いまから22年前の3月31日、有珠山が噴火しました。定期的に噴火を繰り返し、ふもとの地域では次の噴火に備えた減災活動が行われています。そこで1人の高校生に出会いました。噴火のあった22年前、もちろん彼女はまだ生まれていませんが、将来は災害看護について学びたいと目を輝かせて話してくれました。
(室蘭放送局 小林研太)
前回の噴火で犠牲者は出なかったが…
2000年3月31日午後1時7分。有珠山の西側の山麓で噴火が発生。約75km離れた千歳市まで届くほど広範囲に火山灰が降りました。
巨大な噴石などで850棟の建物が壊れましたが、ふもとの住民約1万6000人はすでに避難を終えていて、犠牲者はいませんでした。

伊達市危機管理室 足立勇二室長
「伊達市では1977年にも大きな噴火を経験しています。そのときの噴火の大きさをまだ市民の皆さんが記憶されているということと、北海道大学の岡田弘名誉教授が的確に情報提供をしてくれたこともあり、避難がスムーズにいったと考えています。ただ、そのときの噴火を経験されている方々が少なくなってきている現状もあります。地道に防災訓練や防災講話を続けて意識を高めていく努力をしていきたい」
伊達市の防災士・島川弘美さんは、有珠山の噴火後、ある課題を目にしていました。噴火の直接的な被害で亡くなった方はいなかったものの、避難所暮らしのなかで体調を崩す人が相次いでいたのです。
島川さんは、災害には3つの準備が必要だと感じたそうです。それは「物の準備」「環境の準備」「心身の準備」。
これらの準備を日頃から意識してもらおうと、噴火から数年後には地域の会合に出向いて講座を開いてきました。
防災学習に力を入れる伊達緑丘高校
3月中旬、島川さんが向かったのは伊達市にある伊達緑丘高校。この学校では4年前から防災学習に力を入れていて、火山マイスターの資格を持つ先生もいます。
島川さんもこれまでに数回、不定期のゲスト講師として招かれていました。
この日の学習会では集まった13人の生徒が3つのグループに分かれて、有珠山噴火に備えて自分たちができることのアイデアを出し合いました。

生徒「災害が起こったあとについて考えてみる?スマホ触りすぎないことって大事じゃない?スマホないと生きていけないよね」
島川さん「たとえばデマとかあるじゃない?デマ情報に流されないためには聞いたことをどうしたらデマじゃないか見極められるかな?」
さまざまなアイデアが飛び交うなか、島川さんは噴火の経験を踏まえてよりリアルな問題提起をしていきます。
すると高校生たちの想像力が深まり、それぞれの答えを見つけ出そうと授業は進んでいきました。
私たちも他人事ではない!
授業に参加していた生徒のひとり、佐藤優月さんはとくに防災の取り組みに熱心でした。
去年、自然との共生をテーマにオンラインで開かれた「高校生ちきゅうワークショップ2021」では、伊達緑丘高校の代表として有珠山噴火に対する学習内容を発表しました。
佐藤さんも1年生の頃から学校で防災授業を受けていて、それが関心を持つきっかけになったと言います。

佐藤優月さん
「当初は防災に興味がなかったのですが、(担任の)黒田聖乃先生に『防災について勉強してみない?』と話をもらいました。少しずつ取り組んでいくうちに『他人事ではない!』と感じるようになりました。
2000年の噴火のときは避難に成功していますが、成功したことで『次の噴火では大丈夫だろう』と思ってしまい、住民どうしが伝え合うことをおろそかにしていては次の噴火で避難に失敗してしまうと思います。
みんなで情報交換をして、常に学び合っていくことが大切だと思っています」
取材後記
「学校に感謝したい」と話してくれた佐藤さんですが、ゲスト講師だった島川さんも学校の防災学習に関われてとても感謝していると話していました。
こうして噴火を目の前で経験した人が噴火を知らない世代を育て、さらに地域の防災力が高まっていく様子を見ると、私にももっとできることはないかと考えずにはいられません。
有珠山の噴火に限ったことではなく、さまざまな自然災害が頻発している昨今ですが、一人ひとりが今以上の取り組みをして周りに広げていくことが求められているのだと感じました。
(2022年3月30日 胆振日高地方向け放送)
(4月4日 北海道向け放送)