NHK札幌放送局

“変動を抑えろ” 蓄電池に新たな可能性

ほっとニュースweb

2022年5月25日(水)午後5時22分 更新

再生可能エネルギーの拡大を阻む、「不安定」という問題。

太陽光や風力は発電量が「お天気任せ」のため、需要と供給がうまくマッチしません。その解決のため、改めて「蓄電池」が注目されています。有望なビジネスになるとみて、道内では投資の計画が続々と持ち上がっています。

どうして今、蓄電池への投資が活発になっているのか。その1つ、大手商社の動きを追いました。 

千歳に計画 巨大な蓄電池

5月中旬、千歳市の工業団地を訪れました。

「こちらが実際のサイトになります」と大手商社「住友商事」の担当者が示したのは、何もない“さら地”でした。

この団地の一画、広さおよそ7500平方メートルの土地に、巨大な蓄電池を建設するというのです。

容量は2万キロワットアワー以上。標準的な家庭で、およそ2500世帯が1日に使う電力を十分賄えるほどの量にあたります。6月に着工し、来年の夏ごろに完成する見通しです。

完成イメージ(住友商事 提供)

この蓄電池が、「不安定」という再生可能エネルギーの弱点を補うと期待されています。

蓄電池の役割は

この写真は、太陽光発電とともに活用されている蓄電池の状況を示すグラフです。

写真は横軸、左端から右端までおよそ30分で、黄色のグラフが太陽光の発電量を示しています。太陽光での発電量は、日光が遮られると急激に減っています。わずか30分の間に、激しく変動しています。

青のグラフは蓄電池の状況です。下に出ているときは「充電」、上に出ているときが「放電」していることを示しています。太陽光発電が盛んな時は充電し、太陽光の発電が減ると放電していることが分かります。

電気の供給が大きく変動すると周波数が乱れ、停電につながる恐れがあります。蓄電池は小刻みな変動をならす役割を果たし、周波数の安定に貢献します。

今回、会社が設置する蓄電池は特定の施設ではなく、送電線に直接つなぎます。このため道内全体の再エネの変動をならすことが可能です。会社によりますと、蓄電池を送電線に直接つなぎ収益をあげる事業はこれまで国内ではなかったといいます。

各社が投資に二の足を踏んでいたのは、蓄電池は電気を生んでいる「発電」にあたるのか、それとも電気を使っている「需要」にあたるのか、法律上、不明確だったためです。

それがことし5月、電気事業法が改正され、蓄電池からの放電も「発電」と位置づけられました。余っているときに安く電気を仕入れ、足りないときに高く電気を売ることが容易になり、蓄電池が価格の差を利益にすることができるようになります。さらに2024年には、短期間に変動を調整するための電力を取り引きする市場も本格的にスタートし、より収益を得るチャンスが増えます。

南の島で重ねた7年間の実験

とはいえ、本当にビジネスになるのか。その可能性を探るため、住友商事が7年前の2015年から実験を行ってきた場所があります。

千歳から南西におよそ1600キロ離れた鹿児島県・甑島。

薩摩半島から西におよそ30キロにあり、3つの島が連なっています。荒々しい断崖をはじめとした独特の景観に加えて、キビナゴ漁など水産業が盛んな島です。

島には太陽光発電の設備があります。しかし、小さな島だと少しの発電量の変化が周波数の不安定化につながるだけに、変動をならす蓄電池のニーズがありました。

鹿児島県・甑島

港で高速船を降りてから、車で15分。山道を抜けると、蓄電池が設けられているという閉校した小学校が見えてきました。

車から降りて敷地に入ってみると、目に飛び込んできたのがグラウンドに敷き詰められたソーラーパネルです。その隣に蓄電池が入ったコンテナが並んでいました。

今回の実験のポイントは、どうコストを抑えるかにありました。いかにニーズがあっても、コストを回収できなければ、ビジネスにはなり得ません。実現のカギとなっているのが、この蓄電池にあるというのです。

コスト削減のカギは“中古”

「蓄電池にいったいどんな工夫が?」現地に来ていた住友商事ゼロエミッション・ソリューション事業部の藤田康弘部長に尋ねたところ、コンテナを1つ開けて、こう説明を受けました。

「これは電気自動車の蓄電池です」

中にはあったのは電気自動車の“中古”バッテリー。1つのコンテナに12個入っています。別の2つのコンテナにも同じ数が入っていて、あわせて36個、容量は600キロワットアワーあります。

住友商事 藤田康弘 ゼロエミッション・ソリューション事業部長
「電気自動車で使い終わったバッテリーを、もし用途がなければ捨てられるはずなんですけれども、それを回収して、こちらの甑島に集約をしています。現在、この甑島には全国7か所から回収してきた電池を集め、今、蓄電事業として運用しています」

閉校したグラウンドに設置された蓄電池のコンテナ(左)

自動車用には使えなくなった中古のバッテリーでも、容量は70%から80%残っています。複数組み合わせれば、まだ蓄電池として十分使うことができるといいます。

会社側は具体的な投資額を明らかにしていませんが、新品よりも安く調達できることから、初期費用を抑えることが可能になります。

コンテナ内部のバッテリー

また、運用面での工夫もあります。中古のバッテリーはできるだけ長く使ったほうが経済的ですが、劣化が進むと蓄電池としての機能低下を引き起こします。

適切なタイミングを図るため、バッテリーがどの程度、劣化しているか、東京の本社からモニターで監視。効率的なバッテリーの利用を実現しています。

会社では、7年間、実験を重ねたことで、千歳では甑島の半分程度のコストで事業を展開できると自信を示しています。

住友商事 藤田康弘 ゼロエミッション・ソリューション事業部長
「電気自動車で使われていた電池を蓄電システムとして活用するという取り組みはあまりない。他社のシステムに比べると、価格競争力は十分にあると思っている。北海道で事業の事業性、信頼性を確認して、それが検証できたら、それ以外の地域にも順次拡大していきたい」

住友商事 藤田康弘 ゼロエミッション・ソリューション事業部長

蓄電池の整備計画が続々と

道内では、電力の小売りを手がける「グローバルエンジニアリング」(本社・福岡県)が千歳市に、エネルギー会社「ミツウロコグループホールディングス」(本社・東京)の子会社が北広島市に、いずれもことしの運用開始を目指して大型の蓄電池を設ける予定です。

両社とも、住友商事と同様、道内で再エネが増え、蓄電池の事業化のチャンスが膨らむと見込んだ投資です。

こうした動きについて電力と経済の関係に詳しい東京大学社会科学研究所の松村敏弘教授は、「投資が相次ぐことで競争が生まれるので、再エネの変動を吸収するためにかかるコストが減っていくことが期待される」としながらも「頭打ちになることも予想される」と指摘しています。

東京大学社会科学研究所 松村敏弘 教授
「あまりに蓄電池の事業者が増えすぎると、安く仕入れて高く売るというビジネスが成立しにくくなり、一定の規模で頭打ちになることも予想されます。蓄電池が重要な役割を果たすことは間違いありませんが、蓄電池ばかりに頼るのではなく、道内外を結ぶ連系線の活用や余剰電力の吸収に役立つ水素の製造など、ほかの方法でも対策を講じていく必要があります」 

蓄電池が大きな可能性を持っている一方で、それだけに頼るのは限界があることも知っておく必要がありそうです。

(札幌放送局 岡﨑琢真)
2022年5月26日

再エネ王国・北海道 ~課題と可能性は~
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