NHK札幌放送局

地熱資源と温泉の関係を探れ!

番組スタッフ

2021年5月31日(月)午後5時28分 更新

   「地熱発電の開発によって、周辺の温泉の湯量が減ってしまうのではないか?」
 「地熱発電で、温泉の温度が下がったり、成分が変わったりすることはないのか?」 

前回もお伝えしたように、地熱発電が温泉に与える影響を懸念する声は各地で起こっています。それが、日本で地熱発電の開発がなかなか進まない一つの要因になっています。

前回ご紹介したように、地熱資源に過度な負担を与えないように、発電に使用する蒸気・熱水の量をコントロールすることは大切なことです。

さらに、「地熱発電に使う資源」と「温泉」が、どのような関係にあるのか、知ることも大切です。もし発電に使う資源と温泉がつながっていたら、発電が温泉に与える可能性が高まるからです。

では、どのようにして「地熱発電に使う資源」と「温泉」との関係を推定していくのでしょうか。

科学的なデータが議論のベース

多くの場合、

・地下で温泉のお湯が溜まっている「温泉帯水層」は、数百mと浅い所
・地熱発電に使う「地熱貯留層」は、1000m~3000mと非常に深い所

にあり、位置する場所が違います。

その間に、水を通しにくい層があって、

・双方が独立している場合(独立型)
・熱だけが伝わって温泉を温めている場合(伝導過熱型)

地熱発電の影響がでることはほとんどないと考えられています。

一方で、

・双方が同じ地熱資源を使っているケース(同一熱水型)
・地熱貯留層の一部の熱水がにじみ出して、温泉帯水層に供給されている場合(熱水滲出型)

温泉に影響が出ないとも限りません。

発電に蒸気や熱水を使いすぎれば温泉の湯量が減るかもしれません。また、発電後に地中に返される水が地中の熱資源を冷やしてしまえば、温泉の温度も下がってしまう恐れがあります。

双方の関係は、様々な技術を使って推定されていきます。

例えば、電磁場を計測する方法です。電磁場を測ることで、地下の地層の電気の通りやすさが分かります。

電気の通りやすい所は、粘土などを含んだ「水を通しにくい地層」である可能性が高いと考えられています。

その下に、この粘土質の地層と比べて電気の通りにくい所があると、蒸気や熱水を含んだ「地熱貯留層」の可能性があるとされています。

下の図では、

・赤い領域が、電気を通しやすい地層=水を通しにくい地層
・その下にある青色の領域が、やや電気を通しにくい所=地熱貯留層

ではないかと推定されます。

そして、水を通しにくい地層が、「地熱貯留層」と「温泉のお湯が溜まっている温泉帯水層」の間に広がっていれば、双方を分離する役割を期待できるのです。

さらに、「地熱貯留層の熱水の成分」と「温泉の成分」を比較することでも、双方の関係が推定できるといいます。

例えば、地熱貯留層の熱水には、NaCl(塩化ナトリウム)が多く含まれています。このため、温泉にCl⁻(塩素イオン)が多く含まれる場合、地熱貯留層の熱水が温泉にも含まれている可能性があります。

つまり

・地熱発電と温泉が、同じ地熱資源を使っているケース
・地熱貯留層の一部の熱水がにじみ出して、温泉帯水層に入っているケース

である可能性を考えなくてはいけません。

こうした複数の情報を組み合わせながら、「発電に使う地熱貯留層」と「温泉」との関係を判断していきます。そして、互いに関係していることが推定される場合には、蒸気や熱水の使用について、より慎重な計画が求められることになります。

歴史を振り返ると、地熱発電の黎明期には、「地熱貯留層と温泉をくみ上げる層は、深さが違う。間に水を通さない層があるから関係はない」という問答無用の説明をしていた開発事業者もあったそうです。それが、住民の不信を招き、現在まで尾を引いている面があるといいます。

一方で、温泉への影響を問題視する側も、科学的な関係を理解せずに反対の声だけを上げるケースがあったのではないか、という指摘があります。(日本地熱学会「地熱発電と温泉利用との共生を目指して」2010年)

北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 主査の岡大輔さんは、こうした反省を踏まえ、地熱発電事業者と温泉事業者の双方が、互いの意見をすり合わせていくための環境づくりが大事だと訴えます。

地熱開発の事業者は、できる限りの調査を行って、その結果をオープンにする。そして、データの意味を分かりやすく住民に説明して、理解してもらえるよう努力することが必要です。一方で、温泉事業者側も、開発事業者の説明に耳を傾け、疑問があれば聞いてみる。
そんな風に、科学的な情報をもとにお互いが意見を交わしながら、信頼関係を作り、住民の皆さんの十分納得できる開発計画を探っていくことが、求められているのではないでしょうか。

モニタリングの継続も大事

事前に様々な調査を行う中で、地熱貯留層と温泉との関係を探ることはとても大切です。一方で、どこまで調べても、実際に開発をしてみると、想定外のことが起こる可能性も否定できません。

そこで、開発にあたって、温泉を常にモニタリングし、もし変化が現れたら早急に原因を探り対策を取ることが求められます。

恵山での地熱発電開発でも、すでに温泉のモニタリングは始まっています。

恵山の麓で温泉旅館を営む原田正男さんです。

この温泉の開湯は、今から約90年前の昭和7年。泉質は、酸性の強い「酸性みょうばん・緑ばん泉」です。高い殺菌作用があり、皮膚病にも効果があるとされています。このお湯を求めて、全国各地から熱狂的なファンが訪れます。

この温泉の源泉は、地熱発電の開発を行う場所から外輪山を隔てた所にあります。

開発をする会社は、試掘を行う前から、原田さんのもとを訪れ、計画の内容を丁寧に説明しました。さらに、工事の影響が出ていないことを確認するために、温泉のモニタリングをしていきたいと伝えました。

そして、工事が始まる前から、月1~2回ほどのペースで温泉の調査を行い、今もそのデータを原田さんに渡しています。

データは、温泉の湯量や温度、成分など多岐にわたります。例えば、湯量については降水量、温度については気温のデータも併記しながら、注意深くその変化を見守っています。

これまでの工事で、温泉に変化は起こっていません。

こうした会社側の姿勢について、原田さんは、次のように話しています。

私たちの源泉と発電で使う資源のある場所の深さは全く違うし、影響は恐らくないだろうと思ってはいるんですが、万が一のことがあったら…という気持ちはあったんです。
でも、とても丁寧な説明を会社の人がしてくれますし、客観的なデータもきちんと出してくれるので、もし何かあったとしても、これをベースに話し合えるという安心感がありますね。
あと、今までは、温泉のデータを自分でこんなにこまめに取っていなかったので、季節変動など温泉の状況を常に知ることができて、助かっていますよ。

恵山で開発を行っている会社は、温泉成分を調査し、資源の成り立ちの仮説を立てて、地熱開発が温泉に影響しないと予測しています。それでも掘削中や噴気試験中の分析結果を見るのはドキドキすると、プロジェクトマネージャーの菊地洋平さんは、言います。

やはり地下ですから、絶対大丈夫とは言い切れません。ですから、どういう根拠に基づいて地下構造を考えているのか、万が一 影響が疑われる事象が発生した場合にどう評価するのか、予め地域関係者の皆さまに共有させていただくことが、地域資源を使わせていただく私たちの重要な責務の一つだと考えています。

「もしも」に事前に備える 

温泉に影響が出た場合の時のことを考え、それに備えようという動きも出始めています。

東京海上日動火災保険では、2016年から、地熱発電事業者を対象とした保険を販売しています。

補償の対象となるのは、温泉が枯渇したり泉質が変化したりした場合に 地熱発電との因果関係を調査するための費用、そして、調査の結果 地熱発電が原因だと判明した時に 温泉事業者の逸失利益について、地熱発電事業者が負担する賠償金です。

ニュージーランド・フィリピン・イタリア・アメリカなど地熱発電が盛んな国で、市場や温泉への悪影響を含めた事故の調査などを行いながら、商品を開発しました。

この保険会社によりますと、昨年度の成約件数は数件程度でしたが、最近は、再生可能エネルギーに対する社会的な期待が高まっていることもあり、問い合わせや保険加入の検討に入る事業者の数が、従来の倍になってきているといいます。

長年、地熱発電の現場を見てきた九州大学名誉教授の江原幸雄さんは、こうした保険などを活用しながら、万が一温泉に影響が出た場合に事業者がどのような対応をするのか、補償を含めた取り決めを文書で交わしておくことも重要だと指摘します。

多くの地熱発電事業者が加盟する日本地熱協会でも、取り決めを事前に交わすよう推奨していて、業界全体がその方向に向かおうとしています。
もちろん科学的な調査を徹底的に行い、影響が出ないだろうという場所と方法を選定することは大事です。その上で「もしもの時」の対応を事前に決めておくことが、温泉事業者を含めた地元住民の安心にもつながって、地熱発電を前に進める大きな力になると思います。

エネルギー取材班
2021年5月31日

※この記事に関するご意見やご感想、関連する情報のご提供などがありましたら、NHK北海道のシラベルカまで、ご投稿ください。

この記事は、3月19日に放送した「北海道道」の取材成果をもとに作成しています。

継続取材の一連の記事は、こちらからご覧いただけます

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