマにお伝えした12月8日の北海道まるごとラジオ。本格的な冬を前に北海道ならではの防災の課題について考えました。
進行は、NHK帯広放送局 伊原弘将アナウンサー。

そしてゲストは日本赤十字北海道看護大学 教授の根本昌宏(ねもと・まさひろ)さん。寒冷地の防災を専門に研究されています。

知っていますか?「冬の避難」
今回なぜ「冬の避難」を考えるのか。
2022年7月に日本海溝と千島海溝で巨大地震と津波が発生した場合の被害想定が発表されました。死者は最大で14万9000人と推計。そして、特に被害が大きいとされているのが冬なのです。この想定の発表後、初めての冬を迎える中で、少しでも被害を減らすために、役に立つ情報をお届けしたいということで番組を企画しました。

北海道の津波の被害想定について詳しくは、こちらの記事から。
「北海道庁が被害想定公表 千島海溝と日本海溝での巨大地震と津波」
根本教授によると、今回の被害想定のポイントは、


- 正しく恐れる。1000年に一度レベルの最大の想定。被害人数の多さで判断しない
- こうした津波が来る可能性がある地域に住んでいるということを認識する
- 対策をすれば被害は減らせる。各家庭でできることを考えていくことが大切

「冬の避難」は時間との勝負
7月に発表された北海道の想定では避難行動について言及しています。避難を始めるまでの時間は夏と比べ、2分多くかかるとしています。冬は防寒着に着替える時間などがあるためです。さらに積雪や路面凍結により移動速度が低下するため避難が遅れる危険性も示されています。
根本教授によると、この2分という数字。たかが2分されど2分で非常に大切です。というのも、2分あれば階段を20段くらいは登って比較的安全な高台に上がることができます。この準備のための2分をどれだけ短くできるかが重要だといいます。特に根本教授が意識してほしい点です。


- 薄着からいかに早く防寒着を準備できるか。冬靴・防寒着はすぐに取り出せる場所に
- 「普段使いの有事運用」災害時でも使えるものを日常から使っておく
- 最悪のシナリオも想定。暴風雪の夜中に大停電で起きていると避難できるか?
- 防災グッズは最低限準備を。根本教授は「車の中」にも防災リュックを常備

ぶっつけ本番 いきなり避難 その時・・・
では、実際の冬の避難ってどれくらい大変なの!?ということで、番組では実際に避難を体感することに。協力してくれたのは釧路公立大学の釣り研究会のお二人。

中央が部長の荒関優志(あらぜき・ゆうし)さん 3年生。
右が副部長の清川輝弥(きよかわ・てるや)さん 2年生。
ただ今回、リアルな避難を体感してもらうため、二人には避難してもらうことを事前に伝えていません。全く別のラジオ番組の収録ということで、神門アナウンサー(写真左)が釣りの様子を楽しく取材をしていたのです。

そこに突然、
「地震が起きた想定で、今から避難してもらいます」
「実は生中継で全国に放送されています」と神門アナウンサーがネタばらし!?

「えっ!!マジですかっ!?」
「・・・・どういうことですか?」と激しく動揺する二人。
実際の地震のように、いきなり避難をしてもらうことになりました。
その時の二人の驚いた様子は、こちらから。
12月15日(木)午後7時まで聴き逃し配信で!
収録された別番組については神門アナウンサーのブログで紹介予定。
釣りをしていた2人に、地震で大津波が押し寄せるという想定で避難が始まりました。
もともと中継していたのは、釧路川河口の岸壁。
そこから、2人はどこへ向かうのか。どれくらいの時間がかかるのか。
釣りの準備はしていましたが、ハザードマップなど避難のための準備はしていません。
13分で避難できるか?
そして今回、「13分」を一つの目安の時間にしました。
最大クラスの津波が発生した場合、釧路川の河口付近で津波の影響が出始めるのが地震発生後13分と想定されているためです。
慌てながらも避難場所を調べ、小走りで避難し始めた荒関さんと清川さん。
(神門アナがラジオ中継しながら撮影)

高台へ向かう坂を登っていきます。

神門アナウンサーも、はーはー、ゼーゼー必死に走りながら中継。
13分以内に高台の避難場所の一つの釧路小学校まで移動することができました。

荒関さんたちは、どう考えたのか振り返ってもらうと、


荒関さん(右)
- 釣りをしているときも、(今、地震が起きたらどうする?)という心構えがあったので落ち着いて対応できた
- 最初は川の対岸の建物(商業施設やホテル)を考えたが、高台の方が近いと判断
- 途中、高い建物(マンション)があったが、「津波避難施設」を示す看板がついていなかったので通過
- 坂道を発見し「海抜10メートル」表示も確認。さらに上を目指した
清川さん(左)
- 突然のことで気が動転した。荒関さんに導かれるままに避難した
- 日陰ではところどころ足元が凍っていた。今後、雪が積もると坂道を登るのはさらに時間がかかると感じた

新関さん、清川さんの避難について、根本教授は「釣りをしながらも、どこに逃げるか何となくでも考えていたことがすばらしい!」と拍手をしながら、こうポイントを整理してくださいました。


- まず現在地を把握し、その上で高い所を探したこと。
- 両手を自由にした。釣り竿をあきらめたことも良い判断
- 渋滞の恐れを考え、車ではなく歩いて避難を始めた(歩いて避難できる距離と判断)
- 新関さんが率先避難者に。知識ある人が先に避難行動を開始し周りを促した。
- 13分はあくまで今回の津波想定による時間。実際は早くくることも遅くくることもある。

2人には、ぶっつけ本番での避難になったにも関わらずしっかり高台に避難してくれました。
改めて根本教授から覚えておいて欲しい冬の避難のポイントです。
冬の避難 これだけは「行動編」

冬の避難 これだけは「グッズ編」

知っておきたい「低体温症」の恐ろしさ
そして、番組では低体温症についてもお伝えしました。
低体温症は長い時間、寒さにさらされることで発症します。7月に発表された北海道の想定では、低体温症により死亡するリスクが高まる人の数は冬の深夜に巨大地震が発生した場合、千島海溝モデルでおよそ15000人。日本海溝モデルではおよそ66000人となっています。
根本教授によると、北海道の場合、冬に災害が起きると避難先に暖房があると限りません。避難場所の床は上履きがなく足がしびれるほど冷たくなることも。
歯がカチカチ、体がブルブルする経験は北国に住んでいる方は経験あるかもしれませんが、それは軽度の低体温症で、中等症以上になると意識が混濁することもあり救急搬送が必要な状態になる危険なものです。
災害時や避難した先で低体温症を防ぐためのポイントはこちら。


- 部屋に入る。暖房がなくても風がとおらない閉鎖空間へ
- 保温する。防寒着、靴、手袋、マスク、帽子などで熱を逃げないように
- 加温する カイロ、湯たんぽが理想。
- 体温維持のため食べてカロリーをとる 温かい飲物や高カロリーのものを
- 乾いた衣類に着替える。衣類が濡れると4~5倍の冷却効果に。

子どもやお年寄りなど家族の状況によって避難の際に必要なものは人それぞれ変わります。季節によって備えも変わってきます。夏は熱中症対策が必要で、冬は低体温症への備えが欠かせません。胆振東部地震のような大停電が冬に起きたらどうなるか。何が必要になるか。是非、普段の生活の中で、できる備えを少しずつ少しずつ進めていただければと思います。
千島海溝沿いの巨大地震と津波、北海道の被害想定などについては、こちら。
「始動!NHK北海道の太平洋防災プロジェクト」
神門アナウンサー担当のラジオ番組「釧路根室十勝のすべて」
放送内容はこちら。